100年に1度のチャンス -8
- 2008.12.09
- 山根治blog
ウェルス・レポートと同じような富裕層マーケットについての調査が、より分かりやすい形で日本の証券会社グループによってもなされています(2008年10月1日、株式会社野村総合研究所(NRI)による富裕層マーケットの動向分析。以下、NRIレポートといいます)。
NRIレポートでも金融資産を取り上げているのですが、ウェルス・レポートとは異なり、金融資産のみに絞っており、商業用不動産、投資用不動産は含まれてはいません。また、マーケットの分類にあたっては、それぞれの階層の人数ではなく、世帯数で行っている点でも異なっています。
NRIレポートの金融資産は、預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命・年金保険などの金融資産から負債を差し引いた純金融資産のことですから、全体としてみれば、「経済計算」における家計部門の金融資産から負債を差し引いた額に相当するはずです。
念のために、2005年(平成17年)末について両者を比較してみますと、
^^t
^cx” colspan=”2^NRIレポート
^cx” colspan=”2^経済計算(家計)
^^
^1.超富裕層
2.富裕層
3.準富裕層
4.アッパーマス層
5.マス層
^rr^46兆円
167兆円
182兆円
246兆円
512兆円
^1.金融資産
2.負債
^rr^1,540兆円
△383兆円
^^
^cx^合計
^cx^1,153兆円
^cx^差引
^cx^1,157兆円
^^/
と、概ね一致していることが分かります。
NRIレポートは、2007年(平成19年)末の国民全体の金融資産の額を1,173兆円と推計しており、これを5つの階層、即ち、
^^t
^cx^分類項目
^cx^世帯の金融資産額
^^
^1.超富裕層
^5億円以上
^^
^2.富裕層
^1億円以上5億円未満
^^
^3.準富裕層
^5,000万円以上1億円未満
^^
^4.アッパーマス層
^3,000万円以上5,000万円未満
^^
^5.マス層
^3,000万円未満
^^/
に分類して、
^^t
^cx^分類項目
^cx^保有額
^cx^世帯数
^^
^1.超富裕層
^rr^65兆円
^rr^6.1万世帯
^^
^2.富裕層
^rr^189兆円
^rr^84.2万世帯
^^
^3.準富裕層
^rr^195兆円
^rr^271.1万世帯
^^
^4.アッパーマス層
^rr^254兆円
^rr^659.8万世帯
^^
^5.マス層
^rr^470兆円
^rr^3,940,0万世帯
^^
^cx^合計
^cx^1,173兆円
^cx^4,961.2万世帯
^^/
と、5つの階層別に推計しています。尚、世帯数については、確定数が49,566,305世帯(平成17年国勢調査)ですから、単純に比較すれば4.6万世帯の食い違いがあるのですが、NRIレポートは平成19年末ですから確定数の時点とは2年のタイムラグがありますし、傾向的な状況を分析する上ではさほど気にすることはないでしょう。
NRIレポートは、金融資産の保有高が1億円以上の富裕層にターゲットを絞っているようですが、私が注目するのはウェルス・レポートのときと同様に、富裕層ではない1億円未満の人達、つまり準富裕層(5,000万円以上1億円未満)、アッパーマス層(3,000万円以上5,000万円未満)及びマス層(3,000万円未満)の人達です。この3つの階層は、
-世帯数では4,870.9万世帯と、全体の98%強を占め、
-保有額では919兆円と、全体の78%強を占めているのです。
これに対して、富裕層は、
-世帯数では90.3万世帯と、全体の2%弱を占め、
-保有額では254兆円と、全体の21%強を占めているにすぎません。
NRIレポートは、
と述べて、富裕層重視の姿勢を明らかにしています。必ずしも富裕層ではない人達を無視したものではないのでしょうが、これまでの日本の銀行とか証券会社の営業姿勢の実態を見てきた私には本音の一端がかいま見えるような気がします。とくに、1億円以下の資金しか持っていない顧客に対する証券会社のトンデモない扱いを実際に知っていますので、さもありなんといったところです。
いずれにせよ、日本の個人金融資産の80%近くである900兆円を保有している、1億円未満とはいえ、“十二分に豊かな”人達に対して、これまでは証券会社も銀行もこれといった対応をしてこなかったことは事実のようです。
この10年ほどのインターネットの普及と活用は目を瞠(みは)るものがあります。かつては手間ばかりかかってビジネスとしては成り立たなかったマーケットが、立派なビジネスの対象になりうる時代になっています。たとえば、本のネット販売を手がけたAmazon.comが好例ですし、この1億円未満の、いわば「ロングテール」(恐竜の尻尾。採算が合わないために、これまでは見向きもされなかったマーケットのことです。)の存在は、ネット・バンキング、ネット証券にとってはビジネスチャンスの宝庫となり、しかるべきビジネスモデルの構築がなされていくことでしょう。幸か不幸か、このたびの金融危機によって、これまで多くの消費者を騙して食いものにしてきたインチキ金融商品の化けの皮がはげた訳ですから、今こそ、真に顧客の立場に立ったサービスの提供が求められているのです。顧客をいわば消耗品のように扱ってきた、従来の株屋的な考え方自体を根本的に切り替えなければならないでしょうね。
ウェルス・レポートも、NRIレポートも、富裕層とされている人達以外の層(NRIレポートにいたっては世帯数の実に98%!!)が、しっかりとした金融資産を保有している事実を明らかにしてくれました。それにしても、これらの人達が個人金融資産の8割弱にあたる900兆円もの資産を保有しているにも拘らず、これまでは資金管理とか資金運用の面でまともなサービスの提供がなされてこなかったのは驚くべきことです。
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ここで一句。
(夫を犬と書くが如し。)
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