原発とは何か?-⑫

 平成23年3月期の期末日に、東京電力に対して大手銀行8行が、合計1兆9,650億円の緊急融資を行なったのは事実である。しかも、東京電力は前代未聞の大事故を起しており、事故収拾費と損害賠償費はともに天文学的な数字が想定されており、一瞬にして債務超過に陥った蓋然性が高い時期である。通常想定されるシナリオは、日本航空のように債務超過→法的破綻処理に至るプロセスだ。

 株式市場は敏感に反応し、事故直前の株価2,121円(平成23年3月11日終値)から暴落をつづけ、決算期日の一日前には、466円(平成23年3月30日終値)になっている。わずか半月ほどで下げ幅が80%超という典型的な企業破綻のパターンを示している。

 更には3月15日の早朝、菅直人総理は東京電力の本社に乗り込んで、
『撤収なんてありえない。そんなことをすれば東京電力は100%つぶれる』
と叱責してクギを指している。14日の深夜、東京電力が福島第一原発の現場からの撤収を官邸に打診したのに対して菅直人氏がとっさにとった行動である。当時この事実について報道したのは毎日新聞とそれを引用した外電だけであった。国内の他の報道機関は沈黙を守り、東京電力はこの事実を否定してきた。
 ところが、菅氏は総理退任後、

「あれがなければ東電は撤退していた。首相として一番やりとげた感じがある。」

と振り返り、官房長官であった枝野幸男氏も退任後、読売新聞のインタビューに答えて、この事実を認め、具体的な経過を明らかにし、

“菅氏の対応について「菅内閣への評価はいろいろあり得るが、あの瞬間はあの人が首相で良かった」と評価した。”(2011年9月8日、読売新聞

 3月15日という早い段階で、日本政府の最高責任者が、東電の幹部に対して、対応いかんによっては東電は100%つぶれると明言し、法的破綻処理を示唆しているのである。

 そのような時期に、大手8行は2兆円近くの巨額融資を無担保で行った。敢えて火中の栗を拾ったのである。
 100万円とか1,000万円単位の、支店長が決済できる範囲の金額ではない。

^^t
^三井住友銀行
^rr^6,000億円
^^
^みずほコーポレート銀行
^rr^5,000億円
^^
^三菱東京UFJ銀行
^rr^3,000億円
^^/
といった巨額の融資である。その上、異常事態の会社に対する緊急融資だ。
 融資部長決済、あるいは頭取決済でさえできることではない。取締役会の決議を必要とする案件だ。ガバナンスの上で当然のことである。
 その際最も大きな課題は融資をしても無事回収できるかどうか、つまり、回収可能性である。
 東京電力には担保余力はもちろんない。膨大な事故処理費に加え、無過失かつ無限の損害賠償義務がすでに発生しているからだ。
 このため無担保融資にならざるを得ない。資金の回収を担保する物的な担保がない場合、それに替わるものが必要だ。保証である。保証能力のある人物もしくは機関による保証が不可欠だ。
 銀行側は国会の委員会において、「暗黙の政府保証」について頑なに否定している(「第177回国会 東日本大震災復興特別委員会 第12号(平成23年7月13日(水曜日))」参照)が、実際のところは「暗黙の政府保証」どころか、文書の形で事実上の政府保証がなされていたのではないか。債権回収についての明確な裏付けがない限り、巨額の緊急融資に関して、各銀行の取締役会で承認されるはずがなからだ。
 何故か。仮に、無担保、無保証で融資をし、資金の回収ができなくなった場合には、頭取以下の取締役は全員、代表訴訟のターゲットとして個人的に損害賠償を請求されかねない。そうなったら全員破産だ。その上に背任罪などで刑事訴追されるおそれさえある。小心翼々としている銀行マンが、このように致命的なリスクを承知の上で巨額融資に応ずるとはまず考えられない。
 従って、巨額融資の背景には、融資金が回収されるまでの詳細なシナリオが存在し、文書によって事実上の政府保証がなされていたと考えるのが自然である。

(この項つづく)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“叙勲なら断る準備できている” -福岡、ナベトモ。

(毎日新聞、平成23年9月7日付、仲畑流万能川柳より)

(私もです。但し、私の場合、折にふれてお上(かみ)に文句をつけているので叙勲など100%ありえません。)

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