ホリエモンの錬金術 -4

ホリエモン・マジック・ショーのメイン・イベントは、光通信とかグッドウィルとか大和証券SMBCを仲間に引き入れて、幻の優良会社をデッチ上げることでした。ホリエモンの第1の、しかも中核となるトリックです。

この幻の優良会社を、幻が消えてしまわないように支え、補強するために繰り出されたと考えられるのが、通算3万分割にも及ぶ株式分割であり、株式分割とセットのように行なわれた2回にわたる公募増資でした。ホリエモンの第2のトリックです。

3つ目のトリックは、法外な株式分割あるいは公募増資とセットでなされた決算数字のお化粧です。上場後の株価を維持、あるいは更につり上げるためのものでしょうか。
一見急成長している優良会社のような決算書になってはいるのですが、連結、単体とも、じっくりと分析してみますと怪しげなところが随所に見受けられるのです。上場会社の決算書で、有報の上から数々の“いかがわしさ”がこれほど透けて見えるものは、めったにありません。
以下、私がライブドアの決算書を敢えて“いかがわしい”ものであると判断した根拠の一端を示します。
たとえば、連結調整勘定、営業権、新株発行権、貸倒引当金などの会計処理の仕方とか表示方法が、期毎にかなりフラフラしているようですし、毎期のようになされている子会社との利益のキャッチボールとか怪しげな在庫の計上など、ドタバタとなんとも賑やかな決算になっています。

なかでも面白いのは、第9期(平成16年9月期)の単体のB/S上に計上されている565百万円の仕掛品です。仕掛品の評価基準と評価方法は、「個別原価法による原価法」と注記され、原価計算は、「実際原価による個別原価計算を採用」と注記されています。
そこで原価計算を見てみますと、第9期から事業区分が5つから6つに組み替えられており、それに対応して6つの原価明細書が示されています。(「[[ホリエモンの錬金術 -4(※資料1)]]http://forest-consultants.com/item/276」参照)
この原価明細書には2つの部門に仕掛品が合計で、26百万円ほど計上されており、残りの4つの部門には全く計上されていません。B/S上との差異の539百万円は一体どうしたのでしょうか。
しかも、「主な資産及び負債の内容」を見てみますと、仕掛品565百万円全額がソフトウェア事業のものとなっているのですが、ソフトウェア原価明細書にはどこを見ても仕掛品がないのです。つまり、仕掛品の計上根拠が疑わしいものとなっており、同様のことは、第8期(平成15年9月期)でも言えることです。(93百万円が不明)。これだけでも、利益の過大計上を疑われても仕方ないでしょう。
この539百万円という金額は、第9期の経常利益(単体)1,410百万円の38%にも相当するもので、無視できるものではありません。(「[[ホリエモンの錬金術 -4(※資料1)]]http://forest-consultants.com/item/276」参照)

これらのことは有報をよく見れば分かることです。しかし、有報だけでは推測はできても判りかねるものがあります。
債権の評価もその一つです。

第9期の単体B/Sの貸倒引当金を見てみますと、ほんの申し訳程度(1,972千円)計上されているだけで、第8期に計上されていた貸倒引当金の大半が取り崩され、単体のP/Lで特別利益(貸倒引当金戻入額)として141百万円計上されています。引当金明細表の注記には、「一般債権の貸倒実績率による洗替額であります」とだけ記されており、単体B/Sの注記にある「貸倒懸念債権等特定の債権」については言及されていません。ただ、それに対応する「回収不能見込額」が単体B/Sの上でも単体P/Lの上でも全く反映されていませんので、貸倒懸念債権は全くないということなのでしょう。
これは平たく言えば、改めて債権の見直しを行なってみたところ、不良債権は見当たらなかった、ということです。
しかし、第9期は、債権が大幅に増えています(しかも大半が、買収した赤字子会社へのものです)し、前期までの不良債権はどうなったというのでしょうか。
眼を第9期の連結に転じてみますと、連結B/S上に突然1,466百万円の「固定化債権」(不良債権のことです)というなんとも紛らわしい名の勘定科目が登場し、貸倒引当金もまた1,662百万円計上されています。
調べてみますと、この「固定化債権」は、第9期中に買収した日本グローバル証券(株)(現、ライブドア証券(株))が以前から抱えていた不良債権でした。
ライブドア証券の第63期中間期末(平成16年9月30日)の貸倒引当金の計上額は、1,609百万円ですので、連結B/S上のその他の会社(ライブドア本体を含みます)の引当金は、53百万円(1,662百万円-1,609百万円)ということになります。
以上のことは、ライブドア単体には不良債権は存在しないし、グループ全体で見ても、ライブドア証券以外には、不良債権はほとんど存在しないことを意味します。果して本当でしょうかね。

