修正申告の落とし穴-⑥

 この修正申告、実は国犯法と密接な関係を有していることが判明した。国犯法の沿革を調べているときに、制定当時の国会議事録がでてきたのである。

 現在の国犯法は、明治33年3月17日に制定された法律第67号である。この法律は、もとは間接国税犯則者処分法と称した。戦後改称されて国税犯則取締法(国犯法)となった。



 国犯法の前身である間接国税犯則者処分法は、明治32年11月25日の帝国議会に法律案として提出されている。議事録には「内閣総理大臣侯爵山縣有朋」の名が見える。この山縣有朋、日本陸軍の基礎を築き、同時に、現在の官僚制を確立した人物として知られている。

 私は官僚制を支える要(かなめ)が、暴力装置としての国犯法であると考えるに至っているが、国犯法を制定した時の首相として、しっかりと足跡を残していたのである。

 議事録によれば、都筑馨六なる議員が、通告処分(現在の国犯法第14条と同じ。これまで直接税について慣行的になされてきた修正申告の慫慂に酷似する措置)について次のように質問している。

「(通告処分は)随分手厳しい手続のように思われます。調査なり尋問なり行政官がこれをやって殆(ほとん)ど判決の如きことを行政権でやるようである。
  ・・・・・
 一種の裁判権たるや疑を容(い)れぬことで、彼(か)の警察の即決例というものと同じような仕組である。しかしながら是(これ)は、合意的の裁判権と牽強(こじつ)けては居りますが、是(これ)は通常一(ひとつ)の裁判を求めるものであるということは疑のないことであるから、行政組織の裁判、即ち原則に外れて居る除外例たることは免(まぬか)れぬと思う。」(注.議事録は片カナ、かつ旧カナ遣いであるが、読み易いように平がなにし、新カナ遣いとした。以下同じ。)

 このように、質問に立った都筑議員は、通告処分について強い疑念を呈している。即ち、行政官が裁判をやるのと同じで、乱暴かつ手厳しい手続ではないかというのである。
 これに対して答弁を行った目賀田種太郎政府委員は、次のように述べて質問者の疑義に答えている。

「都筑君に御答弁致しますが、矢張り此案は都筑君が御尋(おたずね)の如く手厳しくはなって居らぬのです。
 処分を致しまするのは、決して裁判ではないので、全く私和(山根注、しわ。当事者双方が表沙汰とせず示談で事をすますこと-広辞苑)するのでございます。若(も)し罰金に相当する金額を納付せよと云う行政官の通知に対して、それを至当と本人が思うならば、納めてそれで済ませると云うに過ぎないのでございますから、別に手厳しいことはない。却(かえ)って裁判所に告発を致しますれば有罪と為(な)って本人の資格上にも関係する訳である。
 所が、此処分法で処分を受けるときには、本人の資格には関係せぬ訳で、即ちそれで済んで仕舞いますから将来それが本人の肩書に加わると云うことはないのでございます。
 其点に附いては、余程寛大の意味を持って居るので、別にそう手厳しいと云うことはないのでございます。
 しかしながら本人がこちらの処分に不服であると云うときには、本人は直ちに正式の裁判を求むることが無論できるのであります。
 若(も)し通告に服するのであればそれで済み、又通告を履行せぬときは裁判所へ告発する、或は又本人が不服であるならば通常の裁判を受けるのであります。それは本人の自由に任せてありますから、別に手厳しいと云う訳はないのであります。
  ・・・・・
 私共の考えに於ては、是は裁判ではない、全く一(ひとつ)の処分である故に直接に行うと云(い)うのとも違います。即ち、外国でも皆間接税でも関税でも一(ひとつ)のとらんさくしよん(山根注、transaction。処置、執行、取引、和解、示談-岩波英和大辞典)、即ち私和と云うことで裁判ではないと思います。御考とは我々は少しく違って居るのでございます。」

 政府委員が喋っている何やら怪しげな答弁の当否はさておき、話の内容自体、重要な意味合いを持っている。法文をたどっていくと政府委員の答弁は次のようになる。
+税務管理局長(今の国犯法の国税局長又は税務署長に相当)は、犯則の心証を得たときには、罰金とか科料、没収品、徴収金の金額等を納付すべき旨を通告しなければならない。これを通告処分という。(第14条)
+この通告処分があった時は、公訴の時効が中断される。(第15条)
+犯則者が通告通り履行した場合には公訴権が消滅する。(第16条)
+通知を受けた日より7日以内(現行法では20日以内)に履行しないときは、税務管理局長は告発の手続をしなければならない。(第17条)
 つまり、お上(かみ。行政官)の言う通りに素直に従ってお金さえキチンと支払えば、告発はしない(公訴権の消滅)、しかし、グズグズと文句を言って言う通りのお金を払わなければ告発する。
 要するに、行政官が示した金額通りのお金を払えば済むことで、決して厳しいことではない、と言っているのである。詭弁(きべん)である。
 このような考えが生ずる背景には、この通告処分が刑事処分と行政処分の双方を兼ね具えていることがある。つまり、行政処分に従いさえすれば、敢えて刑事処分まではしないということだ。政府委員が、通告処分は決して厳しいものではなく、むしろ寛大な処置ではないかと言っている所以(ゆえん)である。
 お上(かみ)の指示に従って金を払えばよし、払わなければしょっぴくまでだ、-政府委員が答弁しているように、寛大な処分どころではない。逆である。これ以上ない程、強権的かつ威嚇(いかく)的な税金の取立て方法だ。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“戦争を知らない総理(ひと)は強気だな” -千葉、元軍国少年

(毎日新聞、平成26年3月4日付、仲畑流万能川柳より)

(盲(めしい)、蛇におじず。単なる無知。マンガ大好き副総理と名コンビ。)

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