原発とは何か?-⑩
- 2011.09.27
- 山根治blog
東京電力は何故怪しげな決算を組み、怪しげな有価証券報告書を開示しなければならなかったのか。また、監査人は何故そのような決算を無条件で追認(無限定適正意見の表明)しなければならなかったのか。
以下、それぞれの思惑を忖度(そんたく)してみることにする。
まず、東京電力。原賠法(原子力損害の賠償に関する法律)の規定に基づいて国から援助を受けるためには、決算期日において大幅な債務超過、つまり経営破綻の状態であってはいけなかったからではないか。
原賠法1条には、この法律の目的として次の2つが掲げられている。
1)被害者の保護
2)原子力事業の健全な発達に資すること
更に、原賠法16条第1項は、原子力事業者(東京電力)が損害賠償義務を負っている額が、賠償措置額(一工場あるいは一事業所当たり1,200億円-原賠法7条第1項)を超え、かつ、この法律の2つの目的を達成するために必要があると認めるときは、政府は必要な援助を行なうものとすると定めている。
加えてこの国の措置は、国会の議決に基づいてすべきことが定められている(原賠法16条第2項)。
2つの目的のうち、1)の被害者保護については問題なくクリアする。問題となるのは、2)の原子力事業の健全な発達に資すること、とする目的だ。
この目的は、あくまでも、原子力事業の健全な発達に資することであって、事故を起して経営破綻状態にある電力会社を救済することではない。逆に、経営が破綻状態にあるのであれば、この目的に反することになる。
つまり、大幅な債務超過に陥り、経営破綻が確実視されているのであれば、原賠法による支援をすんなりとは受けることができないおそれがあったということだ。
賠償に関する政府の支援の枠組みについては、いち早く、
-原子力発電所事故経済被害対策チーム、関係閣僚会合決定(平成23年5月13日)
-閣議決定(平成23年6月14日)
が公表され、これを踏まえた
が国会に提出されていた。
この原子力損害賠償支援機構法(以下、支援機構法)が国会で成立するまでは、形だけでもなんとか経営破綻の状態にしてはいけなかったのである。原賠法は決して経営破綻した電力会社を救済するための法律ではなく、それを受ける形で制定される支援機構法もまた、経営破綻状態にある電力会社を想定していないからだ。
思い起こせば、3.11の後、かなり早い段階で枝野官房長官が、東京電力の賠償原資について記者団からの質問に答えて、
と、会社更生法の適用などの法的破綻処理を匂わせたことがあった。つまり、日本航空と同じように、東京電力をいったん倒産させて、新しい事業体として再生させようと考えていたのであろう。正論である。
ところがその直後、経産省とか財務省、あるいは金融機関をはじめとする経済界から猛烈な反発を受けるやその発言をウヤムヤにしてしまった。正論が、直接の利害関係者からの横ヤリによって葬り去られたのである。
法的破綻処理の道が当面の間閉ざされたのは何故か。弁護士でもある枝野氏がごく自然な正論を述べたのに対して、気が狂ったとしか思えないような反撃が各方面からなされたのは何故か。
実は、東京電力の平成23年3月期の決算は、前述のような大幅な債務超過に陥るほどの多額の未払損害賠償金(負債)が計上されていなかっただけではない。今一つ、これまでの決算とは明らかに異なるものがあったのである。
東京電力の決算における異常に突出したもの、それは3.11の原発事故直後になされた小細工だ。大手銀行を捲き込んだ小細工であり、このために、何が何でも、法的破綻処理にもっていくことができなくなっていたのである。
一般に電力会社の決算書は、今回のような大事故でもない限り、毎期ほとんど変わりばえしない、面白みに欠けるものだ。経営者も社員もさしたる経営努力を必要としない経営体、民間企業の体裁をとってはいるものの、その実は役所そのものだからだ。
そのような、親方日の丸、つまり殿様経営の会社に原発事故というトンデモない異常事態がふりかかってきた。経営における危機管理など、これまで全く考えたこともない東京電力の経営陣が慌てふためいたことは想像に難くない。
無責任かつ無能な経営陣が、自分達の身を守るために通常では考えられないような大胆な行動をしたのである。
その行動の軌跡が決算書に残っており、決算書を通して経営陣の周章狼狽ぶりがうかがえるのである。
―― ―― ―― ―― ――
ここで一句。
(そういうことです。)
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