100年に1度のチャンス -10
- 2008.12.23
- 山根治blog
このたびの金融危機については、多くの専門家と称する人達がピント外れのことを騒ぎたて、ゴミくず同然の本が次から次へと出版されています。その中にあって、真に読むに値する本が出版されました。
榊原英資 著 「間違いだらけの経済政策」(日経プレミアシリーズ)
です。平易な書き方ながらも通俗に堕すことなく、正鵠(せいこく)を射た時代認識をもとにして、明解な自論が展開されています。見事です。
榊原氏に関しては、日本の経済に関して適確な分析ができる識者の一人として、かねてからその言動については注目してきました。ちなみに、私が注目している経済分野における識者は、榊原英資氏の他には、
-寺島実郎氏
-幸田真音氏
-水野和夫氏
の3名だけです。
この4名の識者に共通するのは、それぞれがスペシャリストとして経済実務に深く携わってきたことです。この人達は、現実にそぐわない空理空論を弄ぶことなく、実際のデータを土台としてキッチリと分析した上で、時流に阿(おもね)ることなく自らの意見を発信しています。無責任な評論家とか、コンサルタント、名ばかりのエコノミスト、あるいは現実を知らない学者の類(たぐい)ではないということです。
榊原氏の現状認識の中でも目をひくのは、
とするものです。その根拠として、一人当りのGDP(Gross Domestic Product. 国内総生産)が先進7ヶ国(G7)の中で常にトップを走っていることを挙げています。平たく言えば、国民の一人当りの稼ぎ高が世界一であるということです。榊原氏は、名目GDPの単純な比較にとどまることなく、各国の産業の競争力をより適確に表すとされている「実質実効為替レート」(注)を用いて、7ヶ国のGDPをドルに換算して比較を行っています。このところ、日本の経済について悲観的な見方に傾いたり、自虐的な見方をする人達が多い中にあって、榊原氏は冷静です。
-(注)「実質実効為替レート」…それぞれの国の物価の状況・貿易の各国シェアを考慮に入れて計算した為替レートのことです。
榊原氏が取り上げているGDPという考え方は、各国の経済力を端的に表わすものとして一般に用いられているものですが、私はかねてから
について強い疑問を抱いてきました。GDPを中核的な考え方としている近代経済学そのものに対して次第に懐疑的になっているのです。榊原氏も一世を風靡したマクロ経済学に対して同様の疑念を抱いておられるようですが、前掲書の中ではGDPそのものについての見解は示されていません。
ここでは取り敢えず、GDPが国の経済力を適切に示すものと仮定して話を進めていきます。このことは、日本国の貸借対照表にいくつかの疑義があるものの、取り敢えず正しいものとして話を進めてきたこと(“100年に1度のチャンス -6”)と同様です。
榊原氏は、日本の国民は世界で一番稼いでいると言います。
アメリカのGDP(平成18年)は、名目で、13兆2,000億ドル、日本のGDPは同じく名目で4兆4,000億ドルですから、3倍の規模になります。一人当りにすると、アメリカは4万4千ドル、日本は3万4千ドルとなり、アメリカは日本の1.3倍となります。しかし、これは、あくまで名目の数字であり、前述した「実質実効為替レート」で算定しなおすと、日米の一人当りのGDPは逆転し、G7のトップに躍り出るというのです。このことは、2つのグラフ(前掲書P.38の図1-1と図1-2)によって分かり易く示されています。
一方、一人当りの富(純資産)についても、私は秘かに世界のトップクラスではないかと考えています。ただ現在のところ、各国の、とくにアメリカの貸借対照表が手に入りませんのでキチンとした比較検討をすることができません。しかし、一人当りの実質的な稼ぎ高がアメリカをしのいで世界一であること、それに加えて、アメリカのGDPの中味が日本とは全く異なったものであり、GDPそのものが果してストレートに富の源泉といえるのか疑問であることを考えますと、稼ぎ(GDP)の結果である富(純資産)についても、日本は一人当りにするとアメリカを凌ぐのではないかと考えているのです。GDPの大半を占める消費支出の相当部分が、過度の消費である浪費あるいは濫費の類のようですし、その他の支出にしても、世界中に戦争をまき散らした結果としての戦費が相当の割合を占めているようです。どのような理屈をつけようとも、そのような濫費が一国の富の形成につながるとは思われないのです。
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ここで一句。
(政治って何だ? あまり難しいこと言わないでくれよ。-ダブルKY(空気読めない、漢字読めない)の宰相より。)
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