「悪徳税理士」の弁-④

 私が納税者の代理人として行なう仕事は、つまるところこの「推計課税」を、できる限り「実額課税」にもっていくことに尽きる。申告納税制度の本旨に立ちかえるのである。

 国税当局が調査の結果提示してくる「推計課税」の金額自体、決して違法なものでも不当なものでもない。ユルユルのものではあっても、制度として認められているからだ。前述の通りである。

 それを受けて、金額をめぐる攻防が開始されるわけであるが、納税者側としてはバナナの叩き売りでもあるまいし、好き勝手に値切ることができるわけではない。

 ここで、「適正な財務諸表」を目指して国税側とのスリ合わせ作業を行うことになる。これが職業会計人としての私の主要な仕事の一つだ。

 これまで納税者の代理人として手がけた、査察・料調案件で、国税側が提示(修正申告の慫慂)してきた「推計課税金額」が、最終的に2分の1まで下がり、「適正な財務諸表」に落ち着くのはごく普通のことであった。中には10分の1、20分の1、あるいは「推計課税金額」自体が雲散霧消して、ゼロになることも少なくなかった。

 査察も料調も、ともに脱税の摘発が目的である。査察は国犯法にもとづく合法的なものであるのに対して、料調は通常の税務調査で禁じられている脱税の摘発(犯罪捜査)を強引に行なう脱法行為(*注)である。脱法行為ではあるものの、長い間慣行的に強行されている以上、納税者としては受けざるを得ず、しかるべき対応を迫られるのである。
 納税者から依頼があるのはこのような時である。

「税務調査を受けているが余りに強引だ。犯罪人扱いされており不安だ。調査結果の数字が示されたが余りにも大きすぎる。何故こんな金額になるのか納得いかない。このままであれば税金を払うだけでは済まなくなる。告発されて刑事事件にされかねない。なんとかならないか。」

 昨年末、本件の依頼者からの相談は、上記のようなものであった。面談して詳しい事情を確認した上で、なんとかなるであろうと判断して調査の立会いと交渉とを引き受けた。私の事務所の定型フォームの契約書に双方署名捺印して私の仕事がスタートした。
 この契約について齋藤義典税理士は、委任契約であると勝手に決めつけているが誤っている。これは単なる委任契約ではない。請負契約が主体の混合契約だ。一定の条件、つまり、「推計課税金額」を「適正な課税金額」へと持っていくこと、及び「適正な課税金額」を告発基準以下にもっていくことによって刑事告発をストップさせること、この2つの条件が達成された場合には成功報酬を支払うとする請負契約である。国税側と交渉するのに「税務代理権限証書」の提出が必要であることから、一部委任契約の側面があるだけのものだ。
 本件の場合、請負契約の着手金を受け取った上に、仕事のメドが概ねついた段階で報酬の概算払いをしてもらっただけのことで、これは依頼者から預ったお金ではない。齋藤義典税理士は、預ったお金を不法に領得した、業務上横領だ、詐欺だなどと喚いているが、言いがかりもいいところだ。契約の意味と内容を知らない者の戯言(たわごと)である。

 この依頼者の当初の話は次のようなものであった。

「ここ3年はほとんど休業状態であったため、3期申告を忘れていた。以前は会計担当者が申告処理をしていたが、居宅移転のため申告を怠っていた。帳簿、証憑類は残っていない。入出金はすべて法人口座に記録されている。預金通帳をもとに概算した利益金額(推計課税金額のこと)を提示されたが余りに大きな数字なので納得がいかない。個人預金の残高は1億円ほどであるが、すべて利益であると見なすと言われている。個人預金がすべて会社の利益でないから納得できない。あまりに法外な金額なので驚いている。金額については話し合いで決めるから、印鑑を持って出頭するように言われている。
 当社の会計担当者がたよりなく、このようになってしまった。もし当社が依頼した場合、このようなケースに対して税務署との折衝対応をしてもらえるか。」

 法外な金額を提示されたといって驚いているが、法外といっても前述の通り、国税側としては法律に従って計算しているもので、決して違法なものではない。違法なのは、この金額(慫慂金額)を無理矢理納税者に押し付けることだ。脅したり騙したりして修正申告書(本件の場合は無申告であるから期限後申告書)を提出させることである。それさえなければ違法でも何でもない。適法である。
 私の役割は、提示された「推計課税金額」を参考にしながら、「適正な課税金額」を算定すること、即ち、「適正な財務諸表」を作成することだ。この仕事は税理士業務(税理士法第二条第1項)ではない。付随業務とされている税理士の業務(税理士法第二条第2項)でもない。公認会計士業務そのものだ。公認会計士の2項業務と言われているもので、

「公認会計士は、公認会計士の名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の調製をし、財務に関する調査若しくは立案をし、又は財務に関する相談に応ずることを業とすることができる。」(公認会計士法第二条第2項)

とされている公認会計士本来の業務である。自らの責任において財務に関する調査をし、財務書類の調整をすることだ。税務代理業務でもなければ、記帳代行業務のような税理士の付随業務でもない。独立した公認会計士の名において行なう請負業務だ。私が契約書に、「公認会計士・税理士 山根治」と明記しているのはこのためである。公認会計士として、公認会計士の2項業務である請負業務を行ない、税理士として税務代理事務(税理士法第二条第1項)を行なうということだ。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“東電を盗電と呼ぶ値上げ案” -入間、角貝久雄

 

(毎日新聞、平成24年7月5日付、仲畑流万能川柳より)

(盗電なんて生ぬるい。強盗電力だ。ちなみに、松江に本店がある山陰合同銀行、地元では昔から山陰強盗銀行と言われている。)

(*注)
 法人税法第156条。前三条の規定による質問又は検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
 同様のことは、所得税法第234条第2項、相続税法第60条第4項にも規定されている。尚、税務調査については、従来の恣意的な調査方法に一定の歯止めがかけられる方向で法改正がなされ、国税通則法に一括されることになった。上記の規定は、国税通則法第74条の7(新設)に移されている。法の施行日は平成25年1月1日。

***<追記>
 本文に関連して『推計課税』と『推定課税』を公開した。(2012.07.31)

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