ゲームとしての犯罪 -号外7

20代の後半、会計士の2次試験に合格して、はじめてこの業界に足を踏み入れたときのことでした。

ところは名古屋、私は会計士の見習いとして、見よう見まねで冷汗を流しながら監査に従事していました。

ある日のこと、仕事が一段落ついて事務所で雑談を交わしているところに、先輩の会計士が割り込んできました。大層な儲け話があるというのです。

その会計士は興奮した面持で私達に説明してくれました。儲けのシステムをわざわざ紙に書いて私達に教えてくれたのです。

それが天下一家の会によるネズミ講だったのです。

そのころの私は、会計士補といっても、昔ながらの丁稚奉公と同じで、2人の子供を養うのがやっとの生活をしていました。これといった資産など全くなく、ギリギリの生活を強いられており、給料日前になると預金が限りなくゼロに近くなるような生活でした。もちろん、定期預金などあるはずがありません。
したがって、いくら儲け話があると言われても、話に乗ることなど現実にはできない状態でした。ただ、事務所の先輩である公認会計士が興奮気味に話をしていることに興味を持ち、熱心に耳を傾けた覚えがあります。
話を聞く限りでは、参加メンバーの全てがハッピーになるようなシステムなのですが、一つだけ気になったのは、利益を生み出す源泉が見当たらないことでした。
私はこのときまでネズミ講なるもの(かなり昔からあるもののようです)については全く知りませんでしたし、話を聞いただけではもっともらしい気はするものの、どこか釈然としないところがありましたので、家に帰るや早速図を書いてみたり、数式をいじってみたりしたのです。
その結果、ごく初歩的な数学を使うことで、このシステム自体インチキであることが判明しました。何世代もしないうちに明らかに行き詰ってしまうものを、あたかも無限に続けることができるかのように偽っているのです。つまり、有限の世界に、無限の考えを偽ってもぐり込ませているわけで、気の利いた小学生なら簡単にインチキを見破ることができる位のレベルのシロモノでした。
あの時、私達かけ出しの会計士補に本気になって説明して勧めてくれた会計士とは、その後このネズミ講について一切話をしたことはありませんので、この人がネズミ講に実際に加入していたのかどうか分かりません。
この話を聞いてから一年もしないうちに、全国的な社会問題へと発展し、2,000億円ともいわれる大型経済事件へとつながっていきました。

この天下一家の会とライブドアとが極めてよく似ていることについては、昨年「ホリエモンの錬金術」を連載していた、かなり早い段階で気付いていました。

まず2つとも、参加する人達に配分すべき利益の源泉が欠けていることです。お金をタライ回しにしているだけのことで、いわばババ抜きゲームのようなものです。両方とも初めからインチキなのですから、インチキの幻想が白日のもとにさらされたが最後、ゲームは瞬時にして終結し、ババをつかまされた多くの人達が被害者として残るというわけです。

次に言えることは、胴元である故内村氏とか堀江氏、あるいは周辺のごく一部の人達は、どのような時点でゲームが終ろうとも、必ず儲かるようにできていることです。インチキゲームのインチキたるゆえんです。

更には、この2つとも使い古されたイカサマ・ゲームであったことです。しかも、少しでも事情を知っている人ならば、そのイカサマぶりに気がつかないはずがないほど幼稚なものであったことです。
ことにライブドアについて言えば、この6年の間に、次から次へと繰り出してきたいかにも怪しげな数々の手法は、アメリカあたりで10年以上も前に、アングロサクソンの名うての詐欺師たちが一般大衆をだましてきたシロモノでした。いわば、手あかのついたインチキ手法を、単にサルまねをしただけだったのです。

ネズミ講天下一家の会については、私の冤罪事件と少なからぬ因縁を持っていることから、私にとって忘れることのできないものとなっています。
税務当局に虚偽の告発をした人物を私に引き合わせたのが吉川春樹(仮名)でしたが、この人物は、内村氏のごく身近なところにいて、10代の終り頃に、アブク銭がうずを巻いている現場を体験していました。毎日のように、現金書留の封筒が山のように届いたといいます。このような若い頃の特殊な経験からでしょうか、私が知り合った頃の吉川春樹はその日暮らしにも困るほどのスカンピン状態でしたが、金銭感覚は異常とも言えるほどズレたものを持っていました。
この人物は当時、病気の治療ができる特殊な能力(今から思えば、気功であったようです)とか、超能力を持っていると吹聴していました。今にして思えば、一種のマインド・コントロールにかかっていたのでしょうか、私はこの人物に全幅の信頼をおいていました。
貧すれば鈍す、詐欺師であった佐原良夫(仮名)とグルになって私をゆさぶり、4億円を騙し取ろうとして小細工を弄し、私の冤罪事件の発端を作ったのです。
20年近くも前のこと、ネズミ講の名と共に、ホロ苦い想い出として私の中に残っています。

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ここで一句。

“ボクシング取ったらまるでやくざじゃん” -茅ヶ崎、巌流

 

(毎日新聞、平成18年8月15日号より)

(いまどきのヤクザ、親子そろってあんなにヤクザヤクザしていたら、かえってシノギが難しいでしょうね。)

 

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