冤罪を創る人々vol.83

2005年10月11日 第83号 発行部数:415部

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「冤罪を創る人々」-国家暴力の現場から-

日本一の脱税事件で逮捕起訴された公認会計士の闘いの実録。
マルサと検察が行なった捏造の実態を明らかにする。
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山根治(やまね・おさむ)  昭和17年(1942年)7月 生まれ
株式会社フォレスト・コンサルタンツ 主任コンサルタント
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●勾留の日々-つづき

「(第五章)勾留の日々」より続く
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(1)看守という名の執事

私が逮捕勾留されたのが平成8年1月26日であったから、すで
に9年の歳月が経っている。逮捕されてから同年の11月12日ま
での291日間、私は松江市の郊外にある松江刑務所拘置監に囚わ
れの身となって閉じ込められていた。
自らを総括するために綴った「冤罪を創る人々」をWebサイト
でアップし終えた今、改めて想うことは、拘置所で過した日々がな
んとも懐かしいということだ。
そのためもあるであろうか、私は気分転換のドライブがてら折に
ふれて松江刑務所まで行っては往時を偲んでいるのである。
敷地内に入って拘置監まで行き、私が住んでいた独房とか風呂場
とかを確かめ、あるいは新米の見本のような若い医者がいた医務室
とか、町中ではとうてい開業などできないような未熟な歯科医がい
た部屋など、今はどうなっているのかを覗いてみたいのであるが、
国の施設であるとはいえ、なにせ特別の建造物であるために思うに
まかせない。
そこで、表玄関で記念写真を撮ってみたり、小高い所まで行って
刑務所を見下ろして見物しては楽しんでいるのである。

拘置所という所、別荘とはよく言ったもので、考えてみれば、働
かなくてもよいばかりか、三食昼寝つきで、毎日洗濯までしてもら
える。多少口うるさくてやかましいことさえガマンすれば、看守と
いう名の執事がいて、それこそ24時間体制で身の回りの世話をつ
きっきりでしてくれるのである。執事付きの別荘といったところだ。
用事があれば、独房の廊下側のドアについている指示器のボタン
を押せばよい。看守の肩書きをもった執事ドノ、なかなかしつけが
行き届いているとみえて、指示器の札が廊下側でパカッと上にあが
るや、すっ飛んできてくれるのである。それもドタバタと廊下を踏
み鳴らしたりはしない。忍者のごとく音もなくヌッと現われるので
ある。
独房の住人としては、おもむろに用事を言いつけるだけでよい。

「エンピツを削って下さい。」-独房内に小刃とかエンピツ削りが
ないのである。自傷とか自殺防止のためだ。

「ハエたたきを貸してください。」-無断侵入してきたゴキブリを
退治するためである。

「情願用紙を下さい。」-拘置所の処遇に文句をつけるためである。

「房内放送の音を小さくして下さい。」-夜になると決って野球の
実況放送が流れていたが、野球にさほどの関心のない私にとっては
雑音以外の何ものでもなく、うるさいのである。

「仮出しのお願いがしてある本はまだ持ってきていただけないでしょ
うか。」-本の差入れが外部からあっても直ちに入房することはな
く、願箋に仮出し願を書いて待つのであるが、黙っていると一ヶ月
経っても入ってこないことがある。入ってくるまで根気よく言い続
けないといつまでも放っておかれるのである。

ところで、看守が独房までやってくるのは、一日にどの位の回数
であったろうか。
まず、朝晩の点呼で2回。3食の配食と回収とで6回。自弁品の
注文取りに朝1回、自弁品の配達に昼食前に1回。手紙、電報の配
達と回収に数回。洗濯物の回収と配達で2回。書籍、新聞の配達と
回収に1回。裁判関係の文書の配達。これに、上記のような臨時の
用事が一日数回。
更に、一日2回に限定されている一般面会の連れ出しに2回。回
数が制限されていない弁護士の面会、検事取調、あるいは裁判所へ
の連れ出し。
このように数え上げてみれば、看守が所要のために独房まで足を
運び私と話しをするのは、一日に20回は下らないことになる。
しかも私の場合、手紙とか葉書の数が半端なものではなかったので、
担当看守はさぞかし大変な思いをしたことであろう。
入房する手紙類は全て差出人の名前等が記入されたノートによっ
て監理されており、一通一通確認した上で手渡してくれるのである。
受領の証として黒スタンプ台に右手の人差し指を押しつけ、指先を
黒くしてノートに指印を押捺することが求められた。二日ほどして
手紙類が房内から回収され領置される際にも同様に一通一通指印を
押すわけで、それを正確に管理する看守の作業量はかなりのもので
あった。

