166 続・いじめの構図 -10

****その10)

税理士登録の申請に際して要求された、数多くの添付書類の中でも、作成するのに少なからぬ抵抗感を覚えたものがあった。私が執行猶予付きながらも、有罪判決を受けた件について、判決の内容を示した上で、反省の意を表わし、税理士会に対して詫びを入れる上申書だ。いうところの詫び證文である。

税理士会事務局からヒナ型が提示され、その通りに書くように指示された。何故、このような詫び證文を提出しなければならないのか問い質しても、税理士会のナメクジはノレンにウデ押し、そのような決まりになっている、と素っ気ない。詫び證文を添付しないと、申請書を受理しないというのである。
たしかに、私は冤罪を主張し続け、本件については完全無罪を勝ち取ったものの、おまけのように追加された別件では有罪となった。逮捕され、刑事被告人となったことによって、私の周りの多くの人に多大な心配をかけ、迷惑を及ぼしたことは事実である。その第一は、私の配偶者であり、2人の息子であり、老いた母であった。第二は、私を支えて下さっている多くの友人であり、顧問先の方々であった。これらの人々に対しては当然のことながら感謝の気持ちと同時に、心配と迷惑をかけたことに対して申し訳ない気持ちで一杯である。この念は、私の生涯にわたって持続し、消えることはないであろう。
しかし、税理士会に詫びを入れるとはどういうことか。私を冤罪に陥れ、社会的に抹殺しようとしたのは、他ならぬ国税当局であった。税理士会は、建前上はともかくとして、事実上、国税当局の下部組織である。下請機関と言ってもいい。つまり、私を社会的に葬ろうとした相手の同類に対して、私の方から詫びを入れるということだ。
若い頃の私であったなら、私の意に添わない書面をしたためることは断じてしなかったであろう。このような詫び證文を強いられる位なら、登録申請自体を取りやめたに違いない。だが還暦を過ぎた私は、一時の感情とか筋論だけでは行動を起さなくなっている。相手によっては、韓非子(かんぴし)の非情の論理が必要となることを身に沁(し)みて知ったからだ。
国税当局と一体である税理士会は、なんとかして私の税理士再登録を阻止しようと躍起になっている。相手がどこまでのことをやってくるのか、腹を据えて見定めることに意を決し、言われるがままの文面で、詫び證文をしたためた。日本税理士会連合会森金次郎会長と中国税理士会小早川隆幸会長とに宛てた、同一文面の上申書2通である。今なお慙愧(ざんき)の念が残る、詫び證文の全文をここに掲げる。

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平成18年10月12日

日本税理士連合会

会長 森金次郎 殿

島根県松江市魚町69番地
山根 治
上 申 書

この度、私は、税理士登録申請書を提出しておりますが、本書面におきまして、平成15年11月21日、税理士登録抹消届出書を提出に至った経緯をご説明申しあげるとともに、深い自省の心情を関係各位の前に披瀝・吐露し、現在の私の心情をご理解いただき、できる限りのご寛大なお取り計らいを賜りますよう、本上申書を提出いたします。
私は、平成8年1月26日、公正証書原本不実記載及び法人税法違反容疑で検挙されました。ともに私の不徳の致すところと深く反省致しております。この二つの容疑によって起訴され、平成15年10月2日、懲役1年6ヶ月、執行猶予3年の刑が確定致しました。これを受けて平成15年11月21日税理士登録の抹消を申請し、受理して頂きました。執行猶予期間中は身を謹しみ、税理士業務をはずしたコンサルタント業務を行ってきたところです。このたび3年の執行猶予期間が無事経過する運びとなりました。
私は、この度の不祥事を真摯に受け止め、深く反省するとともに、私の不祥事のため税理士の社会的信用を失墜させ、また、税理士会に対し多大なご迷惑をおかけしましたことを大変申し訳なく、幾重にもお詫び申しあげます。
これらのことに関して、私の取り巻く大勢の方、とりわけ当時の関与先、友人知人、社員とその家族達に計り知れない迷惑・心労をかけましたことを深く反省いたしております。
今後は、税理士法第1条『税理士の使命』の本旨をあらためて理解し直し、今回のことを教訓とし肝に銘じ、今後、この様な不祥事を絶対せず、税理士に対する社会的信頼と評価を落とすことのないよう精進していく覚悟であります。どうか、今般提出いたしました税理士登録申請書を受理の上、再登録させていただきますよう、お願い申しあげる次第であります。

 

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