Uチャート分析 -3
- 2006.11.21
- 山根治blog
Uチャート分析の基本は単純化です。
このところ、企業会計のルールに毎年のように変更が加えられ、なんとも複雑で分りにくいものになってきました。上場会社の経理担当部門も変更に対応するのは大変なことでしょうし、監査する側の会計監査人もそれ以上に大変な思いをしているようです。
現在公表が義務付けられている決算書(これを財務諸表といい、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書が主なものです)をはじめとした開示情報は、必ずしも分かり易いものではありませんが、それだけに、一昔前に比べますと驚くほど多くの内部情報が盛り込まれています。
ところが有価証券報告書の中に盛り込まれている内部情報、あるいは機密情報といいましても、ピンからキリまであります。つまり、会社の実態を把握するのに欠かすことのできない重要な情報から、会社の広告宣伝の類い、あるいは希望的観測の情報まで、まさに玉石混淆といったところです。
会社の分析をする場合には、開示されている多くの情報の中から必要な情報を拾い上げ、更には情報同士を組み合わせてより質の高い情報に仕立て上げることが大切です。
その為の第一歩が決算書の大雑把な把握です。その会社の大体の姿を取り合えずザックリと見極めることです。全体像をまずおさえた上で細部に入っていくわけです。
このプロセスは、決算書の単純化、つまりギリギリのところまで簡略化することです。
具体的には次の通りです。
***(1)貸借対照表(=資産と負債の一覧表)
****1.資産
+現金預金
+その他流動資産
+有形固定資産
+無形固定資産
+投資等
+1.~5.の合計(総資産)
****2.負債と資本
+流動負債
+固定負債
+資本
+1.~3.の合計(総資産の原資)
***(2)損益計算書(=売上と費用の明細書)
+売上高
+売上原価
+その他費用収益(*注)
+当期純利益
(*注)販売管理費、営業外収益、営業外費用、特別利益、特別損失、法人税等を合算した純額。
***(3)キャッシュ・フロー計算書(=お金の流れの説明書)
+営業活動によるキャッシュ・フロー
+投資活動によるキャッシュ・フロー
+財務活動によるキャッシュ・フロー
+現預金の純増減額
つまり、
-貸借対照表については、10のデータ、
-損益計算書については、4つのデータ、
-キャッシュ・フロー計算書については、4つのデータ、
の、合わせて18のデータにまとめることです。
これら18のデータさえあれば、企業の大体の姿は把握できます。もちろんこれだけではピンボケの像しか現われてきませんが、大まかにつかんだ上で18のデータ一つ一つを必要に応じて吟味して掘り下げていく訳です。ピンボケの像が次第に修正されてクッキリとしたものに仕上がっていくはずです。
まず全体の森の輪郭、たとえば熱帯の森なのか、温帯の森なのか、寒帯の森なのかといった全体の輪郭、あるいはまた、若木が生い茂っている若々しい森なのか、砂漠化しつつある消滅しそうな森なのかといった輪郭をザックリと把握し、その後に森を構成している一本一本の木とかその他の植生、あるいは森を流れる小川などをじっくりと観察するわけです。そこには鹿がいたり、カモシカがいたりするでしょうし、雉とか山鳩がいたり、あるいは様々な昆虫が生を営んでいることでしょう。
この作業を過去5年まで遡って試みますと“像”自体が動きはじめます。更には、有価証券報告書に盛り込まれた、決算書には直接関連しない多くの情報を加えたり、決算期の後で出された会社のプレスリリースとか、マスコミ情報あるいはネット情報などをしかるべく選択して取り込みますと、現在、つまり進行年度の会社が生き生きと動いてみえるようになります。こうなったらシメタものです。組織体である会社が、まるで一つの生き物であるかのように動き回るのです。これからどう動くのか、半年後、あるいは一年後の姿がかなり明確な形で予測できるというわけです。
尚、マスコミ情報とかネット情報には、真実であるかウソであるかはっきりしないものが多く見受けられます。中には会社自らが発するプレスリリースでさえ、株価操作などのために、いいかげんなインチキ情報である場合もあるのですから。
このような情報といえども、無視していいものではありません。私は、10に一つ、あるいは20に一つの真実があればいいと思っていますので、そのようなものを吟味して拾っていけばいいのです。基本となる有価証券報告書をキチンと読み込んでさえいれば、インチキ情報であるか正しい情報であるかは、なんとなく感覚的に分かるものです。あるいはインチキ情報であろうとも、その裏を読むことによって真実の情報に近づくことができる場合もあるかもしれません。
―― ―― ―― ―― ――
ここで一句。
(北の将軍様にこのユーモアが分かるかな? 分かる訳ないか。)
【追記】
具体例として、日本を代表する企業であるトヨタ自動車の5期分の決算書をUチャート(円グラフ)によって表示してみました。「Uチャート分析 -号外」をご覧下さい。(2006-11-22)
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