裏金アラカルト 4
- 2007.12.25
- 山根治blog
数日後、O.H.氏は私を伴ってこの大手商社の本社に行き、責任者に会わせてくれました。応接室で待つことしばし、現われたのは部長ではなく次長でした。名刺交換して、この人物が覚え書を作成した当事者であることが分かりましたので、私は単刀直入に、2通の覚え書のコピーを示して、文書の確認を求めました。
O.H.氏が来訪の趣旨を告げていなかったからでしょうか、私が覚え書のコピーをテーブルに置いて次長氏に示したところ、それまでのにこやかな応対が急変し、次長氏の顔がこわばり、落ち着きがなくなりました。周章狼狽(しゅうしょうろうばい)とまではいかなくとも、明らかにそれに近い反応でした。
多分に機密を要する取引であることは分かってはいたのですが、それにしても次長氏の慌てぶりにはびっくりしてしまいました。大口のODAがらみの取引で、エージェント(仲介者)がいたとしても何ら不思議ではありませんし、更には、その報酬として契約額の1%が支払われるというのも決しておかしなことではないはずです。それなのに何故、そんなに取り乱しているのか、世界をマタにかけて熾烈な交渉を繰り広げている、日本を代表する商社の責任者が何故そんなにもうろたえているのか、なんとも奇妙な光景でした。
私は、2通の覚え書について、いくつか質問をしたのですが、この商社マンは不用意に余計なことは一切話さない、といった態度に終止していました。
しかし、次のような事実を確かめることができましたので、私の面会の目的は達せられました。
+O.H.氏の会社とのエージェント契約を確認した大手商社の覚え書は真正なものであること。
+数年前から中近東のある国でODAにからむプラント事業が計画され、契約の締結が大詰めにきていること。
大手商社のプロジェクト責任者に会った翌日、私は念の為に一つの確認作業をしています。責任者として出てきた人物が、本当に間違いのないものであるかどうかのチェックです。名刺を偽造することなど簡単なことですし、大手の会社の応接間を借用し、本人になりすましている可能性があるからです。念を入れるに越したことはありません。
大学の同窓会名簿を調べたところ、この大手商社には数百人の同窓生が在職していました。私はその中から面識のある一人に連絡をとり、次の3つの点についての確認を依頼しました。
+会社に重機部(Heavy Machinery Dept.)があるかどうか。
+現在の重機部の部長は、M.H.氏であるかどうか。
+昨日、次長のY.A.氏は会社の本社応接室で、山根治という人物に会ったかどうか。
友人に電話で確認依頼をしてから、10分も経たないうちに、早速返事がきました。3つとも事実であるというのですが、その友人は更につけ加えて私に問い質してきました。
前の日、次長に会ったときの異様な反応から大体の察しはついていたのですが、友人からの情報が加わることによって、私の推測は確信に近いものとなりました。このODA取引には表に出せない裏があるに違いない、ということです。この上は直接エージェント役のO.H.氏本人に何としてでも問い質し、確認しなければならない。改めて、O.H.氏に連絡をとり、会うことにしたのは言うまでもありません。
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ここで一句。
(守屋前次官のおねだり妻。“役人の子ハにぎにぎを能覚(よくおぼえ)”-誹風柳多留(はいふうやなぎだる)。)