11/28講演会「闇に挑む『原発とは何か?』-福島第一と島根-」-7

***10. 補足

****1)2兆円の不正融資をめぐるバトル

 電力会社の決算書は、東京電力だけでなく、通常あまり変わり映えのしないものです。どの電力会社の決算書も同じようなもので、企業分析の立場からすれば、あまり面白味がない。



 ところが、東京電力の平成23年3月期決算は全く違った様相を呈していました。決算が3月ですが、その直前の3月11日に大震災と大津波が起こって、東京電力の福島第一原発が大事故を起こした。原発事故の結果が、不十分であるもののそれなりに反映されたものだったからです。この決算書で特別に目に付く点が二つあります。



 一つは、原発事故の補償金が全くこの決算書には反映されていない。しかも、その反映されていない理由が事実に反するものであって、金融商品取引法で定められた開示義務に違反している、すなわち、有価証券報告書の虚偽記載に当たるものです。先程述べた通りです。

 今一つ際立っていたのは、期末の現金預金の残高です。これまで、期末の現金預金の残高は、1,000億円ないし2,000億円台のレベルで推移していたのが、突如として一桁多い2兆円という巨額なものとなっていた。

 私は何故だろうと疑問に思いましたので、調べてみた。東京電力が開示する主な資料には、有価証券報告書と年に4回、すなわち3か月ごとに開示される四半期報告書があります。これらを調べてみて判明したことは、この2兆円が増加したのは平成23年1月から3月までの期間、つまり、第4四半期であったことと、それに対応して2兆円の借入金が増加しているという事実でした。開示資料からわかるのはここまででしたので、更にその他の情報を当たってみたところ、この2兆円の借入金は決算期末ギリギリの3月末日に8つの銀行から借り入れたものでした。

 つまり、東京電力は2兆円を銀行から借り入れて、そっくりそのまま2兆円の預金をしていたのです。貸借対照表の左(借方)と右(貸方)に同じ金額を載せていた。かつて銀行が、期末の預金額と貸付金の額を多く見せかけるために行っていた「両建」、それと同じことをやっていた。「見せ金」です。東京電力は何故このようなことをしたのか、私にはその理由がわかりませんでした。

 この「両建」について東京電力はどのように説明しているか、東電の財務担当役員は、日本経済新聞の質問に対して、「大変な事故が起きてから、各部門から資金の要請が殺到した。このままだと、通常の資金繰りとか、社債の償還に支障をきたすことになる。そこで急遽金融機関にお願いして、融資をしてもらった」などと答えていますが、なんだかおかしい。

 一方、融資をした銀行側はどう言っているか。「このような緊急時にこそ、取引先に対して資金の面で支えるのが銀行の社会的使命である。各行がそれぞれの判断で融資した」。このようなもっともらしいことを銀行側は会見でも、あるいは、国会の場でもしゃべっているのですが、どこかおかしい。

 更に調べてみると、この2兆円の緊急融資については担保も取らなければ、保証も取っていないことが分かった。無担保無保証の融資ということです。緊急時とはいえ、合わせて2兆円もの巨額の融資を無担保無保証で行ったというのですから、尋常なことではありません。

 しかも、融資が実行されたのは、原発事故が起きてから20日も過ぎた時点です。その時点では公表されなかったものの、すでに福島第一原発はメルトダウンを起こしていた。東京電力はとてつもない事故が起ったことを十分に認識しており、4基の原子炉を全て廃炉にする方針が決まっていた。3月の期末時点で、世界的に未曾有の原発事故が起ったことを、東電は十分に認識していたわけです。

 国会審議の場で参考人が話したことによれば、スリーマイル島の場合には1基の廃炉費用として2兆5千億円かかった。これを参考にすれば、福島第一原発は4基ありますから、10兆円という廃炉費用が見込まれる。その他に、すでに水素爆発を起こしたり、水蒸気爆発をしたりして、大量の放射性物質が飛び散っていますし、海にも大量の放射性物質が垂れ流されてしまっています。

