粉飾された2兆円 -12

 これまで私は、2兆円という数字が実際にはあり得ない荒唐無稽(こうとうむけい。この世の中でそんなばかなことが有るはずは無いということが分かりきっている様子、-新明解国語辞典)な絵空事(インチキということです)であることを2つの角度から論証いたしました。一つは経験則に反することを示し、今一つは論理矛盾が生ずることを示しました。ただ、これらの作業は、国交省が公表している2兆円という経済効果がインチキであることを証明することにとどまり、どの程度インチキしているのか、つまりインチキの度合を示すものではありません。

 そこで、斐伊川水系全体の経済効果(総便益B-3)を違った角度からザックリと大雑把に推計し、推計値と2兆円とを比べてみて、インチキの度合、即ち、粉飾の度合を示すことにいたします。

 これまで度々述べてきましたように、斐伊川水系の治水事業は、150年に一度の確率で起る豪雨による水害被害を防ぐことを事業の目的として謳(うた)っています。それは想定される最大の水害ということです。
 改めて、この最大の水害の被害見込額を考えることにいたします。前回(“粉飾された2兆円-11”)、この額を“961億円以上”と計算し、事業を実施したら水害被害がゼロになるという仮定を加えて、上記の“961億円以上”から“以上”を取り除き、961億円と推計しました。この961億円という金額は、私達の地元での、明治以来最大の水害をもたらした昭和47年7月の被害金額300億円の3.2倍に相当するものでした。
 総便益(B-3)を推計するために、ズバリこの数字を用いてもいいのですが、敢えて多目に設定し、昭和47年7月水害の5倍といたします。つまり、
-300億円×5=1,500億円
ということです。想定されている浸水戸数が50,700戸と、昭和47年の大水害時の24,953戸の2倍ですから、被害金額はその2乗(2²)にプラスアルファの5倍としたもので、被害見込額の最大限であると考えていいでしょう。

 1,500億円の水害被害が見込まれることに対する対応策は、経済的側面に限って言えば治水事業だけではありません。治水事業は洪水による被害を防ぐためのものですが、洪水被害が発生したとしても、要は損害額が補填(ほてん)されればいいと考えれば、例えば損害保険を掛けておくことによって、同じような経済効果が期待できるのです。つまり、1,500億円と見込まれる水災(水害被害のことです)について、損害保険を掛けておき、万一、水災が発生した場合には補填されるようにしておくことと、損害を防止するための治水事業は、こと経済的側面から見る限り同等のものと考えていいということです。

 そこで、最大限で1,500億円と見込まれる水害被害に対して、損害保険を掛けるとすれば、どうなるのか考えていきます。
 保険契約をする場合、最大で1,500億円と見込まれる損害に対して、いくら保険料を支払ったらいいのでしょうか。自動車保険、火災保険、あるいは各種の事故にそなえた保険など、これらは身近にあるものですが、水災に対する保険もあります。ただ、この保険は単独の保険としてではなく、火災保険の特約として付け加えられることが多いようです。これを「水災危険担保特約」といっています。
 この水災特約は、

“台風、暴雨風、豪雨等による洪水、融雪洪水・高潮・土砂崩れ等の水災によって特約の保険の目的(保険の対象となる家屋、店舗、工場、備品、在庫などのことです)について生じた損害に対して、損害保険金を支払う”

ものです。

 私の手許には、ある大手の損害保険会社の水災特約の規定があります。
 この規定によりますと、特約料率の定めがあり、基本となる料率(基礎料率)をもとにして、いくつかの割引をしていくしくみになっています。つまり、基礎料率を最大のものとして、条件によって順次割り引いていくものです。
 その基礎料率については、建物・屋外設備・装置などの不動産と動産によって料率が違っていますし、又、それぞれでも、危険度とか種類別によって料率に差異が設けられています。
 料率の最小のものは0.20‰(パーミル。千分率、1/10%のことです)、最大のものは10.00‰となっています。パーセントに直してみますと、0.02%~1.00%ということです。

 1,500億円の損害見込額に対して、いくらの保険料を支払うかについては、基礎料率の最大のものである1%を用いることにいたします。基礎料率を1%としますと、年間の支払い保険料は、
-1,500億円×0.01=15億円。
つまり、年間で15億円支払えば、1,500億円の水災被害が担保され、150年に一度の洪水が襲ってきても被害の回復に関しては心配ないということです。

 1,500億円はB/C分析の「被害軽減額」(B-1)に相当するものですし、年15億円という保険料はB/C分析の「年便益」(B-2)に相当するものですので、これをもとにして、総便益(B-3)を計算してみますと「DCF法の計算式」により、
-322億円
と推計されることになります。(※年間総収入に15億円、投資収益率に4%、投資期間に50年を入力)
 この322億円の算定根拠となった、1,500億円にしても、保険料率の1%にしても最大限と考えられる値を用いていますので、総便益は最大でも322億円を超えることはないことを意味します。
-B=322億円、C=6,047億円
ですから、B/C比率を計算してみますと、
-322億円÷6,047億円=0.05
となります。これは、B/C比率の基準値である1.0を大きく下回り、国交省が公表している
-3.42
の、実に64分の1ということになります。総便益(B-3)の推計値322億円が、2兆680億円と、64倍も水増しされた結果であり、驚きを通りこして、呆れてしまいます。私が、“粉飾された2兆円-1”で

“余りのことに息をのみ、愕然(がくぜん)とした”

と述べているのは、この推計結果を知っていたからです。
 更にこの推計結果から言えることは、推計された総便益が322億円なのですから、B/C比率の基準値である1に対応する総費用(C)の値は同じく322億円ということになり、こと費用対効果の観点からは事業経費の限度額は322億円どまりであるということです。総事業費は6,788億円(総費用は6,047億円)と公表されていますので、差し引き、6,400億円(6,788億円-322億円≒6,400億円)もの多額の税金が、治水効果とは関係なく投入され、あるいは投入されようとしていることになります。

(この項つづく)

 ―― ―― ―― ―― ――

 ここで一句。

“ゴキブリの 駆除に使えば いいギョーザ” -相生、ブー風ウー。

 

(毎日新聞、平成20年4月30日号より)

(私達日本人が文字をはじめ、多くのことを教わってきた、信義を重んずる偉大な中国はどこに行ったのでしょうか。)

***<今の松江> (平成20年6月11日撮影)
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^cx^持田屋小路(白潟本町)
^cx^東(ひがし)京橋のあじさい
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^<%image(20080708-390.jpg|320|240|東(ひがし)京橋のあじさい)%>
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^cx^東(ひがし)京橋のあじさい
^cx^東(ひがし)京橋のなんじゃもんじゃ
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