同様のことは、債権以外の資産の評価にも言えることです。
第9期の連結B/S上に46億円余りの無形固定資産が計上されています。その大半が過年度には経費として発生年度に一括処理されていたものです。ライブドアは、金額が大きくなってきたので償却資産に計上することにしたと言っているのですが、この処理方法の変更に、企業会計原則と連結財務諸表原則が求めている「正当な理由」が果してあったのでしょうか。いやそれよりも、そもそもこのようなものに「資産性」があるのでしょうか。
無形固定資産の中でもとりわけ怪しいのは、営業権(1,121百万円)と連結調整勘定(2,408百万円)の二つの勘定です。これらはライブドアが買収した会社に関連するものと推測されるのですが、株式の交換とかTOBによって買収した会社のほとんどが累積赤字の会社で、まともに利益を計上していないようですので、これらの「資産性」について強い疑念が湧いてくるのです。
同様の処理の変更(一括処理から償却資産計上へ)は、繰延資産(連結B/S計上額205百万円)についてもなされています。
仮に、これらの資産性が認められないものとすれば、連結P/Lにおいては、公表上では、税引前当期利益が54億円程計上されていますが、この37億円を一括償却し(資産性が認められないとこうなります)、さきに指摘した仕掛品が認められないものとすれば、合わせて43億円程になりますので、これだけでも、第9期の54億円程の利益は11億円へと激減してしまいます。連結B/Sについて言えば、45億円弱の利益剰余金の95%(43億円÷45億円)が吹き飛んでしまうことになります。

無形固定資産の中の連結調整勘定で言えば、第7期(平成14年9月期)の決算書において、986百万円が連結B/S上で資産計上されています。
注記を見ますと、「子会社の実体に基づいた適切な償却方法及び期間で償却しております」となっているものの、連結P/L上には当期の償却費は計上されていません。このことは、それなりの内部事情があったかもしれませんので、これ以上の言及はしませんが、問題なのは「注記」です。
第7期の有報の注記と第6期の有報の注記とがすんなりとは継がらないのです。
つまり、第6期の有報の注記を見れば分かるのですが、第5期においては、「連結調整勘定の償却は、発生年度において一括償却しております」となっているものの、第6期については、単に「-」とだけ記されており、処理基準が継続されているのか変更されたのか記されていません。(「[[ホリエモンの錬金術 -4(※資料2)]]http://forest-consultants.com/item/277」参照)
ところが、第7期の有報の注記を見てみますと、不思議なことに、第6期の有報の注記では「-」と記されていたのが、突然「子会社の実体に基づいた適切な償却方法及び期間で償却しております」となっているのですから驚いてしまいます。コソコソとなにをやっているんでしょうね。このようなコソコソは、第9期の営業権でもなされています。
この事実は、会計処理の方法を変えた場合には、「変更の旨」、「変更の理由」、「変更による影響額」を注記によって開示するように定めた連結財務諸表規則第13条及び第14条に違反しているおそれがあります。同時に、平成14年12月20日付の神奈川監査法人の監査報告書は、「前事業年度と同一の基準に従って継続して適用されており」として、無限定適正意見を表明していますがいかがなものでしょうか。念のため、第7期の有報の隅々まで目を通してみたのですが、これらの開示はなされていません。ただ、連結調整勘定としてキャッシュフロー計算書の注記に986百万円開示され、この金額がそのまま連結B/S上に連結調整勘定として986百万円計上されているだけで、連結P/Lへの影響額等については開示されていないのです。このような「コソ泥」まがいの行為は、無形固定資産に計上されている連結調整勘定の資産性に対する疑念を更に増幅させるものです。
専門的になってしまいましたが、判りやすく言いますと、第7期の連結の当期利益780百万円が怪しいのではないか、ということです。つまり、986百万円の連結調整勘定を従来通り一括処理すれば、780百万円の黒字決算が一転してマイナス206百万円の赤字決算になってしまうのです。(「[[ホリエモンの錬金術 -4(※資料2)]]http://forest-consultants.com/item/277」参照)
ちなみに会社は、平成15年9月に公募増資を実施し、株式市場から48億円余りの金を集めています。
そのときの「新株発行届出目論見書」の中で最近3年間の連結業績等について、直近の決算期である

“第7期につきましては、営業譲受を含めて7社に及ぶ積極的なM&Aを行ったこと等によって、急速に事業が拡大し、増収増益となりました。”

と誇らしそうに記載しています。この増収増益という記載の真否を疑わしめるのが、第7期の連結調整勘定の不透明かつ、いかがわしい扱いなのです。同じ記載は、平成16年4月に行なわれた公募増資の際の「新株発行届出目論見書」の中でもなされており、投資家の判断を誤らせたおそれがあります。

