西武鉄道 グループの資金繰り-3

私は、“西武鉄道 グループの資金繰り-1”の冒頭に、西武鉄道が自ら作成した「有価証券報告書」の中で面白いことを言っていると記しました。

 それは、「営業活動によるキャッシュ・フローを600億円とすること」と、「有利子負債の削減を進めるため、フリー・キャッシュ・フローを200億円とすること」を目標にしており、「キャッシュ・フロー重視の経営」を行っている、と自慢そうに言明しているからでした。



 まず、フリー・キャッシュ・フロー(借入金返済可能資金のことでしょう)を200億円とすることをグループの目標としていることは、長期借入金とされている借入金だけでもその約定返済額が、既に述べましたように(“ゴーイング・コンサーンの幻想-6”)、

1年目1,138億円
2年目1,230億円
3年目699億円
4年目1,101億円
5年目1,250億円



と、200億円をはるかに超えることが明らかですので、西武グループとしては、銀行に約束した通りには返済を行なわないと前もって宣言しているようなものです。



 現実の収益力をはるかに超えた借入金を背負った会社が、稼いだ範囲内(つまり200億円)で返済をしてやる、後は払わない、と居直っているのです。しかも、短期借入金の中に潜んでいる長期借入金の返済はしないというのです。

 私が「面白いこと」を言うものだと思ったのは、事実上このようなことを言っておきながら、“キャッシュ・フロー重視の経営を行っている”と胸を張っているからでした。

 「有価証券報告書」の文案を作成したのは財務担当者でしょうが、その背後に、オーナーである堤義明さんの今殿様然とした姿が浮かんでくるようですね。数字が経営者の人となりを雄弁に物語る最適例とでも言えるでしょうか。

 先日、うっかりすれば見落としてしまいかねないベタ記事が新聞の片隅に掲載されました。
“コクドは二十五日、同社が所有・運営する箱根仙石原プリンスホテル(神奈川県箱根町)を日産自動車に売却することで合意したことを明らかにした。日産も同日発表した。同社によると、買収費用と改装費を合わせて約三十億円。コクドは資産売却により有利子負債の削減を図り、経営体質強化を図る狙い。コクドがホテルをグループ外に売却するのは初めて。”(日本経済新聞、平成16年10月26日号)



 この情報が、余り目立たない形で、ひっそりと報道されたのは、このところ大きな社会問題化している報告書の虚偽記載とかインサイダー取引疑惑とは直接関係のないものと判断されたからでしょう。

 私は、堤義明さんが、報告書の虚偽記載を認める記者会見を行った10月13日以降、単なる虚偽記載とかインサイダー取引疑惑の問題にとどまらない大きな背景があるに違いないとの見当をつけて、各メディアの報道をフォローし、私なりにデータ分析を行ってきました。

 その結果は、既にお話しましたように、西武グループがかなり前から実質的に債務超過に陥っている可能性があること、資金繰りが相当以上に大変ではないか、という二つの推論に至りました。

 しかし、今までのところ、日本経済新聞をはじめとする各メディアは、私のような問題意識をもって取り組んでいないようです。日経のデスクが、先の箱根仙石原プリンス・ホテルの売却をベタ記事扱いにしたのは、このためでしょう。



 しかし、私はこの売却の事実は注目すべき情報であり、一連の疑惑報道と関係ないどころか極めて密接な関連があるのではないかと推測しています。

 この半年か一年位前から、西武グループへの過大融資について、金融筋は堤さんに強く返済を迫っていたのではないでしょうか。

 寄り合い世帯のメガバンクの内部事情とか、金融庁の不良債権についての強硬姿勢を考えますと、今まで通りの惰性的でおざなりの融資を続けていくことが難しくなったとしても不自然ではありません。

 堤さんと金融筋との間の厳しいやりとりの中で、何かの拍子に飛び出してきたのが、一連の疑惑とされるもののような気がしてなりません。



 堤さんの会見をテレビで見ていて感じたのは、堤さんが必ずしも自分の意思でグループの裏事情を明らかにしたのではなく、何らかの外部の圧力に押されてやむなく会見に臨んだのではないかという印象でした。

 そこには世界有数の富豪とされ、西武帝国とも称された企業グループに君臨した総帥の面影はなく、あるのはただ、一人の憔悴しきった落ち着きのない70歳の老人の姿でした。



 ―― ―― ―― ―― ――



 ここで一句。


“尊大を絵に描いたよな たかが爺々(じじ)” -東京、金ジイ(毎日新聞:平成16年10月3日号より)



(たかが野球選手、と言い放った“たかが爺々”のナベツネさん。尊大の看板とればたかが爺々。)

 

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