ホリエモンの錬金術 -6

堀江さんの現在の資産の主なものは、ライブドアの株式220,975,000株(平成16年9月30日現在。一株340円で計算すると、751億円)です。彼が自らの著書の中で、「モンゴルの国家予算に匹敵する」と豪語しているものです。

このような莫大な資産が、わずか5年ほどの間に形成されているのです。しかも、5年ほど前の堀江さんは、ほとんど無一文の状態でした。
堀江さんはこの資産をどのようにして形成していったのか、正当な手段によって稼いだものなのか、これを明らかにするのが私の目的です。
私の結論は、既に述べたように3つのトリックを用いて株式市場を欺き、多くの一般投資家から騙し盗ったものである、ということです。
まず始めに、この220,975,000株のルーツを辿ってみます。取り敢えずライブドアと堀江さんが提出し、開示している届出目録書、有報、あるいは報告書(大量保有報告書)が正しいものと仮定して一覧表にしてみますと、●資料Aのようになります。
この表によって判ることは、次の3つです。
+5年前のマザーズ上場時点では、7,920株であり、その取得資金は269,000千円(内訳、自己資金29,000千円、有馬純一郎さんからの借入金240,000千円)であること。
+その後、4回にわたって持株を売却し、661,580千円の資金を回収し、1回だけ買い増して60千円の資金を投入していること。
+1.と2.の結果、取得資金(=投入資金)は全て回収し、株の移動の結果として、392,520千円のキャッシュと220,975,000株が手許に残ったこと。
以上が、表向きの堀江さんの持株の移動状況であり、株に関するキャッシュの流れです。
ここで注目されるのが、資料Aの6.~8.に記した株式の移動です。これは、ホリエモンの持株の大半を野村証券に売り渡し、1,600株を売りきりにして、残りの株式は翌日にそっくり買い戻したものです。
野村証券が一日だけ、ライブドア(当時は株式会社オン・ザ・エッヂ)の筆頭株主になっているのですが、何のためにこのような取引がなされたのか私には理解できません。
この不思議な移動の趣旨はさておき、私がなんとなくひっかかるのが、平成14年8月8日に野村証券に1600株を売り切りにして6億円余りを手にするまで、自社株の売却収入がわずか23百万円ほどしかないことです。ホリエモンは、上場後この2年4ヶ月の間、株の売却収入を本当にこれ以外に得ていないのでしょうか。
新規上場の場合、オーナー経営者は通常、持株の一部を市場に放出して株式の流通量を増やすと共に、創業者利得の一部を確保するものですが、ホリエモンの株式の移動状況を見る限り、それが見られないのです。
この疑念は、ホリエモンの3つのトリックを追跡していく過程で浮かんできた今一つの問題(借名株の存在の可能性)と深く関連しています。
借名株とは、株式の所有名義を他人に仮装している株式のことで、西武鉄道の堤義明さんが証取法違反で罪を問われているのが、インサイダー取引と並んで、この借名株の存在でした。
この問題は、私が既にその概要を説明した3つの騙しのトリックと同様に、単なる疑念とか思いつきで言えることではありません。私の推断の根拠は回を改めて後ほど詳述いたします。

