冤罪を創る人々vol.84

2005年10月18日 第84号 発行部数:415部

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「冤罪を創る人々」-国家暴力の現場から-

日本一の脱税事件で逮捕起訴された公認会計士の闘いの実録。
マルサと検察が行なった捏造の実態を明らかにする。
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山根治(やまね・おさむ)  昭和17年(1942年)7月 生まれ
株式会社フォレスト・コンサルタンツ 主任コンサルタント
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●勾留の日々-つづき

「(1)看守という名の執事」より続く
http://consul.mz-style.com/item/412

(2)うっぷん晴らしとしての反則行為 -その1

房内には「被勾置者所内生活の心得」と「被収容者遵守事項」の
2つの冊子が備えつけられており、囚われの身となった以上これに
従わなければならない。
あれもいけない、これも駄目という具合にそれこそ一挙手一投足
に至るまで細かく規制されており、初めのうちはなんとも鬱陶しい
思いがしたものだ。
ところが馴れてくると、苦痛に感ずることもなくほとんど気にな
らなくなったのである。それどころか、規律的な生活に馴れてくる
とむしろ快感さえ覚えるようになった。
心の中では、看守のことを身の回りの世話をしてくれる執事か召
使いだと思うことにしていたが、勿論彼らとしてはそのように思っ
ているはずはなく、居丈高で横柄な態度を示す連中が多かった。
これがシャバであれば、もともと育ちが悪く、品がよくない私は、
「この野郎!」とか「無礼者!」とか喚いて叱りつけるところであ
るが、拘置所内では禁句である。このような言葉を発したら最後、
直ちに独房から引っ張り出され、看守に暴言を吐いて抵抗したとし
て取調室でつるし上げられ、問答無用とばかりに抗弁のかどで懲罰
を受けるのは必定だ。いきおい発しようとした言葉を寸止めにする
わけで、おのずとストレスがたまってくる。

私はそのたびに、看守の眼を盗んでは敢えてチマチマした反則行
為をすることにしていた。ストレス発散のためである。
まず、ホーキで部屋の掃除をして、チリトリに入れたゴミを水洗
トイレか流しに棄てた。掃除はいつでも行ってよいことになってい
るが、ゴミは定められたゴミ入れに入れる決まりになっており、水
洗トイレとか流しに棄てることなど、もっての外のことであり、見
つかったら大目玉を食った挙句、間違いなく懲罰ものだ。
次いで、流し台で洗濯をする。真夏に戸外で運動をして帰房する
と、それこそ下着が汗でズブ濡れになってしまう。部屋の中の流し
台では洗濯をしてはならないことになっているが、ズブ濡れの下着
をそのまま絞って乾かすなど気持悪くて仕方ない。常に看守が見廻
りをして監視しているので、わずか10秒位の時間を盗むようにし
て手早く洗濯して、サッと干すことにしていた。
あるとき、私の2つ隣の房の住人が、部屋の中で堂々と洗濯して
いたのが見つかって、一週間の軽屏禁(けいへいきん)をくらって
いたことがあった。部屋の中で禁じられている洗濯をするのは、結
構スリルがあって、面白いゲームであった。
あるいは又、拭身(しきしん)も結構行った。拭身とはタオルで
水を濡らして身体を拭くことであり、夏期に限って2つの場合だけ
許可されていた。
一週間に2~3回許されていた戸外運動の後に、戸外の洗い場で、
1分間だけ洗面器一パイ分の水を使って拭身をすることができたほ
かは、夏場だけ毎日、夕方6時の閉房前に1分間だけ洗面器ニハイ
分の水を使って拭身をすることが認められていたのである。
この2つの場合以外は、どんなに汗まみれになっていようとも、
濡れタオルで身体を拭くことが許されていない。
乾いたタオルで拭いても気持ちがスッキリしないので、それこそ
眼にもとまらぬ早ワザを駆使して、瞬時のうちに流し台の水道の栓
をひねり、タオルを濡らしては、せっせと身体を拭いたものである。
今もって、このようなことが罰則つきで禁止されている理由がよ
く分らない。

