裏金アラカルト 2

 昭和から平成に変わる頃ですから、今から20年ほど前のことです。ODA(Official Development Assistance。政府開発援助)の利権に関わっている人物との出会いがありました。私と同年輩のO.H.氏です。



 O.H.氏。昭和16年岡山県生まれ。大学卒業後、日本古来のある武道の普及・指導のために、海外青年協力隊の一員として中近東へ。武道を通じて現地の上流階級(王族)との親交が生じたり、現地の女性と結婚したりしたことから現地に腰を落ちつけることを決意。武道の指導を続ける一方でいくつかの事業を手がける。そのかたわら、日本からのODA事業にもかかわり始め、フィクサーとしても活躍。

 O.H.氏との出会いは、世界の各地に秀れた人脈を持っているB氏からの依頼がきっかけでした。

『雲をつかむような大きな話を持ってきた人物がいるが、自分には判断できかねるので、一度会って真偽のほどを確かめてくれないか。』

というものでした。
 私は生まれつき好奇心が人一倍強い方ですので、二つ返事で引き受けました。もちろん会計士の業務としてではありません。ただ、生の情報に直接触れることは、間接的にではありますが、本来の業務に裨益(ひえき。役に立つことです)するところが大きいために、興味のおもむくままに調査を進めることにしたのです。
 B氏からの話は、多額の税金が発展途上国に向けてバラまかれ、何かと問題となっていたODAの利権にからむもので、しかも少なからぬ裏金がからんでいるようでした。このような裏金についてはマスコミで折にふれて話題になることはあるのですが、ほとんどが伝聞によるいいかげんなものです。取引の具体的な事例に基づくものはほとんどないと言ってもいいでしょう。大半が闇から闇へと消えていく世界だからです。
 ODAの実態が何なのか、実際の金の流れを追うことができるのではないか、私はじっくりと腰をすえて取り組むことにしました。

 私がこれまで出会った裏金の話の中で、スケールとして最も大きなものは、いわゆるM資金です。(「裏金について -2 」を参照)
 開業してから30年の間に、いくつかのバリエーションをもったM資金話に直接触れたのは4回。その全てがそれぞれ異なる知人からの確認依頼によるものでした。最低でも百億円単位、大きいものでは2兆円というものがありました。戦後の日本を復興させるためにアメリカ駐留軍がひそかに残しておいたお金であるとか、戦時中に供出されたダイヤモンドとか金などの隠匿物資に基づくお金であるとか、あるいは、歴代の自民党政権がひそかに貯めこんでいる秘密のお金であるとか、そのバリエーションは様々でした。私が出会った4つともインチキ話でしたが、もっともらしい筋書きに加えて、それなりの書類が用意されている巧妙な詐欺話でした。
 M資金詐欺は決して過去の話ではありません。つい最近も、知人のオーナー経営者にM資金類似の話が持ち込まれ、私に相談があったばかりなのです。もちろん私は具体的な事例を示した上で、そのようにウマそうな話には乗らないようにアドバイスしたのは言うまでもありません。現在でも少なからぬ数の詐欺師が、怪しげな話を持ち歩いているんですね。

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 ここで一句。

“玄関で ハグして妻に たたかれた” -佐倉、繁本千秋。

 

(毎日新聞、平成19年12月2日号より)

(寄るな、触るな、ひっつくな。“知り合いの 猫をハグして ひっかかれ”)

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