次に、5年前の上場時点でのホリエモンの持株7,920株のルーツを辿ってみることにします。
堀江さんは平成8年4月に、有限会社オン・ザ・エッヂを設立し、代表取締役に就任します。出資金600万円は、有馬晶子さん(現、株式会社クリアキューブ代表取締役)の父有馬純一郎さん(当時、ブルテルインターナショナル株式会社代表取締役)からの借入金で賄ったようです。社員は、堀江貴文、有馬晶子、有馬純一郎の三名。
この時の出資金の構成は次の通りです(H08.04.22。推計)。
^^t
^No.
^氏名
^出資持分
^^
^1.
^堀江貴文
^rr^60口
^^
^2.
^有馬晶子
^rr^40口
^^
^3.
^有馬純一郎
^rr^20口
^^
^cc” colspan=”2^合計
^rr^120口
^^/
翌9年7月、株式会社オン・ザ・エッヂ(以下、会社)に組織変更。同時に400万円の増資を行ない、資本金1,000万円、株式数200株に。このときの400万円の増資は、第三者割当てで、割当先は堀江さん、有馬晶子さんの2名。一株5万円で、現物出資。上場時の目論見書にもその後の有報にも現物出資とされてはいますが、実際には、現物出資ではなく、200万円は堀江さんの会社に対する貸付金を資本金に振り替えたものであり、200万円は、有馬純一郎さんからの支援によるもののようです。
この時の株主構成は次の通りです(H09.07.01。推計)。
^^t
^No.
^氏名
^株数
^^
^1.
^堀江貴文
^rr^100株
^^
^2.
^有馬晶子
^rr^80株
^^
^3.
^有馬純一郎
^rr^20株
^^
^cc” colspan=”2^合計
^rr^200株
^^/
実は、この200株の株主構成は、設立時の120口の出資者構成とともに、開示情報のどこにもディスクローズされていません。私も調べ始めてからしばらくの間判りませんでした。
堀江さんの上場直前の持株は株式公開情報に7,920株と開示されていますので、この7,920株のルーツを辿ってみたのですが、開示情報をいくらひっくり返してみてもこの200株の株主構成が完全には判明しないのです。
そこで上場直前の9名の株主(株数12,000株)全員の持株のルーツを辿ってみた(資料Bにルーツを辿った結果をまとめました)ところ、株式公開情報の中の「特別利害関係者の株式移動状況」の記載(新株発行届出目論見書73ページ)に誤りがあるらしいことが判ってきました。資料Aと同様に資料Bも提出された法定書類が正しいものと仮定して作成したものです。
つまり、平成10年4月30日から同11年12月17日までの間に、7回の株の移動が開示されているのですが、2回分の株の移動が漏れているようなのです。資料Bの注(6)です。
この間、堀江さんは、「インセンティブの付与」という理由で、自分の持株の中から、和井内修司さんに8株、小飼弾さんに4株、ともに一株5万円で譲渡しています(平成10年8月3日)。
その後会社は、平成11年8月3日に、発行価格一株5万円で1対3の有償株主割当増資を行なっています。この時、和井内さんと小飼さんに割り当てられたはずのそれぞれ24株、12株の株式が二人の手許にはいかずに、どうやら堀江さんのところに行っているようなのです。つまり、2人に割り当てられた24株と12株は、割当増資の後、一株5万円で堀江さんに譲渡されたのではないかと考えられるのです。
以上の私の推断が正しいものとすれば、この2回の株式の移動、つまり和井内→堀江への24株、小飼→堀江への12株の移動が漏れていることになります。
この記載漏れは、単なるうっかりミスではないようです。株式の移動状況に付された注記の中に、明らかに事実に反する虚偽の記載(同目論見書76ページ、注5。資料Bの注(8)と(9)です。詳しくは資料Cで説明)が見受けられることと相まって、トリック隠しのために敢えて記載されなかったのではないかと思われます。

以上のことは、ライブドアと堀江さん個人が開示している法定書類が、基本的には正しいものと仮定して、一つ一つ厳密にルーツを辿ってきた結果です。
しかし、それによって、いくつかの誤謬(ごびゅう)と矛盾とが見つかりましたので、それらの書類に記された事項の真否について改めて検討してみたところ、株式公開情報の中の「特別利害関係者の株式移動状況」は単に虚偽の記載が部分的に存在するのにとどまらず、全体が全くの捏造ではないかということが判明してきたのです。
つまり、上場の準備段階で、堀江さんの所有株式数が遡って捏造されたものである可能性が高まってきました。資料Bの中の注(3)、注(4)、注(6)が架空のもので、つじつま合わせに後から創り上げられた形跡があるのです。
このデータの捏造を行なったのは、ホリエモンと税理士の宮内亮治の二人であると考えられます。二人ともなんとか懸命になってつじつま合わせをしたようですが、会社の資本金とか増資に関する基本的な知識に欠けていたために、ついポロッとボロが出てしまったというのが真相のようです。