(続きはWebサイトにて)
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●山根治blog (※山根治が日々考えること)
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「江戸時代の会計士 -8」より続く
http://consul.mz-style.com/item/408

・ 江戸時代の会計士 -9

領民に対する第二の提案は、これまでワイロ政治が横行していた
ことを改め、今後は袖の下(ワイロ)は一切受け取らないし、領民
の側も渡してはならないというものでした。

“手前儀、祝儀愁嘆(しゅうたん)によらず、惣(そう)じて音物
(いんもつ。おくりもの、贈答の品)を一向(いっこう)受けず候
間、何程軽き品たりと持参無用いたすべく候。 …… 以後皆々の願
の筋は手前が承り届け候間、その外へ賄賂遣(つか)ふに及ばず。
惣じて諸役人へも、向後音物致すこと堅く無用に致すべき事なり。“
(拙者、祝いごとにせよ悲しみごとにせよ、すべて贈り物は一切受け
取らないので、たとえわずかな品であっても持ってきたりしてはい
けない。 …… 今後は領民の要望については拙者が聴くことにする
ので、その他へワイロなどつかうには及ばない。なべて役人達への
贈り物は、今後堅く禁ずることとする。)

領民としては役人へのワイロなどしなくてもよいのであればそれ
こそ願ってもないことですので、

“一同有難き趣き申し上げ候。”
(一同有難いことと、申し上げた次第である。)

と、木工の第二の提案に大喜びです。

次いで木工は第三の提案に移ります。木工は、-

“さて次に、これまでは千人の足軽、百人は所々の番に残して、九百
人は月々村々へ年貢催促に遣はし候由、いよいよ左様に候や。この
段は已後(いご)一人も出し申さざるつもりにて候間、左様相心得
申すべく候。”
(さて次に、これまでは千人の足軽のうちで、百人だけはそれぞれの
部署に残しておき、九百人は毎月各村々へ年貢の催促に派遣させて
いたようであるが、本当にそうであったのか。このことについては
今後一人たりとも年貢の催促に行かせないつもりであるから、その
ように心得るように。)

と切り出し、

“それとも、出しつけ候人高(ひとだか)出さずば、皆々難儀に相成
り申すべきや如何。”
(それとも、これまで催促に行かせていた人数を出さないようにすれ
ば、何か皆の者に困ることでもあるというのであるか、どうか。)

と領民に問いかけるのです。

領民は口を揃えて次のように申し立て、心から納得し満足します。

“その儀は猶以(なおもっ)て有難き御儀に存じ奉り候。御足軽衆、
在方(ざいかた)へ御出で候ては、御年貢催促ばかりにては御座な
く、五日も七日も逗留のうへ荒びられ、こまり、諸人難儀仕り候。
此末(このすえ)一人も御出し下されまじくとの御事なれば、千万
有難き仕合(しあわせ)に存じ奉り候。”
(そのことにつきましては、誠にありがたいことでございます。足軽
の方々は、現地にお越しの際は、年貢の催促をなさるだけではござ
いません。5日も7日も居すわっては好き勝手に飲み食いなさるの
で、私共困り果て、難儀しております。今後は一人もお出しになら
ないということであれば、こんなにありがたいことはございません。)

木工の四番目の提案は、本税以外の税を免除したいというもので
した。

“手前事も長き事は計り難き故、先づ五ヶ年この役儀相勤め候つもり
故、その間、地方普請(じかたふしん。領内の川普請。道橋普請の
こと)等は格別、御上へ勤め候役儀は諸役共に免じ候つもりに候間、
左様に相心得べく候。それとも、皆の為に、役も勤めずば難儀にな
るべきや如何(いかが)。”
(拙者も先のことまでは分らないが、取り合えず向う5年間はこの役
目を勤めるつもりでいるので、その間は、地方普請はともかくとし
て、御上に奉仕する労役は、その他の雑税と共に免除するつもりで
ある。よってそのように心得るように。それとも、皆の者にとって、
勤労奉仕をしなければ困ることでもあるのかどうか。)

当時領民に課せられていたのは年貢(本途物成り)だけではあり
ませんでした。その他にも労働課役や各種の雑税があったのです。
当然のことながら領民にとっては大きな負担となっていました。
木工は領民に対して、今後は、本来の税である年貢だけを納めれ
ば十分であるとして、その他の税目は免除しようというのですから、
それを聞いた領民達は狐にでもつつまれたような気持だったことで
しょう。
勿論領民に異論などある訳がありません。

(続きはWebサイトにて)
http://consul.mz-style.com/item/413

 

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