国税マフィアの闇-⑧

 かねてから国税庁は、「脱税は社会の敵」と題するパンフレットを作成し、配布してきた。その中には、「起訴されたら100%の有罪率」と豪語する脅しの文句が入っていた。

 「私の場合(「冤罪を創る人々」)を含めて、査察事件で無罪をかちとったケースはかなりの数にのぼるが、それでも尚、“有罪率100%”と言い募ってきたのである。

 このたび私が得た結論は、にわかには信じ難いものであった。

『現在の法体系のもとでは、脱税(逋脱罪)は犯罪たりえない。犯罪そのものが成立しないからだ。
従って起訴されたとしても100%無罪である。』

 私自身、この結論の信憑性に疑義を抱き、何回も頬(ほお)をつねってみたほどである。

 国税庁はかねてから有罪率100%と言い通してきたのに対して、私の得た結論は100%無罪、つまり有罪率0%である。
 国税庁が実際に公表している数字は、その真偽はともかくとして次の通りである。

****(査察事件の一審判決の状況)

年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 平成23年度 平成24年度 平成25年度
判決件数 154 141 152 150 120 116
有罪件数 154 141 152 150 119 115
有罪率(%) 100 100 100 100 99.2 99.1

(各年度、査察の概要(国税庁)より)

 私の結論に従えば、上記のデータによる限り、毎年100人を超える人達が冤罪(無罪の罪)に陥(おとしい)れられていることになる。国税庁が冤罪を量産しているということだ。

 同じ脱税事件について、正反対の結論が何故生じてきたのか、正直なところ私にもしばらくの間その理由が分らなかった。

 その理由が判明したのは最近のことである。
 まず、三年ほど前から全国各地の査察官の挙動に変化が顕れた。居丈高な姿勢に変わりはないものの、どこかオドオドしていて落ちつきがない。何か後(うしろ)めたいことを隠している。
 私達公認会計士は業務として「不正調査」(使い込みとか横領事件の調査)をするのであるが、その対象者の不審な挙動そのものであった。
 以上の事実は、「挙動不審な査察官」で詳しく述べたところである。

 挙動不審な査察官が一転したのは二年半ほど前のことである。査察のやることに何か文句があるのかとばかりに居直ったのである。
 平成24年12月、明白な痕跡(文書)を残して居直ったのは、東京国税局査察25部門の大野望査察官(主査)(脱税は犯罪ではなかった-7)であった。
 それまでの査察調査においては、犯則嫌疑者に対する文書の交付など一切行なわれたことはない。改正国税通則法の施行(平成25年1月1日施行)を直前に控えて、予行演習のつもりであろうか、唐突に文書がでてきた。それは、奇妙奇天烈(きてれつ)な文書としか形容のしようがないものであった。文書の全文はすでに公表した(脱税は犯罪ではなかった-7)ところである。
 査察調査の結果の説明と修正申告の意思確認と称して、数枚の文書を交付した上で嫌疑者に直接説明したのである。この説明は、税務代理人である私を同席させないで行われたもので、なんとか自発的な修正申告をさせようとして嫌疑者にウソ八百を申し向けたヒドイものであった。これもICレコーダに録音されており、その反訳文についてはすでに公表した(修正申告の落とし穴-号外2-暗闇の通告処分の実例)。

 交付された怪しげな文書は法令に定めのないシロモノであった。私は査察官に対して、一連の行為(説明と文書の交付)の法的根拠について質(ただ)したが査察官は頑として明らかにしようとはしなかった。
 その根拠が明らかになったのは、査察調査が終り、課税調査に移行してからである。この事案は、逮捕こそなかったもののすでに告発され在宅起訴されてから半年が経過していた。国税庁の内部規定では、査察部署が検察に告発したら直ちに課税部署に課税資料を回付する決まりになっているが、実際に課税部署に課税資料が回ってきたのは、告発から半年も過ぎてからであった。半年も回付が遅れたのは、税務代理人である私と代理人弁護士とがタッグマッチを組んで、国税局と東京地検特捜部に対して不当な告発と不当な起訴に対して厳重な抗議をし、かつ、東京地裁の公判前手続きにおいて騒ぎたてていたからではないか。

 課税調査を担当したのは、所轄の税務署ではなく、東京国税局課税第1部資料調査第2課秋田泰宏統括主査以下の3人であった。
 公判もかなり進んでおり、査察部署からは早く修正申告をさせるように圧力がかかっていたものとみえて、秋田統括主査が行ったのは修正申告の勧奨ではなく、修正申告の“懇願”であった。なんとか早く修正申告を出して欲しいと懇願を繰り返したのである。
 こちら側としては、いくら懇願されても理不尽な修正申告に応ずる訳にはいかない。
 そこで私は、査察部署と課税部署が行なっている一連の行為(それぞれが行なった調査結果の説明と修正申告の意思確認(査察部署)、修正申告の勧奨(課税部署))の根拠を明らかにし、かつ、それが納得のいくものであるならば、修正申告に応じてもよいと申し向けた。
 私の申し出に対して東京国税局課税第1部資料調査第2課の丸田一弘主査が渋々ながら明らかにしたのは、国税庁の内部文書であった。

(この項つづく)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

”リピーター多いんですという式場” -静岡、石垣いちご

 

(毎日新聞、平成27年6月27日付、仲畑流万能川柳より)

(“刑務所の“懲役太郎”もリピーター”)
 平成8年1月~11月までの10ヶ月間、私は松江刑務所拘置監に幽閉されていた。塀の中は特殊な世界、ヤジ馬根性と好奇心の塊(かたまり)である私にとって、考えようによっては天国であった。そこでしっかりと身についた特殊用語(「冤罪を創る人々」-勾留の日々-被勾留者の心得)がいまとなっては懐しい。

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