<付記>
堀江さんは、今までに何冊かの本を出版しています。
これらの本は、ウソとホントをこきまぜた面白いもので、詐話師としてのホリエモンの面目躍如といったところです。
とりわけ、「堀江貴文のカンタン!儲かる会社のつくり方」はケッサクです。
この本の初版は2004年9月7日、現在は第3版(2005年2月25日)が出されています。
この初版と第3版とを読み較べてみますと、会社を上場する前後の経緯が大幅に書き換えられていることが判ります。この本を出版した後に、誰か(おそらくは有馬晶子さんか有馬純一郎さん)にデタラメを指摘されて慌てて手直しをしたものと思われますが、第3版でも依然としてウソをついています。
「当時付き合っていた恋人」、「当時の恋人」、「別れた恋人」、「別れた彼女」という言葉が、「創業メンバー」、「大口出資者」に書き換えられ、ホリエモンとこの女性との生々しいプライバシーに関する記述が、かなりの分量で削られています。(なお、別れた元妻に関するプライバシーは、この恋人以上にひどい書き方をしているのですが、第3版では全く訂正されていません。)
私がとりわけ注目したのは、「彼女の持分は、全株数の40%になっていた」、「40%の株の時価は5億円にも達していた」、「それで無理をして、銀行から短期融資で5億円を借りた。もちろん個人としての借金である。返済は上場後という約束だった。」、「別れた彼女は私が支払った5億円を元手に、別の会社を新たに興した。」
-これらの記載が、第3版ではスッポリと削り取られていることです。
この金銭に関することは明らかに事実と異なっていますので、ホリエモンとしては削除せざるを得なかったのでしょう。厳しい抗議を受けて、アタフタしているホリエモンの姿が浮かんできます。
決算の時のドタバタといい、このアタフタといい、“コドモ”ホリエモンを象徴するものです。

平成12年の上場の前に、堀江貴文、有馬晶子、有馬純一郎の三人の間に金銭をめぐって一体何があったのでしょうか。どのようなことが三人の間で実際に話し合われたのか、株式とキャッシュの本当の流れはホリエモンが株式公開情報の中で開示している通りなのか、疑念が次から次へと浮かんでくるのです。
その結果、私は、上場時点で第三位の大株主とされている有馬純一郎名義の株式960株は、実際にはホリエモンの株式だったのではないかと考えるに至りました。
つまり、有馬純一郎さんの名前を借りた堀江貴文所有の株式ではないか、言い換えれば、上場直前に株式のスリ替えがなされているのではないか、ということです。
960株といえば、上場時に一株600万円で公募増資がなされていますので、その時の評価額は57億6千万円(600万円×960株)ですし、上場直後にその大半が慌ただしく売却され、20億円前後のキャッシュになっているものです。
この960株が借名株であり、上場直後に売却され、その売却収入である20億円前後のキャッシュが有馬純一郎さんのところにはいかず、ホリエモンのフトコロに入っているのではないか、-この私の推断は、ホリエモンが行なった3つのゴマカシのトリックに匹敵する、あるいはそれ以上に重大なことがらです。
この間の真相を知っているのは、堀江貴文、有馬晶子、有馬純一郎の三人に加えて、税理士の宮内亮治、この四人です。この四人の人達に、本当のところを聞いてみたいものですね。
興味のある方は、初版と第3版とがどのように異なっているのか読み較べてみて下さい。

知の巨人として著名な立花隆さんでさえ、初版のウソッパチを真に受けて、ホリエモンに騙された一人でした。その結果、立花さんは、ホリエモンが「高利のカネに手を出したらしい」と憶測し、「ヤミ金融」の世界とつながったのではないかと、およそピント外れの推論を展開しています。この方は、情報の選別をどのように考えているのでしょうか。驚きましたね。「[[ライブドア、西武問題で見えてきた日本の企業を蝕む新たな闇]]http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050408_yami/」(日経BP、立花隆の「メディア ソシオ・ポリティクス」2005年4月8日)
もう一人、ホリエモンの創り話に乗せられた人がいます。漆間巌さんがその人で、「堀江貴文の金脈と人脈」(“Will”、2005年5月号所収)は、相当な取材の跡がうかがえる力作なのですが、上場のいきさつについてはホリエモンの著書のウソを前提としながらも、更に曲解して記述しています。(つづく)

―― ―― ―― ―― ――

ここで一句。

“ドアの先野望陰謀見えかくれ” -松戸、オオヤマ。

 

(毎日新聞:平成17年3月7日号より)

(日本は基本的にカタギの国で、戦争を世界中にバラまいて儲けているようなどこかの大国とは違います。ホリエモンさん、一般大衆はしっかり見ていますよ。なめたら、あかんぜよ。)

 

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