裏口上場 1

 このところ再び裏口上場(うらぐちじょうじょう)の噂を耳にするようになりました。実は今から27年前、私が37歳のときに、裏口上場について小文をしたためたことがあります。

 当時私は、中江滋樹氏率いる投資ジャーナルグループの税務顧問をしていた関係から、証券業界の生々しい実態を目(ま)の当りにしていました。いわゆるバブル経済の前のことで、日本経済は世界のトップを目指して順調な成長を続けていくことが信じられ、土地神話も健在でした。

証券業界は、文字通りなんでもありの世界で、仕手筋(してすじ)をはじめとした一攫千金(いっかくせんきん)を狙う多くの人達がひしめいていました。現在のような厳しい規制がありませんでしたので、仮名預金とか、仮名の証券口座などは当然のことのように使われていました。銀行マンとか証券マンは仮名扱いにすることを営業の一環と考えていたフシもあります。したがって巨額のアングラマネーが大手を振って株式市場に流れ込んでいたのです。大貫某なるタクシー運転手が兜(かぶと)町の道端で一億円の現ナマを拾ったと届け出て話題になったのもこの頃のことです(これについては「一億円を捨てた男」参照のこと)。

 株式市場は、アングラマネーの資金運用の場であっただけではありません。むしろ、アングラマネーの目指していたのは、裏の金から表の金に変換することでした。つまり、いろいろな理由からうしろめたいお金(裏金、うらがね)を、正々堂々と使うことのできる表金(おもてがね)にすることだったのです。マネー・ロンダリング(資金洗浄)ということです。

 株式市場はまた、政治家にとっても都合のいい資金調達の場でした。一般に、組織丸抱えの政治家(たとえば、共産党、公明党の議員とか、労働組合の代表として選ばれている議員など)は別にして、ほとんどの議員は、慢性の金欠病にかかっていました。数年おきに必ずやってくる選挙の費用が莫大なもので、それを工面するためにそれぞれが大変な思いをしていたのです。現在は選挙制度が変ったり、あるいは政党助成金の制度ができたりして、選挙資金の面でも当時とはある程度変ってきてはいるのですが、私の見るところ、基本的には変っていないようです。
 政治献金といえば聞えはいいのですが、小口献金は別にして、こと大口献金に関しては資金提供の直接的な見返りを求めない人物などそんなにいるものではありません。資金提供の名目を変えたり、いくつかのフィルターを通したりして、もっともらしい体裁をつくり、法の規制をかいくぐっているのが現実です。罰せられるべき違法性の有無はともかくとして、事実上のワイロであるケースが多いのではないかと思われます。
 もっともこれらは、曲りなりにも表に出して、資金提供の事実を明らかにしているものです。ザル法の見本のような政治資金規正法ではありますが、いざという時に精査する足がかり位にはなるだけよしとすべきでしょうか。

 問題なのは、表に全く出ない、ウラからウラへと政治家に手渡されるお金です。風呂敷、紙袋、アタッシュケース、あるいはダンボール箱などに入れて密(ひそ)かに受け渡しされる現ナマのことです。
 かつて公共事業については、口ききをした政治家への謝礼金は3%が相場とされていました。昨今大きな問題となっている談合というのは、業者が自らの利益を確保した上に、ワイロとしての謝礼金を捻出するのに十分な受注金額を獲得するための裏工作であった、と言ってもいいでしょう。入札方式でさえこの通りですから、入札ではない随意契約に至ってはやりたい放題、推して知るべしです。フィクサー業と化した一部政治家の「天の声」が公共事業を支配していたのです。このところ公共事業が大幅に削減されていますので、フィクサーの取り分が少なくなった為でしょうか、謝礼金(ワイロということです)の相場が3%から5%にアップされているようで、私の耳にも施行業者のウラミ節が聞こえてきます。

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 ここで一句。

“蕗(ふき)を買う 田舎育ちの 抵抗感” -福岡、只乃愚痴。

 

(毎日新聞、平成19年11月7日号より)

(私は田舎育ちの田舎暮し。フキ、ノビル、タキナ、コシアブラなど毎年出てくる場所と時期が決っていますので、旬の味覚を求めて採りに行くのが楽しみです。)

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