疑惑のフジテレビ -6

ここらあたりで一息入れましょう。フジテレビの首脳陣はともかくとして、会社自体が消えてしまうことはないでしょうから。ライブドアと違って、フジテレビは実体のある企業体であり、決して幻ではないのです。先を急ぐこともないでしょう。



1月16日にライブドアが摘発されてから6週間、この事件に関連してウソかマコトか分らない、おびただしい量の情報が、あちらこちらで飛び交いました。

ライブドアとか堀江貴文氏についての私の関心は、昨年このブログで「ホリエモンの錬金術」と題して20回にわたって分析し終えた段階で、ほとんど消滅しています。多くのマスメディアからの取材とか原稿依頼を全てお断りしてきたのは、私の中でこの事件がすでに完結し、事件そのものに対する関心がほとんどなくなっており、いまさらと思ったからでした。

したがってこの一ト月半ほど私がもっぱら関心を注いだのは、マスメディアと検察当局の動きでした。何をするのか、じっと見ていたのです。
10年前、数々の証拠を捏造してまで私を陥れようとした検察、その検察がリークする偽りの情報を、検証どころか検討さえもしないでそのままタレ流したマスメディア。しかも私の無実が裁判によって確定し、検察がリークしたほとんど全ての情報がインチキであることが明らかになっても、どのマスメディアもインチキ情報を流したことについて口をぬぐい、謝罪はもとより訂正さえしなかったのです。
社会正義の最後の砦を装いながら、その実、犯罪的行為を平然と敢行するような検察と、これまたもっともらしい理念を振りかざして偉そうなことを喋りながらも、検察の単なるスポークスマン、即ち御用聞きになり下がっているマスメディア。この2つの巨大な“権力”と化した存在が、ライブドア事件に対してどのような動きをするのか、とても興味があったのです。

このところ国会で取り上げられた一通のメールをめぐって、与野党が大騒ぎをしています。
このメールがニセ物らしいと判ってから各マスメディアは、こぞって当の永田寿康議員と民主党に激しい攻撃の矢を向け、釈明と謝罪を要求する始末です。国会の場で個人を名指しで非難する場合には、しっかりした裏付け調査を行ってからすべきである、仮に間違った情報にもとづいて非難し追及したことが判ったのであれば、直ちに経緯の釈明をした上で謝罪すべきだ、というのです。

これはまさに正論であり、お説ごもっともです。神ならぬ身ですから、誰でも勇み足とか間違いはあるでしょう。その時はいさぎよく間違いを認め、心からの謝罪をし、しかるべき責任をとるべきだというのですから、異論などあろうはずがありません。

さてそこで、全く同じ理屈をマスメディアに向けるとすればどうでしょうか。
検察の正式な発表はともかくとして、こっそりとリークされた情報を全く検証もしないでタレ流し、その情報が全くのガセネタであるケースは、私のケースだけでなく、よくあることです。死に至らしめた新井将敬さんのケースなど、数え上げればキリがありません。
この場合、ネタ元が検察だからということでガセネタの公表が許されるのでしょうか。とんでもありません。ガセネタは、どこから出たものであろうとガセネタであり、報道する以上、メディアが責任を持つべきものです。
しかし、これまでこのようなことで一度でもメディアが訂正したり、謝罪をしたことがあるでしょうか。寡聞にして聞いたことがありません。検察からの情報だから、仮にニセモノであっても構わない、多大な迷惑をかけた人に謝罪などする必要は全くないとでも考えているのでしょうか。そうだとすれば、ずいぶんと身勝手なものですね。

このように無責任なメディアが、どうして永田議員とか民主党を声高に責めることができるのでしょうか。いいかげんにして欲しいものです。

そもそもこのメール問題は、ライブドア事件の本筋から外れたもので、それがホンモノであろうとニセモノであろうと実のところどうでもいいことです。更には3千万円の金銭の授受があろうとなかろうと問題の本質には関係がありません。ライブドア事件についての自民党の責任問題を脇道にそらせ、問題の本質を極端に矮小化した民主党は、政治的センスが欠如し、未熟であるといわれても仕方ないでしょう。

ライブドア事件は、これまで数多くあった粉飾決算事件とは全く異なっています。
一人の拝金主義者が惹き起こした戦後最大級の詐欺事件とでもいうべきもので、インチキがバレて破綻しなければ、現実の被害者が発生しないという点では、かつての天下一家の会のようなネズミ講に似ていますし、株券という紙切れをどんどんバラまいて金をまきあげたという点では、かつての豊田商事の商法と似ています。
一人の詐欺師が、株式市場を欺いて虚構を創り上げた経緯と、この人物のもとに巨額な犯罪収益が集中するメカニズムについては、昨年の「ホリエモンの錬金術」で明らかにしたところです。全く新しいタイプの詐欺と言えるでしょうね。つまり、2000億円前後と見込まれる巨額な被害を与えた詐欺事件というのが、ライブドア事件の中核をなすものなのです。

自民党は昨年の総選挙で、小泉政権が掲げてきた改革と新自由主義のシンボルとして堀江氏を全面的に押し出し、抵抗勢力の象徴的存在に祭り上げた亀井静香氏に対して、“刺客”として鳴り物入りで広島に送り込みました。選挙後には、自民党の本部にまで堀江氏を呼び、党財政のアドバイスを依頼したり、武部幹事長自ら、ライブドアのパンフレットにデカデカと登場したりしているのです。公認も推薦もしていないといって逃げることなどできるはずがありません。
自民党は、ライブドアの詐欺商法に対して、旧弊を打破する改革の旗手という誤ったメッセージを国民に与え、結果的に詐欺被害を拡大せしめたのですから、メール問題という、どうでもいいようなことで敵失があったからといって、喜んだり、居直ったりしている場合ではないでしょう。
自民党の、道義的あるいは政治的、場合によったら法律的責任が軽くなる訳ではありません。武部幹事長が、民主党のメール問題の不手際をあげつらい、勝ち誇ったように、「民主党の危機管理はなっていない!」と口走るに至っては、ほとんどブラックジョークの世界です。
一人の詐欺師を総選挙にかつぎ出し、若者とか無党派層の票を騙しとったのは、他ならぬ武部氏が選挙の陣頭指揮をとって戦った自民党なのです。公表されている資料を一寸調べてみれば、ライブドアがインチキ会社であり、堀江貴文氏が詐欺師であることが、昨年の選挙前の時点でさえ容易に分ったものを、そのような検討を全くしないで党の改革路線のシンボルにかつぎ出して国民を騙したのですから、民主党の永田寿康代議士とは比較にならないほど悪質であるといえるでしょう。ガセネタならぬ前代未聞の詐欺師を、総選挙のシンボルに据え付けて国民を騙した、自民党の危機管理は一体どうなっているのか、このように武部氏に問いかけたら、偉大なるイエスマンを自任する彼はどのように答えるのでしょうか。

それにしても民主党も困ったものですね。本筋とは関係のない怪しげなメールを持ち出したり、自民党とかマスコミにどつかれてアタフタするなど、まことに見苦しく、政治的に幼稚な点では、あるいは堀江さんのコドモのワルサとよく似ているかもしれませんね。

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ここで一句。

“政治家がまたもチラチラする悪事” -川越、コーちゃん。

 

(毎日新聞:平成18年2月21日号より)

(政治とは悪魔との契約である、と喝破した社会学者マックス・ウェーバー。ときには悪魔祓いも必要かもしれませんね、武部さん。ひょっとして、ご本人が消えてしまったりして。メールくらいのつまらないことでショボクレていては、悪魔に笑われますよ、永田さん。)

 

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