国税マフィアの闇-⑦

 「工藤会」の野村悟総裁の住所は、北九州市。野村氏は多くの不動産を所有し、野村氏自身、自らの職業を駐車場経営と名乗っているという。もちろん正業である。税務上は不動産賃貸業(事業所得)の税務申告を、所轄の小倉税務署にしているはずだ。

 この小倉税務署、私にとっては因縁浅からぬ役所である。



 平成25年4月、私は福岡国税局の査察調査(相続税)の税務代理人として小倉税務署の担当者と会っている。査察官ではない税務職員に会ったのは、この人物が、それまで税務代理人となっていた税理士(TKC会員)と結託して、査察事件をデッチ上げる、いわばデッチ上げの“前さばき”をしていたからであった。

 税務当局が関与税理士と結託して脱税事件をデッチ上げたのは、この件だけではない。私が関わった案件のほとんどの場合、国税OB税理士あるいはTKC会員がデッチ上げに関わっているが、その詳細については別稿に譲る。

 小倉税務署が悪質なのは、デッチ上げの“前さばき”だけでなく、査察調査の“後始末”まで行なったことである。もちろん違法な“後始末”である。

 私は、福岡国税局の査察調査がトンデモない状態で行われていることに抗議して中止を要求すると同時に、課税については大幅な水増し認定はやめて、納得のいく過少申告額で話し合いをするように求めていた。
 しかし、私の要請はことごとく無視され、問答無用とばかりに、責任者である永田知光統括査察官は福岡地検に告発の手続をとった。
 この時告発を受理したのは塚部貴子検事だ。犯則嫌疑者を福岡地検に出頭させて被疑者としての取り調べを行ったのである。
この検事、大阪地検特捜部で、証拠の改ざんを行って、村木厚子さんを逮捕し、冤罪事件の法廷に引きずりだした検事の一人だ。それだけにインチキ捜査・威嚇捜査はお手のものだ。
塚部検事は、検察庁に呼びつけられてパニック状態に陥っている二人の被疑者に対して

「このまま山根税理士の言うことを信じて突っ張っているとどうなっても知らないよ。」

などと申し向けて脅迫し、税務代理人である私を排除しようとした。
 つまり、査察官の言う通りに素直に脱漏税額を認めて修正申告に応じたらどうだ、認めないようなら逮捕もありうるし、悪質な脱税事件として取り扱われ裁判で不利になる、即ち実刑になるかもしれないなどと脅しあげたのである。恐喝である。

 この後二人の被疑者の一人は、査察官が、

「山根税理士を切って従来の税理士(TKC会員)に修正申告をさせるならば告発を取り下げてもよい。」

などと、信じられない“闇取引”を持ちかけてきたことから、私に委任契約の解除を通告し、私との接触を絶った。
 しかし、もう一人の相続人(被疑者)は頑として修正申告に応じないでいたところ、査察官が

「告発はしないことにした。これで査察調査は終るので、あとは所轄の税務署から課税の話がくることになる。」

と、被疑者と私に申し向けて、私の前から姿を消した。検察に告発はしたものの、不起訴処分になったからだ。

 ここで再び登場してくるのが、所轄の小倉税務署である。デッチ上げの“後さばき”をするためだ。
 査察調査の調査結果を受けて、小倉税務署による課税調査が開始されるに際して、税務職員が私と嫌疑者に対して、予め用意していた書面を早口に読み上げた。心にやましいことをするための緊張故(ゆえ)であろうか、手にした紙がこきざみに震えていた。この時の記録はICレコーダに全て録音されており、反訳文となって残っている。

 私が注目していたのは小倉税務署員が一体何を喋るのか、つまり、小倉税務署の調査が、
   行政処分であるのか、あるいは、
   行政指導であるのか
ということであった。税務職員が税務調査を開始する際に、その調査が行政処分であるか、あるいは行政指導であるか納税者に明示しなければいけないことになっているからだ。
 この峻別(行政処分と行政指導の区別)は、平成25年1月1日より施行された改正国税通則法の最大の眼目とされているものだ。

 小倉税務署の職員が、緊張しながら早口で読み上げた言葉の中に、はたして、

「行政指導の責任者は小倉税務署長」

なる文言が入っており、この「調査」が国税通則法24条に定める調査(行政処分)ではない、行政指導であることが明示された。これでは、小倉税務署長は「更正処分」をすることができない。
 にも拘らず、後日、小倉税務署長は強引に「更正処分」を行い、「更正通知書」を送ってきた。この「更正通知書」は内容虚偽の有印公文書だ。もちろん違法である。つまり、適法な「調査」を欠いた「更正処分」であり、無効となりうるものだ。

 工藤会の野村悟総裁の場合も同様だ。所轄の小倉税務署から「更正通知書」が送られてくる前に必ず、小倉税務署員が、野村氏に接触して、調査の開始宣言(国税通則法に定める調査の事前通知もどきのゴマカシ)をし、しばらくしてから再び現われ、調査結果の説明と修正申告の勧奨(国税通則法に定める調査結果の説明と修正申告の勧奨もどきのゴマカシ)をするはずだ。
 これら2つの行為をする場合に、前述のとうり、その行為が行政処分(調査)であるか、あるいは調査には至らない行政指導であるか、納税者に対して明示しなければならない決まりになっている。
 野村氏は、その際の小倉税務署員の説明をしっかりと確認しておけばよい。小倉税務署員が正直に「行政指導」であると言えば、小倉税務署としては「更正処分」ができないことを白状していることになるし、「行政処分(調査)」であると言えば、偽りの二枚舌を使っていることになる。
 いずれにせよこの段階で、査察部署(福岡国税局)と課税部署(小倉税務署)とがタッグマッチを組んで行なった偽装工作が明確に浮び上り、納税者を欺(あざむ)く陰謀が露顕することになる。
 天網恢々(かいかい)疎(そ)にして漏らさず(どんな悪事でも天罰をまぬがれることは出来ない形容。-新明解国語辞典)である。

(この項つづく)

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 ここで一句。

”妻のマネみたいに猫があくびする” -神戸、芋粥

 

(毎日新聞、平成27年6月23日付、仲畑流万能川柳より)

(逆だったりして。)

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