原発とは何か?-⑤

 前回(原発とは何か?-④ )、原発政策の大義名分の一つであるエネルギー供給の安定性が、虚言(たわごと)である二つの理由について述べた。

 今回はこれに加えて、エネルギー供給の当事者である電力会社の経営に内在する問題点、つまりエネルギー供給システム自体に重大な欠陥があったことについて述べる。

 エネルギー供給の安定性を確保するためには、事業主体である電力会社の供給体制が安定していなければならない。経営の安定性といってもいいかもしれない。

 このたびの事故によって焙り出された東京電力の経営実態を見ていると、経営の安定性が全く考慮されていなかったことが判明した。



 3.11の時点で、東京電力は経営的に破綻した。

 平成23年3月期の東京電力の有価証券報告書を見ると、表向き純資産が1兆6,024億円(連結ベース)あることになっているが、その実態は大幅な債務超過である。

 何故か。事故による損害賠償額が全く計上されていないからだ。10兆円を超えるとも言われている損害賠償金が全く計上されていないのである。

 また、原子炉の解体費用を含む事故処理費として計上されているのは、1兆205億円(災害特別損失)だ。

 この災害特別損失の内訳は次の通りである。

^^t
^cx^NO.
^cx^内訳
^cx^金額
^^
^1.
^原子炉の冷却や放射性物質の飛散防止の安全性の確保に要するコスト
^rr^4,262億円
^^
^2.
^福島第一原発1~4号機の廃止に関するコスト
^rr^2,070億円
^^
^3.
^福島第一原発5、6号機及び福島第一原発の原子炉の安全な
冷温停止状態を維持するためのコスト
^rr^2,118億円
^^
^4.
^福島第一原発7,8号機の増設計画の中止に伴うコスト
^rr^396億円
^^
^5.
^火力発電所の復旧に要するコスト
^rr^497億円
^^
^6.
^その他
^rr^862億円
^^
^cx^合計
^cx^ 
^cx^1兆  205億円
^^/
 上記内訳を見るに、このたびの事故に直接関係のない、3.~6.のコスト見積りについては当らずとも遠からずといったところであろう。
 しかし、1.と2.については事情が異なる。いまだ事故の収拾見通しが立っていないだけではない。日を追うにつれて、これまで隠蔽されていた事故の深刻な実態が次から次へと明らかになり、本当のところこの原発事故は一体どのようなものであるのか、この原稿を執筆している時点でさえ事故の全体像が明確になっていないのである。
 有価証券報告書が公表されたのは平成23年6月29日、今から2ヶ月も前のことだ。現時点でさえ事故の実体が不明確であるから、6月末の時点では尚更のことである。
 事故の実体が正確に把握されなければ収拾の見通しを立てることはできない。そのような状況のもとでは、収拾に要するコストの合理的な見積もりなどできるはずがない。

 原子炉の解体費用とか災害損失については、従来から引当金として計上がなされている。平成22年3月末時点で計上されている、
   1).原子力発電施設解体引当金 5,100億円
   2).災害損失引当金 928億円
がそれである。合せても僅か6,028億円だ。
 このたびの事故をうけて東京電力は、これらの引当金の積み増しとして、災害特別損失の1.の4,262億円と2.の2,070億円、合計6,332億円を計上している。
 つまり、従来の引当金6,028億円(※上記1).と2).の合計額)と今期特別損失として積み増した6,332億円(※上記1.と2.の合計額)との合計額1兆2,360億円が事故の後始末のために用意されていることになる。それらは、貸借対照表に計上されている災害損失引当金8,317億円と資産除去債務7,918億円の中に含まれている。

 1兆2,360億円。
 この金額が合理的に見積もられたものでないことは、明らかである。6月末の時点で、事故の実態が矮小化されており、従って、収拾に要する費用の見積もりも過少になされていると考えられるからだ。

 以上のように、10兆円を超えると言われている損害賠償金が全く計上されていないことに加え、事故収拾費用の見積り計上も過少である蓋然性が高い。
 これらを加味すれば、東京電力の純資産の1兆6,024億円は軽く吹き飛び、東京電力の財務状態は逆に10兆円以上の債務超過にあると見て差しつかえない。さきに、東京電力は、3.11の時点で経営破綻したと記した所以(ゆえん)である。

(この項つづく)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“小指からやらせまでやる忙しさ” -戸田市、椎橋重雄。

(朝日新聞、平成23年8月2日付、朝日川柳より)

(選者評に曰く、保安院。保安院のホントの仕事は何?)

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