100年に1度のチャンス -9

 ここで一息いれて、これまでの話をまとめておきます。

+9月のリーマン・ブラザーズの経営破綻をきっかけに、アメリカのサブプライム・ローンなどのインチキが露呈し、世界規模の金融危機が懸念されるに至った。

+今回の金融危機の原因は、アメリカが主導したイラク戦争とアメリカの金融機関が世界中にバラ撒いた詐欺的な金融商品にあった。

+イラク戦争によって全世界で500兆円の富の費消がなされ、イラクの国土は壊滅的な打撃を受けた。

+偽りの金融工学を駆使して巧妙に仕掛けられた詐欺行為によって、500兆円の不正な富の移転があった。

+金融危機の本質は、2つの不正行為による1,000兆円の富の費消と移転に対する反作用である。つまり、イラク戦争で濫費された300兆円の「モノ」と、2つのトラブルのドサクサ紛れに他人の富を奪い取った人達が手にした700兆円の「カネ」、合わせて1,000兆円の反作用である。

+中でも、不当な富の移転である700兆円については、正当な富の所有者に向けて再移転される動きが今後活発になるであろうし、未曾有(みぞう。みぞゆうではありません、念のため)とされる金融危機の正体は、まさにこの不当な富の移転である700兆円の再移転のプロセスである。

と、ここまでが、今回の金融危機の原因と本質あるいは正体についての私の見解です。

 何か重要な判断を迫られたとき、現在置かれている状況を合理的にかつ適確に把握することが何よりも必要ですし、現状を客観的に把握することが認知会計の出発点であることについては、これまでも繰り返し述べてきたところです。客観的に把握するということは、計数的に把握することであり、会計工学の領域になってきます。
 尚、ここでいう会計工学とは、計数一般を処理するテクノロジーというほどの意味合いのもので、必ずしもおカネだけを取り扱うものではありません。ただ、計数処理ができる代表的なものであるおカネに関して言えば、必ず足跡を残す特性を持っていますので、常に検証できるという大きな特徴があります。このような特徴をふまえて、過去、現在、未来のおカネの足跡を明確にすること、これが狭い意味の会計工学の役割です。常に検証できるということは、テクノロジーの体系の中に明確なチェックシステムを具えていることを意味します。この点が体系内にチェックシステムを持っていない金融工学との決定的な相違点です。つまり、金融工学がいかに難解な数学を駆使し、複雑な計算を大型コンピュータで行ない、もっともらしい結果をはじき出したにせよ、所詮は憶測であり、詭弁(きべん)にしかすぎません。擬似科学とされる錬金術と変るところがなく、「工学」の名に値するものではありません。つまり、金融工学は、数学と統計学の遊びの産物と称しても過言ではなく、このような遊びの類(たぐい)を金融実務の世界に持ち込んだことが、そもそもの誤りでした。内と外とのチェック(検証)システムがないために、いいかげんさがどんどんエスカレートしていき、遂にはこのたびの金融危機の大きな原因を作り出したのです。

 このことは、国交省のタガの外れた河川行政でも同じことです。国交省の役人がインチキの限りを尽くしても、誰もオカシイと指摘する者がいないことをいいことにして、やりたい放題、なんとも困ったものです。
 私の住んでいる島根県では、30年も前から国交省によって「斐伊川治水事業」が延々と続けられ、その事業規模は膨れに膨れて、7,000億円にまでなっています。この7,000億円の事業の正当性をカモフラージュするために、偽りの計算根拠(費用対効果分析、B/C分析のことです)が堂々と公表されているのですから、呆(あき)れてものが言えません。この斐伊川治水事業は、政策評価法に規定されている費用対効果を厳密に適用すれば、最大限でも500億円の事業です。それが7,000億円もの公費が投じられ、あるいは投じられようとしているのですから、差し引きで6,500億円のムダな公共投資がなされ、あるいはなされようとしていることになります。
 このインチキは、島根県だけのことではなく、北は北海道から南は九州の果てまで同じように行われていることです。昨今、民主党が一般会計と特別会計の合計額である212兆円の1割に相当する22兆円のムダをカットすると公約に掲げ、それに対して与党は絵に画いたモチであると酷評しています。与党の人達は、本当の日本国の実情を知らないままに、役人達の手の平に乗せられており、役人達の言うがままの状態です。
 国交省に限らず、全ての個別の公共事業を具体的につめていけば、年間で22兆円どころか、それ以上のムダが出てくる可能性さえあるのです。

 話が脇道にそれてしまいました。話をもとに戻しますと、前記1.~6.までの世界的な現状認識をベースにして、わが日本の現状認識に移ります。

  1. 日本が被(こうむ)った損害は、全世界の1,000兆円の10%、100兆円であると仮定する。
  2. この100兆円の負担は、日本経済にとってどのような意味合いを持つのかについては、日本国の財政状況を検討することによって明らかになるはずである。
  3. 日本国の財政状況の中でも、国富とされる純資産は、概ね2,700兆円である。
  4. 国富の2,700兆円のうち、80%強の富の所有者は家計部門である。
  5. 家計部門のうち、80%ほどの富(金融資産)を持っているのは、富裕層ではない(金融資産1億円未満の)人達である。

 ここまでが、前回までの話の大略です。次回以降、このような世界と日本の現状を踏まえて、このたびの金融危機は日本にとって果してどのようなものであるのかを考え、100年に1度の危機どころか、かえって大きなチャンスが到来したと考えている私の所論を展開していくことにいたします。

(この項つづく)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“いるんじゃない 閣僚監視 大臣が” -川崎、ふくちん。

 

(毎日新聞、平成20年11月27日号より)

(それよりも総理監視大臣が必要かも。)

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