ライブドア監査人の逮捕 7

 まず、公認会計士である田中慎一氏が、ライブドアの監査人を引き受けた後に、ライブドアのブラックボックスとなっていたファンドの実態を解明したことについては、“盗み見”という調査手法には必ずしも賛同できないとしても、結果的に隠蔽されていた事実が明らかになった点は評価すべきでしょう。更に、その結果をライブドア側に突きつけて、ファンドの解散を要求し、実際に『M&Aチャレンジャー、VLMA1号、VLMA2号のファンドは、2005年7月に解散され、自己株を使った錬金術は二度とできなくなった』(“告白”、P.157)こと、その上に、二度と再びインチキ・ファンドを使った錬金術を行なわないことをライブドア側に約束させていることは、監査人として立派なことであり、高く評価すべきです。

しかし、この後がまずかったようです。将来に向けてインチキができないようにすればそれで済むものではないからです。会社の決算内容を大きく歪めるようなインチキが過去になされていたのであれば、過去に遡って訂正しなければならなかったのです。つまり、すでに提出済みの有価証券報告書について訂正報告書をライブドアに出させる必要があったということです。
 もちろん、公表済みの過去の決算書が大幅に間違っていたことを会社自らが認めて明らかにする訳ですから、上場会社としてのダメージはかなりのものがあるでしょう。場合によったら、上場廃止に至るおそれさえ十分にあるところです。しかし、最悪、上場廃止に至るような場合でも、行政上のペナルティを超えて刑事事件になったり、ましてやライブドアの経営者とか監査人が逮捕されるようなことにはならなかったのではないでしょうか。そして何より特筆すべきことは、ライブドアに騙されてお金を失った投資家の数が、実際より格段に少なくて済んだのではないかということです。

 フジテレビがライブドアに多額の出資をして結果的にライブドアの社会的信用度を高める役割を果したり、政権政党である自民党が堀江貴文氏を事実上の公認候補として衆議院選挙にかつぎ上げたりしたのですが、これらのことは投資家を誤った判断に導いたに違いありません。上場以来、外部からでもミエミエのインチキ決算を繰り返していたことは、2005年3月に、私が「ホリエモンの錬金術」で指摘するまでもなく、フツーの会計士であるならば誰にでも分ったはずです。ましてや、ライブドアの内部を誰よりもよく知る立場にあった監査人としては、数々のインチキに気がつかないはずがありません。実際、メディア・リンクス社の横領事件(2004年11月)にからんで、ライブドアが実態のない売上(スルー取引とかUターン取引の方法による架空売上)に関して深くかかわっていたことが判明し、それを知ったライブドアの2人の監査人の一人が監査報告書の署名を拒否したことが田中氏によって明らかにされているのです(“告白”、P.50)。この時点で、あるいは、インチキ・ファンドの実態が判明した2005年5月の時点で、過去の有価証券報告書を訂正させておけば、フジテレビもインチキ会社に多額の資金をつぎ込むといった誤った経営判断をしなくてもよかったでしょうし、いくらお人好しの武部勤幹事長でも堀江貴文氏のことを『わが弟です、わが息子です』などと選挙民に向ってノーテンキに叫んだりはしなかったことでしょう。結果として、多くの投資家が騙されて多額の損失をこうむることにはならなかったことでしょう。

 監査人である田中慎一氏は、進行中の会計年度において、過去のウミをできるだけ吐き出してしまえば、それ以前のことはウヤムヤのままにしておいても構わないとでも思ったのでしょうか。
 その後の経過を辿ってみますと、ライブドアが摘発される直前の2005年12月に提出された第9期有価証券報告書(これが、上場会社としてのライブドアの最後の有報となりました)は、それ自体なんとも珍妙なシロモノとなっています。私のような外部の者からでも指摘できるような不正を大急ぎで繕ったような決算書が提示されており、連結、単体ともツギハギだらけといった、なんとも不細工なものなのです。

 ライブドアの監査人としては、このような姑息(こそく)なことをしないで、粉飾が確認できた時点で正面からライブドアと向き合い、過去の過(あやま)ちを認めさせて、会社自らが訂正するように指導すべきであった、これが、ライブドア監査人についての私の意見です。もちろん、上場前から監査をしてきた監査法人、あるいは監査人としての責任を免れることはできないでしょうが、それは自らまいた種であり、仕方のないことです。

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 ここで一句。

“気休めに また替えている 化粧品” -みやま、長なす。

(毎日新聞、平成20年3月28日号より)

(ハンニンに告ぐ、ムダな抵抗はやめなさい-そう言う御仁(ごじん)は、養毛剤を次々に取り替えている、『毛無し予備軍のオノコ』だったりして。)

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