ホリエモンの錬金術 -8

平成11年11月5日、有馬晶子さんの持株120株の全てが堀江さんに譲渡されます。譲渡価格は一株300万円、総額で360百万円。株式の移動理由は「売却人の資金化の必要」(新株発行届出目論見書73ページ)とされています。ところが、この120株の移動について同目論見書76ページ(注5)では、「資金調達を目的とする発行」であるとして、明らかに事実に反する虚偽の記載がなされています。

実は、ホリエモンが有馬晶子さんから120株を一株300万円で購入したと言っていることは、単なる部分的な虚偽の記載にとどまるものではありません。
この時に3億6千万円(300万円×120株)という購入資金は実際には動いている形跡がありませんので、この取引そのものが架空のものである可能性が高いのです。
何故このような小細工がなされたのでしょうか。それは、前回指摘した一株300万円という、額面の60倍にもつり上げた会社の株価を、いかにも現実らしく装うためであると考えられます。つまり、共同経営者である有馬晶子さんの株式を一株300万円で購入したように見せかけて、一株300万円という評価額が現実的なものであるかのように世間を欺いているらしいのです。
この3億6千万円の株式売買が架空取引である(らしい)ことは、ホリエモンのトリックを破るためのキー・ポイントとなるものです。私の推断は、決して水かけ論に終わるものではありません。
借名株(有馬純一郎の名前を騙ったホリエモン所有の株式)とも密接に関連していますので、回を改めて詳述いたします。

平成11年12月17日、堀江さんは、大和証券エスビーキャピタル・マーケッツ株式会社(現、大和証券SMBC)と株式会社光通信パートナーズに対して、持株700株(580株+120株)のうちから、それぞれ、30株と10株とを譲渡しています。一株300万円、総額はそれぞれ、9,000万円と3,000万円。この譲渡についても、同じ(注5)が付けられ、「資金調達を目的とする発行」と虚偽の記載がなされています。この二者に対する株式譲渡は、ホリエモン・トリック(評価のつりあげ)のいわばアリバイ作りに使われたと思われるものです。
この二者はホリエモンのアリバイ作りに協力したいわば“共謀者”であり、その報酬は、“かご抜け増資”による不公正なキャピタルゲインでした。
これについては、「事業の概況等に関する特別記載事項」(同目論見書22ページ)の10.その他、(4)に堂々と記載されています。

“同社の当社株式保有(山根注:堀江貴文から譲渡を受けた30株のことです)は、投資銀行業の一環としてキャピタルゲインを得ることを目的としたものであります。”

大和証券SBCM(現、大和証券SMBC)といえば、大和証券と住友銀行が設立した資本金2,056億円、従業員1,700人という日本を代表するインベストメント・バンクの一つです。このような会社が裏でこのように破廉恥なことをして荒稼ぎをしようとしているのですから驚きを通り越して呆れてしまいます。
この段階で改めて整理してみますと、株式の所有状況は以下のようになります。

