裏金アラカルト 10

 知人からの相談は、ODAという海外がらみの話が本当のものであるかどうか、雲をつかむような大きな話が真実のものであるかどうかといったことでした。私としては、ODAについては一般の報道で知っているだけでしたので、具体的にその実態の一端でも分かれば面白いといった軽いノリで引き受けたものです。これまで4回ほど首を突っ込んでいるM資金話とか、三年前にライブドアのインチキに気がつき、かなりの時間をかけてインチキのカラクリを分析したのも同じようなノリからです。生来のヤジ馬根性といったところです。

このような興味から取り組んだものは、おおむねインチキであり、詐欺に類するものが多かったというのが実際です。しかし、このODAについては、インチキではなく真実でした。公金にからむウラ金という怪しげな側面があり、これについては別途犯罪の色彩が強いのですが、このODAの話自体は架空のものではなく実態があること、フィクサーであるO.H.氏の話の基本的な筋道には偽りがないことが確認できましたので、

「このODA話は真実のものである。」

旨の回答を依頼者にしたのです。身上書に記されたO.H.氏の人物評とか、ウラ金のことについては、もちろん報告していません。これらのことは、このODA話が真実のものであるかどうかを確認するための手段として私が補足的に調べたものであり、敢えて報告する必要はないと考えたからです。

 あれから20年ほど経ちました。完成した450億円のプラントは現在も稼動し、それなりに某国の経済に貢献しているようです。利権をあさる政治家とその手足として動いた複数のフィクサーのもとに流れた少なからぬ裏金は、表沙汰になることはありませんでした。この政治家はその後政界を引退しましたが現在も健在であり、いまだに各方面に対して隠然たる力を持っているようです。お金に執着の強い人物は、それだけ生命力も旺盛なのでしょうね。
 久しぶりに事件ファイルを取り出して、往時の一つの断面を振り返ってみる気になったのは、防衛省の汚職事件がきっかけでした。お金をめぐる悲喜劇は同工異曲、まさに十年一日の如く、手をかえ品をかえて繰り返されています。このところの、ガソリンの暫定税率をめぐる与野党の攻防も、利権をめぐるドタバタ劇以外の何ものでもありません。双方とも国民生活重視といったもっともらしい大義名分を掲げていますが、本当に国民の目線で考えているのでしょうか。それぞれの本音が透けて見えるだけに、白けてしまいます。

 発展途上国に支援の手を差しのべるという大義名分のもとになされてきたODAは一皮むけば、相手の国をダシにして一部の政治家とそれを取り巻くダニのようなフィクサーの利権あさりの舞台といってもいいでしょう。ほとんどの場合、日本のメーカーと商社がからんでいますので、国内の公共工事を海外でやっているのと同じことになります。日本は過去、多くの国々に多額の資金を援助という名目で投入してきたにも拘らず、各国からそれにふさわしい感謝が必ずしもなされていないのは、本当の意味で相手国の実情に即した援助をしてこなかったことに加えて、それぞれの国の一部の政治家だけがいい思いをする、ピンハネの構図がそれとなく知られていたからではないでしょうか。

(この項おわり)

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 ここで一句。

“十人が 空き缶一個で 遊べた日” -大分、春野小川。

(毎日新聞、平成20年1月29日号より)

(本当の豊かさとは何か、改めて考えてみる必要がありそうです。)

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