裏金アラカルト 1

 このところ防衛省をめぐる疑惑が取り沙汰され、なんともにぎやかなことです。いつものように、その筋から小間切れに情報がリークされ、その挙句、守屋武昌氏という一人の前事務次官が、その妻と共に収賄罪で逮捕されました。検察が描いているストーリーが政治家にまで及ぶかどうかについて各マスコミの憶測記事が乱れ飛んでいますが、仮にそこまで及んだにしても氷山の一角が明らかになるだけではないかと思われます。

 年間4兆8千億円という防衛予算のうち武器・航空機・艦船などの調達費9千億円を含む、防衛装備品の調達額は2兆円。その70%が随意契約であったと言われています。競争入札でさえ、怪しげな天の声が発せられたり、談合がなされたりして、少なからぬ税金が闇から闇へと消えているのですから、随意契約であれば推して知るべし、その上に国防機密という錦の御旗があるのですから、まさに何でもありの世界が展開されたと考えても、おかしくありません。

 山田洋行という商社がアメリカのメーカーからの請求書を改竄(かいざん)して水増ししたとされている件についても、果して、さほど大きくない防衛商社である山田洋行が勝手にできることでしょうか。石破茂防衛大臣にいたっては詐欺にあたるのではないかとまで言っていますが、一方の当事者である防衛省が本当に騙されていたのでしょうか。江戸時代のナントカ代官のような顔をした石破氏が渋面を作って、「詐欺罪の構成要件にあたるかどうか検討しなければいけない」などとしたり顔をしてコメントするのを、白々しい思いで見ているのは私だけでしょうか。野党などの外野席に対しては防衛機密を盾にして取引の詳細を隠蔽することもできるでしょうが、防衛省は当事者ですからその内容を当然のことながら知悉していますし、長年国防関連を一手に扱っている役所ですから、報道されているような水増し請求が見破れないはずがありません。メーカーの請求書が改竄されていたとされているのであれば、メーカーに確認すれば直ちに分かることですし、あるいはまた、確認するまでもなく、長年の間防衛という専門分野で仕事をしている訳ですから、直観的に分かるはずです。

 このように考えてきますと、このたび明らかにされた山田洋行の「不正請求事件」は、双方の当事者が不正の事実を十分に知った上で仕組まれたものではないかと考えたくもなります。かつて山田洋行が同じような水増し請求をして発覚したものの、取引停止というような行政処分がなされずに、不問に付された事実があるのは、もっぱら守屋氏が握りつぶしたのではないかとされているようですが、真実は、一方の当事者である山田洋行だけを処分することができなかったからではないでしょうか。このたびも、元次官であった守屋氏だけが悪者にされているようですが、いくら次官とはいえ一人でできることではありません。背後に複数の政治家を含むフィクサーがうごめいている組織的なものが存在するのではないかと思われます。

 守屋氏に対する、ゴルフ接待とか料亭接待、金銭、ゴルフセットなどの贈り物、あるいは、十数人の政治家に対する、山田洋行の献金リストなどがスキャンダラスに取り上げられています。これらのものは、それなりに問題があるかもしれませんが、それらは仮に表沙汰になったとしても2人か3人がトカゲのシッポ切りに会うだけのことで、実際には防衛予算の規模から考えて桁違いの闇の金が動いている可能性があります。たとえば上記の調達費2兆円のうちの70%(1兆4千億円)の随意契約があるとして、その1%は140億円、5%は700億円です。契約額の1%から5%位までのものですと、もっともらしい契約書を作り上げてどのような形ででも裏金を創り出すことは可能です。裏金を捻出するインチキ手法については、具体的な方法が10でも20でも直ちに思い浮かびます。(「裏金について -1 」を参照)
 私には、武器供給元であるアメリカ側も深く関与し、日米双方の政治家を含むフィクサーが舞台回しをして、官民一体となって日本の税金の収奪を狙った構図が様々に思い浮かんでくるのです。

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 ここで一句。

“実年齢 気分年齢とのギャップ” -大阪、あらきみやこ。

 

(毎日新聞、平成19年11月25日号より)

(“碁仇と 年を忘れて 果し合い”、“なまいきな 碁仇烏鷺烏鷺(うろうろ) 盤の上”、“気持だけ 万年青年 盤の側”。)

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