***◆平成11年12月17日(二社への株式譲渡後)
+会社の資本金 340,000千円
+会社の資本準備金 300,000千円
+会社の発行済株式数 1,000株
+株主9名の持株状況
^^t
^cc^No.
^cc^株主
^cc^持株数(株)
^^
^1
^堀江貴文
^rr^660株
^^
^2
^(株)光通信
^rr^150株
^^
^3
^有馬純一郎
^rr^80株
^^
^4
^(株)グッドウィル・
コミュニケーション
^rr^50株
^^
^5
^大和証券SBCM(株)
^rr^30株
^^
^6
^(株)光通信パートナーズ
^rr^10株
^^
^7
^宮内亮治
^rr^8株
^^
^8
^和井内修司
^rr^8株
^^
^9
^小飼弾
^rr^4株
^^
^cc” colspan=”2^計
^rr^1,000株
^^/
株式会社オン・ザ・エッヂのように、設立間もない、さほど利益を出していない零細企業を、実質的に見せかけに等しい多額の増資を行なってもっともらしい企業に見せかけ、企業の評価を異常につり上げて上場させ、創業者利得を装って巨額の不当な利益を手に入れる、-にわかには信じがたい行為が白昼堂々と行なわれたようなのです。
これは、東証一部上場企業である株式会社光通信とか、大手証券会社系のインベストメント・バンクである大和証券SBCM株式会社が深く関わっていますので、ホリエモンのケースは氷山の一角であって、他にも同様のことがかなり行われている可能性があります。
私は以下、5年前のマザーズ上場にからんで繰り広げられた、“かご抜け増資”の実態と、株式市場から金を騙し取るに等しい行為の実態を、改めて事実に即して辿っていくことにいたします。尚、“かご抜け増資(又は買取り)”について、株式会社光通信は、「事業拡大の一環」と称し、大和証券SBCM株式会社は、「投資銀行業務の一環」と称し、共にキャピタルゲインを得ることを目的としていると言っています。
私はここで、このカラクリがいかなるものであったのか、会社の評価という観点から明らかにいたします。

1.まず、平成11年8月3日、一株5万円で600株、株主割当で3,000万円の増資がなされます。この時、和井内修司さんと小飼弾さんに割り当てられた、それぞれ24株と12株とが一株5万円で堀江貴文に譲渡された(らしい)形跡があります。一株の時価は5万円という訳です。

2.同年9月4日に(株)光通信に対して、9月30日に(株)グッドウィル・コミュニケーションに対して、一株300万円でそれぞれ150株、及び50株の第三者割当増資が行われます。
この段階で、一株の評価は5万円から300万円へと60倍に引き上げられています。わずか1ヶ月の内にです。しかも会社の業績は悪化している最中でした。ホリエモン・マジックの第一のカードです。

3.その後、60倍に引き上げられた300万円という株価をもっともらしく見せかけるために、ホリエモンが有馬晶子さんから一株300万円で購入したことにしてみたり(架空)、株式会社光通信パートナーズと大和証券SBCM株式会社へ実際に一株300万円で売却したりして、いかにも300万円という評価が現実的なものであるかのように見せかける小細工を施しているのです。ホリエモン・マジックの第二のカードです。

4.平成12年1月12日、いよいよホリエモン・マジックの第三のカードが切られます。
この時会社は、資本準備金を取り崩して資本に組み入れると同時に、1:12の株式分割を実施しています。その後矢継早に、法外な株式分割が4回も繰り返されるのですが、その第1号となるのがこのときの株式分割(1株を12株に分割)なのです。この株式分割こそ、ホリエモン・マジックの第三のカードです。
資本準備金の組み入れと、株式分割ですから、資金は一切動くことはありません。取締役会の決議と帳簿上の書き換えだけで済むことです。
この段階で会社の資本金等は次のようになりました。

***◆平成12年1月12日(1:12の株式分割後)
+会社の資本金 600,000千円
+会社の資本準備金 40,000千円
+会社の発行済株式数 12,000株(1,000株であったのが、1株を12株に分割したので12,000株)
+株主9名の持株状況
^^t
^cc^No.
^cc^株主
^cc^持株数(株)
^cc^備考
^^
^1
^堀江貴文
^rr^7,920株
^660株×12
^^
^2
^(株)光通信
^rr^1,800株
^150株×12
^^
^3
^有馬純一郎
^rr^960株
^80株×12
^^
^4
^(株)グッドウィル・
コミュニケーション
^rr^600株
^50株×12
^^
^5
^大和証券SBCM(株)
^rr^360株
^30株×12
^^
^6
^(株)光通信パートナーズ
^rr^120株
^10株×12
^^
^7
^宮内亮治
^rr^96株
^8株×12
^^
^8
^和井内修司
^rr^96株
^8株×12
^^
^9
^小飼弾
^rr^48株
^4株×12
^^
^cc” colspan=”2^計
^rr^12,000株
^
^^/
この段階で、一株の評価額は300万円の12分の1の25万円となります。
この一株25万円という評価自体、株数が12倍に増えており、当初の評価額は5万円の12分の1の4,166円となりますので、その60倍であることはいうまでもありません。