 このために、損害賠償費用として莫大な金額が見込まれていた。少なく見積もっても10兆円を下らない。つまり、決算期末までに、廃炉費用10兆円、損害賠償費用10兆円超を合わせて20兆円超の損害金が東京電力に発生していたということ、しかもこの認識が東京電力にはあったはずです。事故が起こるまでの東京電力の純資産、これは蓄えていた内部留保にあたるものですが、2兆5千億円ほどしかない。したがって、この原発事故によって20兆円を超える損害金が発生したものとすれば、この内部留保は一瞬にして吹き飛び、20兆円前後の大幅な債務超過に陥ることは確実な状態でした。このままではとても経営が成り立っていかない、経営が破綻に瀕しているという状態だったわけです。

 そのような時に、東京電力は敢えて2兆円もの融資を依頼した。銀行側は即座にその融資に応じた。しかも、無担保無保証という条件でやった。通常の金融機関の融資では考えられないことです。経営破綻が確実に見込まれている企業に対して、無担保無保証で多額の融資をするというのは、銀行業務としてもちろん許されることではありません。そこで本当のところは、一体なんだったのかと、さらに調べを進めていきますと、経済産業省が一枚かんでいることがわかった。経済産業省の幹部が銀行側に対して、東京電力は絶対に潰さない、国がどのようなことをしても支え続けるということを約束していた。

 ところが、この2兆円の無担保無保証の緊急融資が表沙汰になった。当然のことながら、問題視されるようになった。そうしたら、この経済産業省の幹部は君子豹変、一転してそんなことは言っていないと頑なに否定するようになった。言うまでもないことですが、一介の役人に国の債務負担行為を約束する権限などありません。表沙汰になったので、あわてて否定して責任逃れをしたのでしょう。

 では実際のところはどうであったか。原発事故があってから、経済産業省は直ちに行動をおこした。どうしても、東京電力を潰してはいけない、何が何でも支えていくという方針が打ち出された。財務省、銀行筋と一体になって、東京電力を救済するスキームが作られたということです。その一環として、資金が潤沢にあるように見せなければいけないということで、急遽2兆円もの融資が銀行側からなされ、決算書の上でいわば“見せ金”として使われた。これが真相のようです。しかし、いくら政府高官が東京電力は潰さないから、融資をしても大丈夫だという約束をし、暗黙の政府保証をしたからといって、先程申し上げたように、そのような権限がこの政府高官にあるわけではない。政府高官が空手形を切った、つまり、法律的に言えば、空約束であったということです。

 以上のことをまとめてみますと、どういうことになるか。決算期末になされた大手銀行8行による2兆円の緊急融資は無担保・無保証であった。東京電力のその時の財務状態は、原発事故によって大幅な債務超過に陥っており、経営破綻が確実視されていた。つまり、この2兆円の融資はそのような会社に対して行われたということになりますので、融資金の回収可能性がない。回収の見込みがないのに無担保・無保証で融資をした、つまり、不正融資であったということです。

 みなさんは覚えておいてでしょうか。事故があった後、当時の枝野官房長官が折に触れて、金融機関の債権放棄に言及していました。その都度、金融機関をはじめ経済界から猛反発が出た。ヒステリックなまでに大騒ぎをした。

 何故ヒステリックに大騒ぎしたのか。事故が起こるまでになされた貸付金については、銀行の責任を問うことは難しいのですが、問題なのは事故後に融資した、合わせて2兆円の貸付金です。債権放棄というと、事故後に行なった無担保無保証の融資金が真っ先に対象になりますので、銀行側からすれば、貸し倒れということになってしまう。そうなると銀行の経営者の経営責任が問われかねない。銀行の経営者および東京電力の経営者に対して、株主代表訴訟が起こされる可能性が十分にあり、2兆円全額が貸し倒れになるとすれば、それを賠償する義務が経営者に出てくる。8行の銀行、東京電力の役員、人数にすれば100人位になるでしょうか。それらの人達に2兆円もの巨額の賠償金がかかってくる恐れがあったわけです。単純計算して、一人当たり200億円前後の損害賠償金がかかってくる。よほどの資産家でもとても賄いきれるものではありません。全員が破産を免れないでしょう。債権放棄とか法的整理の話がでるたびに、東京電力と銀行筋が火のついた猫のように「フギャー、フギャー、」と大騒ぎしたのは、まさに自分達に火の粉がかかってくるからだったのです。

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