強制調査(査察)ノートの公開について

 最近、強制調査(俗にマルサ)だけでなく、同じように乱暴な調査で知られている料調(国税局資料調査課による任意調査)が、全国的な規模において乱暴狼藉の限りを尽しているようです。納税者として手を拱(こまぬ)いてばかりいては、とんでもないことにもなりかねません。

 「天は自ら助くる者を助く」ではありませんが、いざという時にどうしたらよいのか、対抗策の一助とも考えて「強制調査ノート」を公開いたします。



※「強制調査ノート」は下記ページよりダウンロードできます。



強制調査(査察)ノート:ダウンロード

http://tax.ma-bank.net/notes/#kyousei



***「強制調査ノート」作成の勧め



****1. 担当査察官に対する牽制となります

 あなた自身によって、強制調査(査察)の状況が克明に記録されていることが分かれば、国税局の担当査察官としても、不当な強制調査をしにくくなるはずです。



****2. 税理士や弁護士の理解の助けになります

 税理士や弁護士も、あなたの作成した「強制調査ノート」を読めば、強制調査の経緯を理解しやすくなります。



****3. あなた自身が権利を自覚するのに役立ちます

 あなた自身も、納税者の権利(後述する「強制調査(査察)の対策や対応、注意点」を参照)を自覚するのに役立つほか、強制調査の際のあなたの受け答えが的確にできるようになります。



****4. 不服審判・公判等の資料になります

 強制調査の後、国税不服審判所に対して更正の請求を行った場合、あるいは検察に起訴された場合等、「強制調査ノート」に強制調査の状況が記録されていれば、不服審判・公判等においてより有利な展開が期待できます。



****5. あなたの心の支えになります

 そして、この「強制調査ノート」に強制調査の状況を書き残しておくことは、自らの状況を客観的に把握することに役立つほか、厳しい強制調査の中で頑張りぬくための心の支えにもなります。



【謝辞】 「強制調査ノート」は「被疑者ノート」(日本弁護士連合会)を参考に作成いたしました

***強制調査(査察)の対策や対応、注意点

****1. 査察一般に関する注意点
 できるだけ早く信頼できる人に相談しましょう。
 この場合、必ずしも税理士とか弁護士である必要はありません。税理士とか弁護士に相談する場合でも、国税OB(特に査察経験者)をセールスポイントにする税理士とか、検察官OBをセールスポイントにする弁護士(いわゆるヤメ検)には注意した方がいいかもしれません。役に立たないだけでなく、摘発する側の論理にこり固まっているために、かえってマイナスになるケースが多いようです。
 尚、捜査令状もなければ、質問てん末書を作ったりしないものの、査察と同じような調査をしているのがリョウチョウ(国税局資料調査課による任意調査)です。ミニ・マルサとも称されているもので、任意調査、強制調査の外に位置する第三の調査類型であると言っている税法学者もいるほどです。査察同様に、乱暴な調査を強行し、誤った調査結果を強引に押し付けることで知られていますので、査察に準じて考えればいいでしょう。
 とりわけ、脱税に直結する、仮装・隠ぺいの認定に関しては、査察・リョウチョウ共に極めてズサンな取扱いがなされている現実がありますので、注意が肝要です。
 査察が摘発する脱税という犯罪は、一般の犯罪とは異なっています。嫌疑をかけられた人に犯罪意識が極めて希薄か、もしくは全くない場合が多いからです。何故こんなことで摘発されるのか、疑問に思っている人が多いということです。仮に嫌疑事実が間違っているか、あるいは嫌疑事実そのものは間違っていないものの、脱税の烙印を押されるのは承服できないのであれば、何も恐れることはありません。査察(リョウチョウを含む)に真正面から立ち向かい、身に降りかかった火の粉を振り払いましょう。

****2. 捜査令状を提示された場合の対応方法
 捜査令状の内容を確認し、記録しましょう。
 まず、国税局の査察官から提示された令状をよく確かめた上で、令状の要旨(嫌疑者、嫌疑とされた事実等)を記録しておくことです。

****3. 質問てん末書の作成に関する注意点
 質問てん末書(一般の供述調書にあたるものです)の署名指印は慎重にしましょう。
 質問てん末書は国税局査察部の査察官が作成する一問一答形式の調書です。査察に着手する時点で、一定のストーリーが組み立てられており、その「脱税ストーリー」に沿う形で査察官が勝手に書き込んでいきますので、事実ではないことが書き込まれる危険性があります。署名指印する場合には、しっかり確認してからにしましょう。その際、単に読み聴かせられるのを聞いて確認するのではなく、実際に調書を手にとって読んで確認しましょう。自分の話したことが正確に反映されているか注意深くチェックし、少しでも間違ったところがあれば直ちに訂正してもらいましょう。

****4. 質問てん末書の記録に関する注意点
 質問てん末書の要旨を記録しておきましょう。
 いつ、誰が、どこで、どのようなことを質問し、どのように答えたのか、その要旨と、何通の質問てん末書を作成したのかを記録しておくことです。質問調査の現場にノートを持ち込んで記録するのです。それぞれの日に何通の質問てん末書が作成されたかも記録しておきましょう。
 査察(強制調査)の状況を記録するには「強制調査ノート」が最適です。「被疑者ノート」(日本弁護士連合会)を参考に作成したもので、査察の状況を克明に記録することにより不当な査察を抑止する効果が期待できます。
 同時に録音しておくこともお勧めします。ガサ入れ初日は身体検査されるおそれがありますが、2日目以降は令状の効力がなくなりますので身体検査をすることができなくなります。ポケットに録音機器を入れておけばいいでしょう。ちなみにガサ入れ初日は捜索・差し押えが中心で、質問・調査については、嫌疑事実の認否をはじめ、氏名、住所、生年月日等、ごく一般的なことにとどまり、嫌疑事実についての詳しい取り調べは2日目以降となります。従って録音する必要性はとくにありませんし、現実問題として、予告なしに不意打ちしてくるわけですからレコーダーの用意ができないでしょう。
 一度話したことが事実と異なって記載されていることが判明したら、直ちに訂正する旨の質問てん末書を作成してもらいましょう。国税局査察部から検察に送られて起訴されたとき、あるいは不服審判の場で必ずや役に立つはずです。
 公判においては、検察官は自分達に不都合な証拠を提出しない(つまり、隠しておくということです)ことが多く、このような場合には、最近刑事訴訟法に取り入れられた「公判前整理手続(刑訴法316条の2~刑訴法316条の27)」を活用して、隠蔽されている質問てん末書等の重要な証拠を引っぱり出せる可能性があるからです。

