疑惑のフジテレビ -7

もう一回だけ、本題から外れたテーマに触れることにいたします。



これまでのマスコミ報道から、検察の取り組み状況を推察し、今後の成り行きを考えてみますと、ライブドア事件の全容が解明されることなく、中途半端な状態で幕引きされることになるかもしれません。

今のところ、関係会社であるライブドアマーケティングにからむ風説の流布と偽計が立件され、更にライブドア本体の第9期(自平成15年10月1日、至同16年9月30日)の連結ベースでの53億円の粉飾決算が立件される見込みのようです。

この他にも立件されるものがあるかもしれませんが、仮にこれだけで終るものとすれば、文字通り氷山の一角と言ってもいいでしょう。

私の“想定内”には、
+粉飾決算は、第9期のみならず、上場以来の全ての期、つまり第5期から直近の第10期まで、全てにわたって行われていた形跡があること、
+マザーズへの上場自体がインチキであったと思われること、
+上場前を含めた数多くのストック・オプションの付与と行使が極めて不透明であること、
+数多くなされた会社のTOBによる買収、株式交換による買収の全てが、これまた不透明であること、
+株式会社キャピタリスタ(現、株式会社ライブドアファイナンス)とライブドア証券株式会社による上場支援事業の全てが不透明であること、
+支援する会社の上場にからんで、いくつかのグループ外の会社を利用して、利益のキャッチボールをして、新規上場会社の決算を粉飾し、更には、上場後の見せかけの業績を維持するために、同様のキャッチボールによる粉飾が行なわれていた形跡があること、
と、ザッと数え上げただけでも6つのポイントがあります。
これらは全て、ライブドアとその関連会社、あるいはライブドアと資本関係のない外部の会社が公表している資料(主に有価証券報告書です)から透けて見えることなのです。週刊誌などがスキャンダラスに取り上げている、暴力団とのつながりとか、政治家とのつながりとかは、仮にあったとしても、この6つのポイント以外のものです。脱税についても同様です。的外れとまでは言わないまでも、中核的な問題ではありません。

あるいは一部、時効の壁があったり、犯罪の構成要件に欠けるものがあるかもしれませんが、空前の規模の“詐欺事件”の全容を解明するためには、立件ができるかどうかには関係なく、少なくとも上記の6つのポイントは押えておくべきでしょう。

1.については、この事件の基本のポイントですので、ないがしろにはできないでしょうし、
2.については、堀江氏の不正蓄財のメカニズムを解明していく上で避けて通れないことでしょうし、
3.と4.については、社内外の多くの人に株券という紙切れを気前よくバラまいて、一般株主を犠牲にして不正所得を得させたものですし、
5.については、すでにいくつかの会社が現実に上場されており、ライブドア・グループの決算に、巨額の不正利得が計上されている可能性がありますし、
6.については、グループ外の非上場会社だけでなく、グループ外の上場会社もからんでいるようなのです。

最近よく国策捜査という言葉を耳にします。ライブドア事件は、国策捜査だというのです。自ら国策捜査の犠牲になったとする佐藤優さんもそのように考えている一人で、佐藤さんは、取り調べにあたった検事の言葉を次のように引用しています。

検事 これは国策捜査なんだから。あなたが捕まった理由は簡単。あなたと鈴木宗男をつなげる事件を作るため。国策捜査は『時代のけじめ』をつけるために必要なんです。時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪するのです。”(月刊ボス2006年4月号)

これと同じような意味合いで使われているのか定かではありませんが、複数の検事上がりの人物がテレビに出ては、ライブドア事件について国策捜査という言葉を口にしています。
それにしても、佐藤さんを取り調べた西村尚芳検事は、よくぞこんなことを喋ったものですね。そもそも、現在の日本国憲法の下において、このような怪しげな捜査が検察当局に許されているのでしょうか。”時代のけじめをつける”とか、”時代を転換する”とか、政治家が言うのならまだしも、検事がいうべきことでしょうか。よけいなお世話ですし、検察庁法で定められている検事の職務権限を越える越権行為ではないでしょうか。
罪刑法定主義(憲法31条、39条)の立場からすれば、検察がなすべきことは、あくまで刑法の厳格な(検察が勝手な拡大解釈をしないということです)適用であって、通常の犯罪捜査の中に“国策”などという、あいまいな考え方など入り込む余地はないはずです。

国策捜査などというものは本来あってはならないという観点からすれば、『ライブドア事件は国策捜査である』とする考えは誤っていますし、そもそもライブドア事件の本質は、前回指摘しましたように詐欺事件なのですから、国策云々するほど御大層なものではなく、この点からも誤っています。
つまり、『ライブドア事件は国策捜査である』などという論は、二重の意味で誤っているのです。

ただそうは言うものの、今の検察は何をしでかすか分らない存在です。脅したりすかしたりして自白を強要し、証拠を偽造したり、捏造したりして犯罪を創作することなど朝メシ前なのですから。あるいは政権政党の意を汲んで、捜査の方向性を自在に変えることだってするかもしれないのです。
先般の民主党のメール問題にしても、国会で爆弾発言がなされるや、間髪を入れずに、地検特捜が異例の否定コメントを出して、政権政党に救いの手を差しのべたりしています。民主党から、国会でこの点を追及された法務当局は、訳の分らない理屈をこねまわして弁解していましたが、政治的思惑に左右されるような検察とは一体何でしょうか。

ライブドア事件の中核は詐欺事件ではあるものの、単なる詐欺であるにとどまらない、構造的な広がりと深さを持っています。しかし、現状を冷静に見てみますと、事件の波及を食い止めようとするいずれかの思惑によって、事件が矮小化されてしまうおそれが多分にあるといえるでしょう。

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ここで一句。

“50年固くなったり縮んだり” -いわき、吉田健康。

 

(毎日新聞:平成18年2月20日号より)

(如意棒も検察も。)

 

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