粉飾された2兆円 -1

 道路特定財源をどうするか、とくに今年の3月31日で期限切れになる、ガソリンとか軽油にかけられている暫定税率をどうするのか、について国会で与野党が激突し、最近の国会としては珍しい位真剣な議論がなされたようです。その際に、一般にはなじみの薄い言葉がさかんに飛びかっていました。
ビー・バイ・シー(B/C)
という言葉です。

 このB/Cは、CBR(コスト・ベネフィット・レイシオ。費用便益比)の略称として用いられているものです。
 Cはコスト(Cost)で、道路を造るのにかかる費用のことですし、Bはベネフィット(Benefit)で、道路を造ることによって新たに生れる経済効果のことです。投入された経費に対して、どれだけのプラス効果が見込めるのか、これを数字で表わしたものが、BをCで割った値であるB/Cという訳です。B/Cはもともと一般企業の投資効率を考えるために考案されたものですが、公共事業である道路工事の投資効率を測るために応用されたということです。

 このB/C、3つに分けて考えてみましょう。
+B>C、つまり、経済効果がコストを上回る場合には、B/Cの値は1を超えます(B/C>1)。
+B=C、つまり、経済効果がコストに等しい場合には、B/Cの値は1となります(B/C=1)。
+B<C、つまり、経済効果がコストを下回る場合には、B/Cの値は1を下回ります(B/C<1)。
 まず、1.の場合。
 経済効果(ベネフィット)がコストを上回っている訳ですから、投入された資金がゆとりをもって回収されることを意味し、投資効率の点では望ましいと言えます。この値が大きければ大きいほど投資効率が高いことになります。
 次に、3.の場合。
 1.のケースとは逆に、経済効果がコストを下回っている訳ですから、投資効果が続く期間(道路の場合は40年とされています)のうちに、投入された資金が回収されないことを意味し、投資効率の点では望ましくないと言えます。この値が1を切って小さくなればなるほど投資効率が悪いことになります。
 2.の場合は、経済効果がコストと一致しますので、投資効果が続く期間のうちに、投入された資金がギリギリで回収されることを意味しています。

 実は、B/C(ビー・バイ・シー)の値が1を上回るのか、1を下回るのかは極めて重要な意味を持っています。
 国交省は、『公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針』(平成16年2月。以下「技術指針」といいます。)を出して、新たな公共事業をしようとする場合だけでなく、進行中の事業についても必ず経済効果の測定(費用便益分析のことです)をすることを定めています。この法的根拠は、『行政機関が行う政策の評価に関する法律』(平成14年4月施行。以下、「政策評価法」といいます。)です。
 この「技術指針」において、進行中の工事をチェックする(これを再評価といいます)指標の一つとして、しかも最も重要なものとして挙げられているのが、他ならぬB/C比率なのです。B/C比率が一定の基準値以上であるか、未満であるかによって、進行中の工事をそのまま継続するのか、あるいは中止を含む見直しをするというのですから。
 この基準値については、これまで公表されていませんでしたが、この国会における民主党の質問に答える形で明らかにされました。冬柴国交相は、当初基準値は1.2であると答弁していたのですが、後に訂正し、1.0である旨、明らかにしています。

 国会では、道路工事のB/C比率をめぐって、水増しがなされているのではないかということで、かなり突っ込んだやりとりがなされていました。将来見込まれる交通量(交通需要の予測)が大き過ぎるとか、あるいは、道路が出来ると交通が便利になり、その分、走行時間が短くなるのですが、それによって生ずる経済効果(一単位あたりのメリットを国交省道路局が出している『費用便益分析マニュアル』では「時間価値原単位」と呼んでいます)が実態とかけ離れた前提で計算されているのではないか、といった多分に技術的な議論が続いていました。
 ただ、国会の議論を聴く限り、道路におけるB/C比率の水増しは、せいぜい2~3倍、多くとも5倍位のものでした。
 ところが同じ国交省でもダムとか河川を担当している河川局においては、道路局のようなチマチマした水増しではなく、目をむくような大胆な水増しがなされている(らしい)ことが判明したのです。標題に、大幅に水増しされた2兆円という金額をかかげ、敢えて“粉飾”(ドレッシング。不正な小細工をして実態をおおい隠すことです)という言葉を用いたのは、余りのことに息をのみ、愕然(がくぜん)としたからです。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“ふとんから 猫が出てゆき 春が来る” -行田、ひろちゃん。

 

(毎日新聞、平成20年4月9日号より)

 今一句。

“おたがいに 「なによ」と見てる 犬と猫” -いずみ、野原咲子。

 

(毎日新聞、平成20年4月10日号より)

(猫がのんびり生活している、-平和ですね。数年前、上野の東京芸大の学食でメシを食べた折のこと、出入口のマットの上で猫が丸くなっていました。近づいてのぞき込んで見たところ、イビキをかいて爆睡中。さすが、東京芸大、それ以来ひそかに“芸大ネコ”と呼んでいます。)

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