平成12年4月6日、マザーズ上場。会社は上場時に、1,000株を公募価格600万円で売り出します。この評価額(公募価格)600万円は、12分割後の評価額25万円の24倍に相当します。
株式会社光通信などへ一株300万円で第三者割当を行なったり、大和証券SBCM株式会社などへ一株300万円で株式の譲渡を行なっていますので、公募価格の600万円は一見すると単に2倍に引き上げられたように見えます。
しかし、この間にホリエモン・マジックの第三のカードである株式の12分割がなされていますので、2倍ではなく24倍になるのです。
上場初日は、相場全体の地合いが悪く、公募価格の600万円を25%下回る450万円の売り気配で引けています。翌4月6日に440万円の初値がつき、263株の出来高で終わっています。
その後、会社の株価は、上場後第一回目の決算期(平成12年9月30日)までの間、高値は561万円、安値は140万円で推移することになります。

以上をまとめてみますと、平成11年8月3日に、一株5万円であった会社の株式の評価額が、1ヶ月後の第三者割当時に60倍の300万円に引き上げられ、12分の1の株式分割によって、12分の1の25万円に引き下げられ、平成12年4月6日の上場時に再度25万円の24倍の600万円に引き上げられています。目が回りそうですね。
つまり、当初に比較して、
60倍×24倍=1,440倍
にもつり上げられています。
わずか8ヶ月の間に、会社の評価額が驚いたことに1,440倍もつり上げられているのです。
これは、8ヶ月前のホリエモンの出資金2,900万円(5万円×580株=2,900万円)が、会社の評価という名のゴマカシのカラクリによって、417億円(2,900万円×1,440倍=417億円)というとんでもない評価へと、中味のないフーセンのように膨れ上がったことを意味します。ホリエモンが、「ライブドアの企業価値は2,000億円だ」などとホラを吹いていることのルーツがここにあるのです。架空のものであり、中味がないのです。
このたびのニッポン放送株買収の際に、親交のある起業家の一人から「失敗したらライブドアは経営危機に陥るのではないか」と問いかけられたのに対して、ホリエモンが「だって、うちは実体がないんだからさ、リスクなんてないよ」と言い放ったといわれています(日経ビジネス2005年3月28日号、児玉博“堀江貴文は挑発する”P.163)。会社の実体がないことをホリエモン本人が自覚しており、うっかり本音がでてしまったのでしょう。
“かご抜け増資(又は買取り)”を行なった各社の評価額のつり上げは、次のように24倍になっています。60倍に引き上げられた架空の評価額を、更に24倍もつり上げているのです。
+(株)光通信 4億5千万円 → 108億円
+(株)グッドウィル・コミュニケーション 1億5千万円 → 36億円
+(株)光通信パートナーズ 3千万円 → 7億2千万円
+大和証券SBCM(株) 9千万円 → 21億6千万円
1.は7ヶ月の間に、2.は6ヶ月の間に、3.と4.は4ヶ月の間につり上げられているのです。
上場時点で欠損会社に転落しており、上場後も益々欠損の幅が大きくなっていた株式会社オン・ザ・エッヂという会社の上場時の株価は、会社の実態を全く考慮することなくそれぞれの会社が不正な利益を得るために好き勝手に決められたもので、犯罪的なものであると言えるでしょう。
株式市場と大手証券会社とを信頼して、一株600万円で買い取った一般投資家を欺瞞する行為以外の何ものでもありません。

―― ―― ―― ―― ――

ここで一句。

“六本木、カネに群がるゴマのハエ” -Auge Mensch。

(ゴマのハエはホリエモンだけではないようです。六本木界隈にもかなりいたりして。)

 

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