400年に一度のチャンス -7

***7.日本は破産しない-(7)財務省の戯言(たわごと)④

 財務省が公表している資料の中に、「財政健全化への道筋」なる項目がある(「日本の財政関係資料」P.19)。その冒頭に掲げられているのが「財政運営戦略」(平成22年6月22日閣議決定)だ。これが現在のところ、最も新しい財政運営の基本方針のようである。これは、自民党時代に作成された「基本方針2006」を単に引き継いだだけのものであるだけでなく、財政健全化の達成時期を5年以上も繰り延べたシロモノだ。既に述べたところである。(「400年に一度のチャンス-4」「400年に一度のチャンス-5」)



 ここでは別の観点から基本方針の問題点を指摘することとする。

 まず第一に指摘すべきことは、「財政運営の基本ルール」(同上、P.20)が誤っていることだ。政権交代に際して民主党が掲げたマニュフェストに反しているからだ。

 基本ルールとして次の5つが掲げられている。

+財源確保ルール(「ペイアズユーゴー原則」)
 歳出増・歳入減を伴う施策の新たな導入・拡充を行う際は、恒久的な歳出削減・歳入確保措置により安定的な財源を確保。
+財政赤字縮減ルール
 収支目標達成のため、原則として毎年度着実に財政状況を改善。
+構造的な財政支出に対する財源確保
 年金、医療及び介護の給付等の施策に要する社会保障費のような構造的な増加要因である経費には安定的な財源を確保。
+歳出見直しの基本原則
 特別会計を含め全ての歳出分野の無駄の排除を徹底し思い切った予算の組替え。
+地方財政の安定的な運営
 財政健全化は国・地方が相協力しつつ行う。国は、地方の自律性を損ない、地方に負担を転嫁するような施策は行わない。
 一見すると全てもっともらしいことが羅列されている。一つ一つを見れば当然のことで、何も間違っている訳ではない。
 しかし、次に掲げられている「中期財政フレーム」を合わせて考えると、トンデモないことが判明する。
 それは何か。
 「中期財政フレーム」で示されているのは、歳入面と歳出面の取組についての基本姿勢である。問題なのは、この2つの側面の基本姿勢が全く異なることだ。つまり、歳入面については、“税制の抜本的な改革”が示されているのに対して、歳出面については、“基礎的財政収支対象経費について、少なくとも前年度当初予算の同経費の規模を実質的に上回らないこと”、つまり、歳出面では現行の制度を維持し、制度の手直しは全く行わないことが示されているのである。

 民主党がマニュフェストで公約した207兆円のうち16兆5千億円の歳出カットは、当然のことながら制度の抜本的な見直しが必要である。公務員人件費の2割カット、年金制度の一本化と全額国庫負担など、全て制度の見直しがなされなければ不可能である。ゼロベースで予算を組み直すというのは制度を根本的に見直すことによって初めて達成できるのである。
 「平成22年度予算編成の方針について」(平成21年9月29日閣議決定)で示された、

“既存予算についてゼロベースで厳しく見直す”

としたことが一年も経たないうちに変更されたということだ。
 ただ、この9月29日の閣議決定を改めて見てみると、ゼロベースで厳しく見直すとしたところに“優先順位”という怪しげなフレーズが挿入されている。“ゼロベースで優先順位を厳しく見直す”となっているところからすると、あるいは当初からゼロベース予算が通常の意味ではなく、全く異なる意味合い、つまり、現行制度のもとで単に優先順位を考えるだけで、制度の手直しまでは行わないといった意味合いで使われていたのかもしれない。とすれば、典型的な役人用語というべきであり、一見してマニュフェストに従ったフリをしながら、この時点でマニュフェストの骨抜きが行われていたとも考えられる。
 いずれにせよ、マニュフェストの骨抜きが明確な形で示されるに至ったのは、平成22年6月22日に閣議決定がなされた「財政運営戦略」においてである。

 第二に取り上げるのは、(参考)として示されている「経済財政の中長期試算」(平成22年6月22日、内閣府)である。この試算における問題点は、前提として経済成長率が組み込まれていることだ。
 ここでは、次の2つの経済成長率が用いられており、この成長率は2011年度から2020年度に至る予測値であるという。
 一つは、慎重シナリオと称しているもので、経済成長率を名目、実質ともに1%台半ばとし、
 二つは、成長戦略シナリオと称しているもので、経済成長率について、名目3%、実質2%を上回るとしている。
 つまり、いずれのシナリオでもプラスの経済成長を前提としているということだ。たとえば慎重シナリオでは、2010年度の名目GDPが483兆円であったものが、10年後には572兆円に拡大していることを前提としている。
 この成長戦略が、日本が行った国際的な公約であるかのようなことまで特記して(P.21)、成長戦略の正当性を言おうとしている。
 しかし、この成長戦略、あるいは経済成長を前提とした財政運営戦略は以下の理由から誤りである。
 一つは、経済成長一辺倒が、必ずしも人々の幸せに結びつくものではないことが遅れ馳(ば)せながら認識され始めたということだ。イギリスのティム・ジャクソンによるリポート(”Prosperity without Growth? The transition to a sustainable economy”, 30/03/2009. Tim Jackson : Sustainable Development Commission.)など、その代表例である。
 二つは、経済成長率を予測するマクロ経済モデルが相当以上にいいかげんなもので、予測値そのものが信頼性に欠けることだ。経済学者とか経済アナリストが机上で弄ぶのは一向にさしつかえないが、一国の財政戦略の中に組み込むのはふさわしくない。

 本気で財政の健全化に取り組むというのであれば、経済が成長し、税収が増加するといった前提を置くべきではない。ゼロ成長か、もしくはマイナス成長を前提に考えるべきだ。当然のことながら、消費税を増税することなど組み込んではならない。
 要は、一般会計・特別会計を合わせた215兆円(平成22年度当初予算ベース)から国債の新規発行分を除いた収入金(税収、保険料収入等)を1億3,000万人の国民にいかに公正に配分すべきかの問題であって、将来のことなど二の次である。まず現在の150兆円ほどにも達する収入金の配分が公正になされているかどうかの問題だ。仮に、将来予定より税収などの収入金が増え、余剰金が生ずるようなことがあれば、それこそ1,000兆円にも達する国の借入の返済に回せばいいだけのことである。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“客来ないお店のような自民党” -射水、江守正

(毎日新聞、平成23年1月26日付、仲畑流万能川柳より)

(無残やな 権力亡者の 夢のあと)

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