同様のことが、夏期に貸与されるウチワについても言える。食事
中、ウチワを使ってはいけないというのである。
熱い汁物を食べると元来汗っかきの私など、頭といわず顔といわ
ず全身から汗が噴き出してくる。それをウチワを使うなとくる。こ
んなこと馬鹿正直に守っていたら茹で蛸になってしまう。何故こん
なことまで禁止されているのか、考えてみれば私など裁判中の未決
囚であって、法の建前からいえば、刑が確定するまでは無罪の推定
を受けているのだ。
その他、接見のために出房し、途中の庭を通る際に、ヒバの木で
あったろうか、ヒノキのような香りのする植木の葉を密かに手でち
ぎっては部屋に持ち帰って香りを楽しんだ。
更に、一日に何回か、定められたとき以外に独房の中で足踏みを
してジョギングのかわりとした。これについては罰則がなかったの
で、叱られても叱られても繰り返した。室内ジョギングの歩数はそ
の都度獄中ノートに記録した。一日最低で5,000歩を目標とし
た。
一日中座り机に向っていると、肩は凝るし、全身の血のめぐりが
悪くなる。脳ミソに血液が十分に行かなくなると、もともとそれほ
どデキのよくない私の脳ミソがさらにイジケてしまうのである。膨
大な量の裁判資料を分析したり、読書をして古代日本の時空で遊ぶ
ためには、たとえ叱られたとしても30分に1回位の室内ジョギン
グは欠かせないものであった。

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●山根治blog (※山根治が日々考えること)
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「江戸時代の会計士 -9」より続く
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・ 江戸時代の会計士 -10

領民に対する第二の提案は、これまでワイロ政治が横行していた
ことを改め、今後は袖の下(ワイロ)は一切受け取らないし、領民
の側も渡してはならないというものでした。

恩田木工は、次の3つの提案に移っていきます。この3つの提案
は、前の4つの提案とは異なり、領民にとって一方的に有利なもの
ではなく、それに対応する“無心”とセットになっているものでし
た。

木工はまず、年貢の先払いをしている者達に向って、何故年貢の
先払いなどしたのかと問いかけ、

“先納すれば、何ぞ勝手によろしき筋これあり候て先納致し候や如何
(いかが)。”
(年貢の先払いをすれば、何か暮し向きにいいことでもあって先払い
しているのであるか、どうか。)

と更に踏み込んで問い質します。
領民は木工の問いに対して、とんでもないとばかりに、

“御役人様より仰せつけられ候故、迷惑千万には存じ奉り候へども、
余儀なく差上げ候。”
(いやいや、役人様より言いつけられますものですから、迷惑千万と
は思いながらも、仕方なく先払いしている次第です。)

と答えるのでした。
これに対して、恩田木工は、領民だけでなく先納を強いた役人ま
で頭ごなしに叱りつけます。

“それは縦(たとい)役人申しつけ候ても、当年貢より外は出さざる
筈(はず)に候。先納(年貢の一年分の前払い)さえ過分の事なる
に、先々納(年貢の二年分の前払い)まで差上ぐると言ふ事あるも
のか。其方共はよくよくの暗鈍者(たわけもの)なり。
さて又、百姓共が心よく出せばとて、役人が先納・先々納まで取
上ぐると言ふ事があるものか。甚だ無慈悲なる致し方なり。公儀に
あるまじきことなり。この段は大暗鈍(おおたわけ)ともいふべき
なり、役人は無慈悲なり。“
(そうは言うが、たとい役人が申しつけたにせよ、当年の年貢以外は
出さないとしたものだ。一年分の先払いさえ過ぎたことなのに、二
年先の年貢まで納めるということがあるものか。お前達はとんでも
ない「たわけ者」だ。
さて又、百姓達が言われたままに出すからといって、役人として
は、一年先、二年先の年貢まで取りたてるということがあるものか。
情け容赦のないやり方だ。おおやけの立場からすればあってはなら
ないことだ。この点「大たわけ」とも言うべきで役人共は無慈悲で
ある。)

木工はこのように領民に対しては「暗鈍者(たわけもの)」と言っ
て叱りつけ、一方では役人に対して更に語気を強めて「大暗鈍(お
おたわけ)」と叱りつけた上で、「無慈悲なり」と決めつけていま
す。領民以上に役人を叱りつけているんですね。木工はこのあとの
2つの提案に関しても、同じように双方を叱りつけながらも、役人
の方により厳しい言葉を投げつけています。領民としては、常日頃
横暴な仕打を受け、苦々しく思っている役人達が自分達以上に眼の
前で上司である木工に叱りつけられているのですから、さぞかし溜
飲の下がる思いがしたことでしょう。領民の心を掌握しようとして
いる政治家としての恩田木工の姿がここに見受けられます。

木工は領民・役人とも叱りつけた上で、一転して、次の言葉を発
するのです。

“斯(か)く言ふは、皆これ理窟といふものなり。”
(このように言うのは、皆これ理屈というものだ。)

理屈としては確かにけしからぬことではあるが、しかし、現実を
踏まえた上で見方を考えてみれば、双方ともやむをえない事情があっ
たとして、木工は双方を逆に誉め上げるのです。

(続きはWebサイトにて)
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