ライブドア監査人の逮捕 4

 このたびの田中慎一会計士の逮捕容疑は、パチンコ情報会社の「梁山泊」グループによる相場操縦事件にからむものです。会社を買収するのに、いいかげんな評価をして会社の価値を大幅に水増しした査定書を作成したとされています。このグループは、さほど価値のない会社をもっともらしく見せかけて、株式交換の手法を使って買収(M&A)し、マスコミに鳴り物入りで宣伝しては、「アイ・シー・エフ」という上場会社の株価をつり上げて、そのドサクサに乗じて不正な利益を手に入れた、というもので、新興市場を舞台に繰り広げられた「錬金術」が断罪されようとしているようです。

 と、ここまでペンを進めてきて、ヘンな錯覚に陥っていくのに気がつきました。3年前に“ホリエモンの錬金術”を書いて、株式市場で荒稼ぎをしている詐欺師のインチキ手法のことを錬金術と名づけたのは私でした。その後、一般にもこの言葉が用いられるようになり、このたびの報道でも当然のように“錬金術”という言葉が用いられていましたので、いきおいライブドアそのものの摘発ではないかと錯覚するほどでした。ライブドアが、上場以来数多くのポンコツ会社と覚しき会社を買収しては、株式分割とか株式交換という手法(つまり、トリッキーに株式を分割したり単なる株券という紙切れを印刷して)を駆使して株式市場を騙しては株価をつり上げたり、下げたりして操作し、多額のお金を投資家から騙しとったのと全く同じ構図と言えるでしょう。ライブドアの捜査はごく一部の犯罪事実を拾い上げただけで終結し、それ以外のものは封印されていますので、あるいはその封印が再び解かれたのではないかと、つい思ってしまうほどソックリの「絵図」(えず。犯罪スキームの隠語です)なのです。
 ちなみに、作家の安部譲二氏によれば、絵図を描くといっても、二種類に分類されるといいます。絵図を描く軍師のことを「絵図師」といい、単なる策謀家とか陰謀家のことを「絵図描き」と呼んで区別しているそうです(『あんぽんたんな日々』、85回“愚民による愚民の為の…“)。裏社会では、ある種畏敬の念をこめて「絵図師」と呼び、寸借サギとかコソ泥の類(たぐい)を「絵図描き」と言っているのでしょうか。堀江貴文氏とか、このたび摘発された梁山泊グループなどに錬金術の指南役をつとめたと言われる“上場請負人”と称する怪しげな人達とか、アングロ・サクソン流のインチキ手法を猿真似した人達は、さしずめ、「絵図描き」の類なのでしょうね。アメリカあたりで使い古されたインチキ手法を単に真似ただけで、独創性が全くありませんので、とても軍師とは呼べないでしょう。

 錬金術という言葉については、実は田中会計士も「ライブドア監査人の告白」の中で使っています。“錬金術を生むファンドの連鎖”(同書、P.93)とか、“錬金術スキーム”(同書、P.157)とか、ごく普通の感覚で用いているのです。
 3年前に“ホリエモンの錬金術”を書いたときには、多くの方から様々な反応をいただきました。もちろん私に対する悪口雑言は毎日のようにきていました。明らかにライブドアの関係者と分かるものもかなりありましたが、しかし、堀江貴文氏をはじめとしてライブドア関係者から、名前を明示して、直接抗議を受けたことはありません。当時の堀江氏は、訴訟マニアのような側面があり、やたらと裁判に訴えているのを知っていましたので、会社の致命的な問題点を指摘している私に対して、厳重な抗議をした上で、裁判に訴えてくるのではないかと考えていたのです。ライブドア側が敢えてそのような挙に出なかったのは、「藪(やぶ)へび」になるのを恐れたからでしょうか。

 尚、この、いわば“訴訟リスク”については、ライブドアの監査人の間でも真剣に検討されたといいます。田中慎一会計士がその内幕を明らかにしているところですが、監査スタッフからライブドアの決算の数字に不正の疑いがある旨の報告を受けて、監査人として最終的にどのように対応するべきかについて、検討がなされた時のことです。(“ライブドア監査人の告白”、P.52~P.67)
 通常さしたる問題がなければ、監査報告書において適正である旨を表明する(これを適正意見といいます)のですが、決算書を大きく歪めるほどの問題がある場合には、適正ではない旨を表明する(これを不適正意見といいます)ことになっています。また、何らかの事情で、適正とも不適正とも意見の表明ができない場合には、敢えて意見の表明をしない(これを意見差控えといいます)ことになっています。
 上場会社にとって、不適正意見とか意見差控えの監査報告書が出されるようなことにでもなれば、タイヘンなことです。とりあえずは監理ポストに移されて、内外から経営陣の経営責任が厳しく問われるだけではありません。最悪の場合には、上場が廃止されたり、あるいは経営陣の刑事責任さえ問われかねません。
 意見の表明をどうするかについて田中会計士は次のように述べて、「訴訟リスク」に腰が引けたことを明らかにしています。

“審査会では、粉飾であるとの確たる証拠がないにもかかわらず、不適正意見や意見差控えを表明するという道を港陽監査法人が選んだ場合、ライブドアや同社株主から訴訟を提起されるリスクがあるのではないか、という議論になった。
(中略)
 実際、その年には、ライブドアはイーバンク銀行を相手に訴訟沙汰になるまで激しい一戦を交えており、ライブドアの出方を恐れるパートナーが不安に感じたのはやむを得なかった。“(前掲書、P.66)

 ライブドア経営陣は、表面的には、私の指摘を無視し、平然と構えていました。しかし、私には、ライブドア経営陣があわてふためいている様子が目に浮んでくるようでした。中でも私は、ライブドアだけでなく、監査人であった複数の会計士の非をも指摘していましたので、この人達は大変な思いであったに違いありません。会計の専門家であるだけに、彼らは私の言わんとしていることが誰よりもよく分ったはずですし、当然思い当ることもあったはずです。
 田中慎一氏の著書の中には、私の名とか“ホリエモンの錬金術”のことは一言も出てきていません。完全無視という姿勢を貫いています。しかし、前述のように、私が初めて使い出した“錬金術”という言葉をさりげなく使っていることからも、私が公表する記事を毎回のように真剣に読んでいたものと思われます。

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 ここで一句。

“誤字という 気がせぬ道路 賊議員” -太田、藤井建志。

(毎日新聞、平成20年2月13日号より)

(政治家はヤクザな商売だと喝破した、作家の安部譲二さん。建設賊に防衛賊、厚生賊まで群って、国の予算を食い荒す。)

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