マルサ(査察)は、今-④-東京国税局査察部、証拠捏造と恐喝・詐欺の現場から

***3.査察調査の開始

 平成24年3月××日午前8時30分、嫌疑者に対する査察調査が開始された。臨検捜索差押許可状によるガサ入れである。

 嫌疑者が経営する2つの店舗、嫌疑者の自宅、嫌疑者の娘夫婦の自宅、関与税理士の自宅と事務所、取引金融機関が捜索された。嫌疑者の店舗・自宅については、夕方6時に終了。

 残された差押目録謄本は合計6通。目録の枚数は26枚。査察調査の差押としては、差押物件の数が極めて少ない。

 いずれ後に詳述する予定であるが、嫌疑者にかかる押収物件が驚くほど少ないのには訳がある。もともと査察の対象になるような事案ではなかった、つまり、査察調査に着手したのがそもそも誤りだったのである。

 嫌疑者が営んでいるのは物品販売業、2つの店舗での売上は年間2億円弱。現金収入である。荒利益率は25%前後。身内経営であり、店員は全てパートタイマー。典型的な中小零細企業である。
 給料、家賃、光熱費だけで荒利益の8割以上が消えてしまい、店舗の改装もままならない。薄汚れた店でもなんとか売上が確保できているのは、立地に恵まれているからだ。
 交際費の類いはゼロに近く、爪に火をともすような経営をしている。収支バランスはプラス・マイナスゼロ、なんとか身内の生活が維持できる程度だ。
 現金預金の残高は200万円~400万円、ときには100万円を切るときもある。外部からの借入金はない。
 以上が公表(こうひょう。税務申告書に添付している決算書のこと)から読みとれる嫌疑者の経営状況である。

 2億円弱の現金収入、借入金ゼロ、現預金はゼロではないものの極端に少ない。
 2億円弱の現金収入は、商品の仕入代金として1億5,000万円弱が消えてなくなり、残りの5,000万円弱の荒利益は前述の通り経費としてあらかた消えてしまう。典型的な自転車操業である。
 しかもこの自転車操業、通常ではまずありえない。毎月の決済資金が1,500万円は必要であるにも拘らず、手許の現預金が、その10%~20%しかないことになるからだ。
 このような資金状況のもとでも経営がやっていけるのは、ごく限られた場合でしかない。例えば、フランチャイズ契約によるコンビニエンス・ストアの経営がそうだ。これなどほとんど唯一の例外といっていい。ただこの場合、事業経営とはいうものの、その実態はフランチャイズ・チェーンの一従業員の域を出るものではない。コンビニの経営者は独立した経営者(オーナー)の形式はとるものの、実際には経営の裁量権はないに等しい。部厚い作業マニュアルにがんじがらめに縛られているからだ。その上、売上金は全て本部で管理され、オーナーが手をつけることはできない。荒利益の半分(!!)は、はじめから経営指導料名目で本部にゴッソリと抜かれてしまう。つまり、オーナーとは名ばかりであり、オーナーという名の店舗の管理人にすぎない。しかもオーナーの収入たるや、時間給に換算すると、ワーキング・プア並かそれ以下だ。このような場合、手許に現預金がほとんどなくても店舗の経営はできるのである。
 しかし、通常の経営であれば相当量の手許資金がなければやっていけない。少なくとも毎月の決裁資金に相当する現預金位は常に保有していなければ安定した経営は望めない。資金繰りに支障をきたすからだ。

 現在、納税者によって申告された情報はコンピュータ処理され、異常項目がある場合には機械的にはじき出されるようになっている。嫌疑者の場合、手持資金が売上の割には異常に少ないことから自動的にピックアップされたものであろう。
 決算書を調べてみると外部からの借入金がゼロだ。しかも、毎期の申告所得はゼロであり、納税が全くなされていない。怪しい。
 嫌疑者名義の預貯金の名寄せ(全ての金融機関に預けてある名義人の預貯金を集計すること)をしてみたところ、ナント4億円もでてきた。しかも、この3年ほどで1億円以上も増えている。いよいよ怪しい。これらは簿外預金(公表の貸借対照表に載っていない預金のこと)、つまりタマリであるに違いない。
 更に内偵調査を進めてみたところ、嫌疑者が売上金を抜いている事実と架空仕入を計上している事実が判明した。脱税だ!!

 以上のようないきさつから、嫌疑者に対する強制調査が着手されたものと考えられる。
 しかし、いざガサ入れをして、嫌疑者をとっつかまえて問い質してみたところ、どうも様子がおかしい。嫌疑者の顧問税理士を呼びつけて締め上げてみてもなんだかしっくりとこない。予め想定した脱税ストーリーにぴったりしないのである。
 実は、査察が想定した「脱税ストーリー」が間違っていたのである。しかも、間違っていたことを査察調査着手の直後に、査察自ら気が付いていたフシがある。それにもかかわらず、自らの過ちを認めようとせずにそのまま突っ走った。私のケース(「冤罪を創る人々」参照)と同様だ。一度黒と認定した以上、明らかに誤りであったとしても頑として改めようとはしない。
 徴税権力、ことにマルサ(査察)は恐いものなしだ。どんなことをしようとも許されると勘違いしている。過ちがあったとしても徹底的に隠蔽し、絶対に認めようとはしない。公務員の無謬神話(「無謬神話の崩壊」参照)にこだわっているのである。犯罪企業である東京電力(「11/28講演会「闇に挑む『原発とは何か?』-福島第一と島根-」」参照)、同じ穴のムジナである経産省、両者がこの一年余り原発事故の実態を徹底的に隠蔽し、事故責任を認めようとしないのと同断だ。

(この項つづく)

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 ここで一句。

“納得し納税してる者はなし” -勝浦、ナメロー

 

(毎日新聞、平成24年5月6日付、仲畑流万能川柳より)

(権力を振りかざして不法に税を取り立てる税務職員、それを手助けしているのが税務当局の下請機関に堕した税理士だ。)

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