あの手この手でお化粧が施されているのは紛れもない事実です。更には、有報の上から上記以外にも数々の“いかがわしさ”が透けて見える以上、外部からは判断のしようがない売上高とか売上原価が、本当に信用できるのか、問題になってきます。(ちなみに、第9期の単体の売上総利益率(売上総利益÷売上高)が、第8期の32.4%から、一気に44.5%へと12.1%もアップしています。)。
違法とされる粉飾決算であるかどうかは、会社の再監査をしてみなければ判断できませんので、現段階での判断は差し控えます。
ただ、適法か違法かの問題は再監査にゆだねるにしても、企業の経営実態を直視する経営診断という立場に立ってみますと、ライブドアは、上場以来、連結でも単体でも全く利益を出していない、それどころか、資本金と資本剰余金までも大幅に食い込んでいるもの(つまり欠損会社ということです)と考えられます。
これが30年間会計屋として飯を食ってきた私の判断です。

このことは、お金の流れ(キャッシュ・フロー)から裏付けられます。お金というものは正直なもので、どのように化粧しようとも化粧を剥がしてしまいます。
ライブドアのマネーゲームの顛末(平成11年10月1日から同16年9月30日まで)は次の通りです。これは、会社が開示している第5期から第9期までの連結キャッシュ・フロー計算書を集計して作成したものです。
***<現預金の増減>
^^t
^1.平成11年10月1日現在
^rr^613,049千円
^^
^2.財務活動による収入
^rr^47,704,387千円
^^
^3.事業活動収支差額
^rr^△2,789,334千円
^^
^4.換算差額
^rr^△17,541千円
^^
^5.平成16年9月30日現在
^rr^45,510,561千円
^^/
これは、手持資金613百万円でマネーゲームを始めたライブドアが、5年の間に3回の増資などで一般投資家等から47,704百万円をかき集めてあれこれとマネーゲームをやってみたところ、5年間の資金収支は2,789百万円の赤字であったことを示しています。つまり、ライブドアというギャンブル・ファンドは、この5年の間に、2,789百万円の資金を減らしているということです。
平成16年9月30日現在のライブドア単体の現金預金は、30,871百万円、公表上の純資産(資本合計)は51,129百万円ですので、現金預金と換金可能な資産は、この2つの数字の中間にあります。私は単体B/S上にある資産は、ゴーイング・コンサーン(継続企業)の幻想が終結した場合には、少なくとも50億円余りの評価減が必要である考えていましたので、連結キャッシュ・フローの現金預金残高45,510百万円とおおむね一致いたします(公表上の純資産51,129百万円-評価減5,000百万円=46,129百万円)。

決算書は経営者の姿を反映する、と言われます。
たしかに、ソロバンと電卓とエンピツを手にして、決算書をいじくって遊んでいると、数字とか注記の後ろから、経営者の様々な顔が浮かんでくるものです。
ライブドアは、上場以来5回の決算を行ない、その都度、有報を提出しています。そのいずれの決算においても、決算を組む直前になって、慌てふためいて決算対策に頭を悩ましている財務担当者とホリエモンの姿が、私の脳裡に鮮やかに浮かんでくるのです。面白いですね。
ドタバタ決算とでも言うのでしょうか。

[付記]
平成17年3月29日、(株)エフェクター細胞研究所が名証セントレックスに新規上場されました。主幹事はライブドア証券。
5年前に、ホリエモンが自らの会社((株)オン・ザ・エッヂ)を上場させるために行なった“いかがわしい”行為が再び行なわれ、一般投資家を犠牲にして、ライブドア証券をはじめ多くの上場関係者が巨額の不公正な利益を得ているようです。ホリエモン傘下にあるライブドア証券、日本の株式市場は、一体いつからこのような無法者が跋扈(ばっこ)する賭場になったのでしょう。図体ばかりが大きくなった東証、大男総身に知恵が回りかね、といったところでしょうか。
第9期のライブドアの売上と売上総利益とが急増した背景には、あるいは、このような詐欺的行為とも言えるエセ創業者利得、あるいは上場支援を装った不公正な収益(キャピタルゲイン)が多く含まれている可能性があります。
また、第9期の貸倒引当金が奇妙な動きをしているのも、怪しげな“上場支援事業“が関係しているかもしれません。つまり、債権とか投資事業組合への出資金などを洗い直してみたところ、それまで仕込んでおいた多くの会社の不公正な上場シナリオが現実的になってきたために、出資金等の評価額がアップし、貸倒引当金を敢えて計上しなくてもよくなったとも考えられるのです。 (つづく)

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ここで一句。

“ホリエモン決算前にはドタエモン” -Auge Mensch(アウゲ メンシュ)。

(堀江さんは、企業経営はおろか、上場企業の決算さえどのようなものであるのか、ご存じないようです。台所にある魚を盗み食いしたドラ猫が、口をぬぐったつもりで素知らぬ顔を決め込んでいても、口のまわりにウロコがしっかりついていたりして。バレバレ?)

 

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