ゴーイング・コンサーンの幻想-4 西武鉄道


連結決算の上では、有利子負債の額は8,966億円とされています。

 グループとしては、収益性が低い(というより極めて悪いと言ったほうがいいでしょう)のに加えて、手持ちの不動産とか株式だけでは、査定の仕方いかんによっては、担保割れのおそれさえあったこのグループが、今まで何故破綻しなかったのでしょうか。それどころか、上場企業である西武鉄道は、“西武鉄道じたいは超優良企業。鉄道事業に不安要素はほとんどないだろう(金融関係者)”(AERA、2004年10月25日号)という評価さえされているのは何故でしょうか。

 西武鉄道の決算書を見る限り必ずしも優良企業ではなく、精査してみると問題企業である可能性すらあるにも拘らず、金融筋から“超優良企業”という声が出てくるのは驚きですが、その背景に親会社である(株)コクドの存在があるからなのでしょうね。

 一般には、(株)コクドが膨大な資産を持っている大金持ちであると信じられています。一説には-“不動産5千万坪、時価十数兆円の資産がある”(週刊朝日、2004年10月29日号)とさえ言われているほどです。

 本当でしょうか。所有する土地の面積が5千万坪であることまではいいとしても、時価評価額で十数兆円というのは果していかがでしょうか。

 私はむしろ、評価が明確になる(株)コクドが所有していた西武鉄道の株式が背景にあった(担保に供されていたかどうかに拘らず)ために、金融筋も安易に見ていたのではないかと考えます。

 しかも株価は、会社のファンダメンタルズ(基礎体力)に比べて常に高めに維持されていました。

 バブルのピーク時に、西武鉄道株は、一株8,000円の高値をつけています。堤さん一族は、4億株弱の株式を持っていますので、単純計算すると3兆円という評価になります。バブルの崩壊後、ジリジリと株価が下がったのですが、それでも近年は一株1,500円前後をつけています。

 1,500円としても堤さんの持株の評価は6,000億円弱になりますので、これで担保を補っていたのではないでしょうか。

 仮に、西武鉄道株が上場廃止になった場合、堤さんの持株(形の上では、(株)コクド等が所有しているものです)は、少なくとも銀行の融資の上では担保物件の対象から外れることでしょう。

 堤さんが記者会見の席で『上場廃止になっても株主に迷惑をかけることはない。そもそも、上場なんてしなくてよかった。』という趣旨の、にわかには信じ難い放言をしたことに私が呆れてしまったのは、以上のようなことを考えたからでした。

 上場廃止は、銀行取引だけに限っても、株式が担保物件としてまともには使えなくなるだけでなく、不動産の評価は格段に厳しくなるでしょうし、現在は平均で2.0~2.6%の借入金利についても、最低でも1%の上乗せ、あるいは現在の倍の金利が要求される可能性すらあります。

 金利水準がただの会社並みになっただけでも、もともと収益性の低い西武鉄道の期間利益は、限りなくゼロに近づくでしょう。

 以上の分析は、上場廃止という仮定のほかに、いくつかの仮定をもとに組み立てたものです。また、分析のベースに用いたのは、主に会社が公表している有価証券報告書(平成16年3月期)であり、実地調査を行なっている訳ではありません。

 従って、私が提示したいくつかの結論は全て、公表数字をもとに推計すればこのようなことも考えることができる位の意味しか持っていないことを付記しておきます。(以下の所論も同様です)

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 ここで一句。
“プロ野球経営だけはアマだった” -八千代、野村順二(毎日新聞:平成16年10月15日号より)



(西武ライオンズ。経営がアマだったのは球団だけではなかったりして。)

 

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