原発とは何か?-⑦

 東京電力の決算月は3月である。原発事故があったのは3月11日、平成23年3月期の決算には原発事故が必ず組み込まれることになる。

 私は東京電力の平成23年3月期の決算書とそれに対する会計監査人の監査報告書に注目していた。東京電力が3.11の事故の結果を踏まえて一体どのような決算を組むのか、監査人がそれに対してどのような監査意見を表明するのか、興味津々であった。



 平成23年6月29日に公表された決算書と監査報告書は実に意外なものであった。

 まず決算書について言えば、前々回(「原発とは何か?-⑤」参照)記したように、1兆205億円の災害特別損失が計上されているものの、いまだ1兆6,024億円もの純資産があることになっている。「おかしい!」 大幅な債務超過になっていなければおかしいのである。

 何故か。東京電力の事故前の純資産額は2兆5,164億円(平成22年3月期)であるのに対して、事故による損失は損害賠償額を含めれば、10兆円とも20兆円とも見込まれていたからだ。

 そこで、平成23年3月期の有価証券報告書を詳しくチェックしてみた。その結果、10兆円以上とも言われている事故による損害賠償金が全く計上されていないことが判明した。しかも、計上されていない理由が不可解である。
 東京電力は、原子力損害の賠償金について、「後発事象」であると言ってみたり、あるいは「偶発債務」であると言ったりして、決算書を組む時点では、賠償額を合理的に見積もることができないから計上していないとしているからだ。
 前述の通り、福島第一原子力発電所の事故は平成23年3月期の期中に起ったことである。従って、この事故についての損害賠償義務は、後発事象(決算期の後で起ったことがら)でもなければ、偶発債務(現実に発生していない債務で、将来において事業の負担となる可能性のあるもの。例えば、債務の保証、係争事件に係る賠償義務など。)でもない。事故発生の時点で生じた正真正銘の負債である。
 その上、原発事故による損害賠償義務について、

「東北地方太平洋沖地震により被災した福島第一原子力発電所の事故等に関する原子力損害について、わが国の原子力損害賠償制度上、当社は原子力損害の賠償に関する法律の要件を満たす場合、賠償責任を負うこととされている。」

と述べているが誤りである。
 すでに述べたように(「原発とは何か?-⑥」参照)、原子炉の事故によって損害が生ずる場合には、原子力事業者には無過失かつ無限の損害賠償責任が課せられている。これが賠償法の基本的立場である。
 決して、「賠償法の要件を満たす場合」にのみ賠償責任を負うこととされているのではない。逆である。
 つまり、原則として無過失・無限の賠償責任を原子力事業者に課しておいて、一定の要件に該当する場合には、政府が必要な援助を行うものとされているのである(賠償法第16条第1項)。
 しかも、この援助は政府の判断でできるものではなく、「国会の議決」が必要とされている(賠償法第16条第2項)。平成23年8月3日に成立した原子力損害賠償支援機構法がそれである。

 東京電力は何故このように見え透いた小細工を敢えて有価証券報告書の上でしなければならなかったのか。子供騙しに等しい姑息(こそく)な手段を弄(ろう)しなければならなかったのは何故か。
 答えは明白だ。平成23年3月期の決算書に致命的なキズをつけたくなかったからだ。東京電力を救済するための「国会の議決」がなされるまでは、どのような策を弄しても、債務超過ということにしてはいけなかったのであろう。
 この間の事情は、決算書と表裏一体の関係にある会計監査人の監査報告書を見れば歴然とする。この監査報告書、理解に苦しむものであり、独立した立場からのものとはほど遠いシロモノであると言えようか。

***【追記】
 菅直人さん、お役目ごくろうさまでした。原発事故対応については、市民運動を原点とする菅さんならではの立派なものでした。自民党の人達はもちろんのこと、与党の人達も菅さん以外の人であれば、原発が抱えているドロドロとした裏事情がこれほどまでに明らかになることはなかったでしょう。市民運動家の目線、つまり国民目線で、いわれなき集中攻撃を受けながらも総理の責を全うされたことに心からの敬意を表明します。
                                          山根治

(この項つづく)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“自民党 原発がらみの 献金(カネ)戻せ” -佐賀、吉川ヒデる。

 

(毎日新聞、平成23年8月6日付、仲畑流万能川柳より)

(“原発は カネの成る木で 50年”。)

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