****5. 理詰めの追求に対する対応方法
 査察は十分な内偵調査を行ない、それなりの証拠を握った上で行なわれます。査察に着手する前に、予め「脱税ストーリー」が組み立てられており、それに沿った証拠を集めることに主眼が置かれ、「脱税ストーリー」に矛盾する証拠は無視される-これが現在の査察の実態です。
 嫌疑者あるいは参考人に対する事情聴取(質問)は、脱税という犯罪を一つの既成事実と見なして行なわれます。従って、質問は「脱税ストーリー」に合致するように誘導され、勝手な思い込みによる理詰めの追求がなされます。
 これに対する対応策は唯一つ。過去の事実に即して、自らの記憶のままに答えることです。おかしいではないか、あるいはツジツマが合わないではないか、などと追求されても気にすることは全くありません。とくに、他の関係者の供述と食い違っていることを問題にされることが多いのですが、気にすることはありません。時には、他の関係者が供述していないことを供述したとウソを言ってワナにはめることさえありますので要注意です。証拠の隠ぺいとか捏造なども平気で行ったりします。査察は文字通り「何でもあり」の世界です。目的のためには手段を選ばない、無法集団と化すことを忘れてはいけません。
 映画「マルサの女」とか、テレビドラマ「チェイス」で描かれている査察官は、一つの理想像にしかすぎないもので、現実とは大きく異なっています。

****6. 身柄拘束に関する注意点
 査察官が提示する捜査令状は、あくまで臨検・捜索・差押え(国税犯則取締法2条)についてのものであって、犯則嫌疑者に対する質問にまで及ぶものではありません。質問は任意であり、査察は身柄まで拘束するものではないということです。従って、密室に缶詰にされて、夜遅くまで調査に付き合う必要はありません。定刻(夕方5時~6時)が来たらさっさと帰りましょう。

****7. 更正処分への対応
 査察が終了し、検察に告発された場合、検察の捜査終了後ほどなく、所轄の税務署から更正通知(税金の追徴通知です)が送られてきます。
 ここで大切なことは通知を受け取ってから二ヶ月以内に、異議の申立て(不服審査請求を含む)をしなければならないということです。脱税の事実が動かし難いものであればともかく、国税の言い分がおかしいのであればキチンと異議を唱えるべきです。何もしないで二ヶ月を徒過した場合、追徴税額が確定し、救済の道が閉ざされるだけではなく、刑事事件における脱税を自認したものと推定されるからです。
 尚、税務署からの更正通知の後、都道府県の市町村から地方税の更正(もしくは決定)通知が送られてきます。この場合には、国税とは異なり、地方税法第十九条の9第2項の規定がありますので、「納税の猶予願い」をそれぞれの長に提出すればいいでしょう。

****8. 税金の納付に関する注意点
 脱税では無罪を主張し、異議申立てをした場合においても、租税債権は成立していますので、国は徴収の権利が発生し、嫌疑者は納付の義務が生じます。
 従って、資金的に余裕があるのであれば、直ちに納付したほうがいいでしょう。仮に無罪になったり、あるいは異議申立てが認められるようなことになった場合には、納付した金に少なからぬ還付加算金がついて返ってきますし、万一有罪になった場合でも、実刑を免れ、執行猶予になる可能性があるからです。
 資金的に余裕がない場合には、分割納付とか担保提供などを申し出て、徴収部門と話し合いをすればいいでしょう。事業を継続している会社の場合、たとえば売掛債権を差し押さえられると致命的なダメージを受けることになりますので、納付については誠意をもって話し合いましょう。

****9. 告発や起訴への対応方法
 告発(査察が検察へ)、あるいは起訴(検察が裁判所へ)の時点で、プレスリリースがなされ、マスコミ報道がなされる場合があります。仮に事実を歪曲した偽りの脱税ストーリーが公表されるならば、直ちに反論すべきです。既成のマスメディアのほとんどは、国税・検察のスポークスマン(代弁者)に堕しているため頼りにできませんので、自ら発信すればいいでしょう。その場合、インターネットは強力な味方になるはずです。いずれにせよ、直ちに反論した痕跡を残しておくことです。
 また、報道内容についてはできるだけ多く収集し、テレビ報道については録画しておくといいでしょう。
 告発され起訴された場合には、税務に精通した弁護士に依頼しましょう。税理士と共同作業ができる弁護士であることが必要です。査察事案に対して依頼者の要望に十分にこたえることができる弁護士、税理士は限られており、注意しましょう。日本全体でその数は、弁護士、税理士ともにそれぞれ50人を超えることはないと言われています。とりわけ、検察OBの弁護士(いわゆるヤメ検)とか国税OBの税理士の中にはほとんどいないようです。


※「強制調査ノート」は下記ページよりダウンロードできます。

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