中江滋樹氏からのダイイング・メッセ-ジ-①

 中江滋樹氏が亡くなった。享年66歳。自らの死を覚悟していたと思われるメッセ-ジが「日刊ゲンダイ」に連載中であった。浅からぬ関係にあった私にとって、中江氏から、いわばダイイング・メッセ-ジ(Dying Message)が発せられた思いである。

 中江氏との出会いは昭和53年9月、今から43年前のことである。山根会計の顧問先第一号であった。この間のいきさつについては、16年前、“ある相場師の想い出-中江滋樹”で記した。

 中江氏の存在は、私の会計士人生を大きく方向付けるものであった。
 

 中江氏は、天性の株の相場師であった。中江氏は、ほとんどの相場師が税務署の暴力によって潰(つぶ)されてきた現実をよく知っていた。43年前、氏が初対面の私に要求したことは唯一つ。


「税務署の暴力に耐えられる会社にして欲しい」



 私は氏の要求を受け入れると同時に、条件を出した。
「金の出入りを明確にすること、記帳については私の指示に全面的に従うこと」



 当時の中江氏の会社、株式会社ツ-バイツ―は設立直後の小さな会社であったが、経理担当者がしっかりしており、私の指示に忠実に従った。

 株式相場の世界では、当然のことのように裏金(うらがね。靴の裏などに打ち付ける鉄の板。〔取引では、表に出さないで、やりとりする金の意で使う〕-新明解国語辞典)が飛びかっており、中江氏はそのど真ん中にいた。

 しかし、経理、あるいは税務会計の世界では金に表(おもて)も裏(うら)もない。カネはカネである。

 カネに「ごまかし」(虚偽)は通用しない。経理の基本は、簿記の技術を用いてカネの動きを忠実に帳簿の上で表現することに尽きる。簡単なことだ。決して難しいことではない。

 会社の規模が大きくなり、グル-プ会社の数が16社ほどになっていた。中核会社・株式会社投資ジャ-ナルはかなりの赤字を出していた。一方で、中江氏の指示のもとで動く証券外務員が証券会社から受け取る外務員報酬はかなりの額に達していた。しかも、外務員報酬に対しては40%の源泉徴収がなされていた。

 私は、個人で源泉徴収された税額を会社で還付することを思いついた。個人名義で支払われている源泉所得税額を全額、会社の収入として計上し、証券外務員には別途会社から給料を支払うことにしたのである。実質課税の原則の適用である。

 還付請求すると必ず税務調査がある。法律によって調査が義務付けられているからだ。複数の税務署が投資ジャ-ナル社だけでなく、十数社あるグル-プ会社について、多い時では毎月のように税務調査を行った。

 つまり、還付請求をすることによってグル-プ会社の全てが、日常的にきめ細かな税務調査の洗礼を受けることになった。

 投資ジャ-ナルグル-プが、昭和59年に警視庁によって証券取引法違反容疑で摘発される直前までの3年間で、実際に還付を受けた税額は2億円位に達していた。



 投資ジャ-ナル事件は、警視庁が表に出ていたものの、実は東京国税局による脱税の摘発が目的であった。別件捜査である。

 本件である脱税事件については、顧問税理士である私も、警視庁まで呼びつけられ尋問されることになった。嫌疑者扱いである。松江から2回、桜田門の警視庁に赴いて取り調べを受けた。

 警視庁の取調室は窓のないコンクリ-トで囲まれた小さな部屋であった。同じような閉鎖空間は、その後経験した東京国税局査察部の部屋(“マルサ(査察)は、今-③”)と、同様であったが、査察の取調室に較べて桜田門の取調室は暗い牢獄のような空間であった。



 投資ジャ-ナルグル-プについては、私が税務申告書に署名している限り脱税はあり得ない。金の流れが全て説明できるからだ。その上、毎月のように税務調査を受け、少なからぬ金額の還付金を受け取っている。脱税の嫌疑をかけるとは何ごとだ、私は警視庁の捜査担当者に食ってかかった。

 東京国税局は、マスコミ受けするガセネタをリ-クし、中江滋樹氏の人身攻撃を行った。人格破壊(Character Assassination)(「誰が小沢一郎を殺すのか?」-①)である。タ-ゲットになったのは、あろうことか歌手の倉田まり子さん。彼女は、警視庁と東京国税局のリ-クによって、中江氏の愛人にまつりあげられて歌手人生を棒に振った。倉田まり子さんについては、すでに記した(“倉田まり子事件の真相” )。



 本件の脱税が空振りに終わり、別件の証券取引法違反についても立件できないことが判った。当時、投資ジャ-ナルグル-プが行っていたのは、投資コンサルタント業と証券金融という金融事業であったが、証券取引法の中に投資コンサルタント業と証券金融を罰する規定が存在しなかったのである。これも空振りである。

 困り果てた警視庁は、中江滋樹氏の弁護士と相談の上で、中江氏と投資ジャ-ナルグル-プの加藤文昭社長を日本にいないように工作した。計画的な海外“逃亡”である。

 昨年末にレバノンに“逃亡”したカルロス・ゴ-ンのケースと、同工異曲(どうこういきょく。ちょっと見ると作り方が違うようだが、大体同じようなこと。-新明解国辞典)である。中江氏によれば、田中角栄、テレビ朝日の三浦甲子二専務、高利貸「アイチ」の泰道三八らの計らいであったという。この3名は中江氏が扱っていた「裏金」に深く関わっていたからだ。

 関係者によって“裏金”の回収が終わったことを確認した段階で、警視庁は、中江氏を帰国させ、シナリオ通りのタイミングで、コスモ信用組合の泰道三八槙枝一臣弁護士の手引きで中江氏を警視庁に出頭させ逮捕させている。

 資金面で中江氏とつながりのあった豊田商事の永野一男会長が公衆の面前で刺殺された翌日に、中江氏を出頭させるなど、あまりにも出来過ぎたスト-リ-だ。このことだけでも、二つの事件が“裏金”フェイク・ニュ-スの線で密接に結びついていることを雄弁に物語っている。
(この項つづく)

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 ここで一句。 ”忖度と賄賂で決まる民主主義”  - 八尾、立地乙骨炎(毎日新聞、令和2年3月9日付、仲畑流万能川柳より)


(コロナ・ショックに右往左往の安倍政権。“忖度も賄賂もきかぬコロナかな”)

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