『推計課税』と『推定課税』

 「推計課税」については、本文(「「悪徳税理士」の弁-④」参照)で述べたように、法人税法、所得税法において一定の条件付きではあるが認められている。

 しかし、「推定課税」(「国税庁における平成24年度税制改正意見から相続税の改正の動向を探る(税理士法人FP総合研究所)」参照)については、現行法上認められていない。租税法律主義(憲法第84条)の立場からすれば当然のことだ。それが平成24年度の税制改正において、相続税法の中に組み入れようとされているのである。

 この推定規定、相続開始時に、財産の存在が確認できなくとも、相続前一定期間内に大口の出金があったような場合には、相続人が相続したものと“推定”するという、なんとも乱暴な規定である。ムチャクチャとしか言いようがない。こうなったら、挙証責任が相続人側に転嫁されることになるが、被相続人が死ぬ前に自らの財産をどのように処分したのか、残された相続人としては証明のしようがないのではないか。
 このような「推定規定」を新設する理由として、国税庁は韓国の相続税法に同様の規定があることを挙げ、適正公平な課税に寄与しているとしているが、トンデモない理由付けだ。このところ、財務省の役人は、野田内閣を勝手気ままに操り、従来以上に思い上っているのではないか。税に無知な納税者と国会議員を馬鹿にするのもいいかげんにしたらいい。憲法違反の疑いがあるこのような「推定規定」が、法律として成立するとすれば、相続税の税務調査の現場でクレームが続出し、大騒ぎになること必至である。

 ちなみに、このような「推定課税」、現行法では規定がなく認められていないにも拘らず、従来から税務調査の現場で頻発している。もちろん、違法だ。とりわけ、査察と料調ではやりたい放題である。不正認定・重加認定がいとも簡単に「推定」によってなされているのである。違法な「推定」をストップさせるには、職業会計人が「独立した」「公正な」立場を堅持して、厳密な事実認定をもって対抗する以外に方法がない。告発され、裁判に移行してからでは手遅れである。弁護士、検事、裁判官といった法曹三者には、「推定」とか「推計」を厳しくチェックする能力

 

がないからだ。
 この財務に関する厳密な事実認定の仕事は、本文で述べた(「「悪徳税理士」の弁-④」参照)「適正な財務諸表の調整」と同様、税理士の仕事ではない。税理士業務(税理士法第二条第1項)でもなければ、「記帳代行業務」のような税理士の付随業務(税理士法第二条第2項)でもない。公認会計士法第二条第2項に定める「財務に関する調査」であり、公認会計士業務そのものだ。しかも、私が考案した認知会計にもとづく会計工学の領域である。
 公認会計士の2項業務は、1項業務(監査証明)とは異なり、公認会計士の独占業務ではないし、会計工学も私の独占ではない。会計工学というテクノロジーであるから、やろうと思えば誰にでもできるものだ。会計工学が、公認会計士、税理士といった職域を超えた、職業会計人全体の“財産”になることを願っている。

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