疑惑のフジテレビ -11

私がフジテレビのデューデリに拘わるのは、昨年以来疑問を抱き、不審に思っていたからです。

フジテレビは昨年の4月18日に、デューデリを前提とした基本合意を行ない、一ト月後の5月23日に実際に440億円の増資に応じているのですから、この時点でフジテレビの経営陣は、デューデリの結果、ライブドアに出資することは経営者の判断として問題はないと考えたのでしょう。このことは、デューデリを実施することを公言し、その結果問題はなかったと言っていることを意味します。

本当にデューデリは実施されたのか、実施されたとしたら、一体どのような調査がどのようになされ、どのように結論付けられているのか。

このような疑問が浮び、私の中で消え去るどころか益々膨れ上がっていきました。
それが今年になって、ライブドアが摘発され、堀江貴文氏が逮捕されると、フジテレビの日枝久会長が、

「だまされた。あんな会社だとは思わなかった。」

などと発言するものですから、私の疑問はピークに達し、遂には、“疑惑”という強い表現にせざるを得なくなったのです。
ライブドアの上場廃止が決まり、USENの宇野康秀氏に、フジテレビが所有していたライブドア株の全てを売却することによって損害額が確定したために、フジテレビはライブドアに対して、早速損害賠償の請求をしています。

日枝氏をはじめフジテレビの経営陣の思惑は、次のようなものであろうと推測されます。

“外部専門家によるデューデリのお墨付きをもらっている。440億円の増資に応ずることは、念には念を入れた経営判断であった。その上に、ライブドアとの最終契約書には「表明・保証」の条項も入れてあるので、ライブドアに損害賠償を請求するのは容易であるし、しかも確定した三百数十億円の損害金については現在のライブドアには十分な資産があるので回収するのに問題はない。会社の損害が完全に回復できるので、自分達の経営責任が問われることはない。”

このところの日枝氏の言動は、経営者としての自信に溢れ、ゆとりさえ感じられます。その自信とゆとりは、上記のような背景に支えられているのでしょう。
尚、「表明・保証」(Representations & Warranties)という、一般にはなじみの薄い言葉を使いましたが、これは、契約書の中で契約の当事者(たとえば、ライブドア)が、一定のことがら(たとえば、過去の決算書は正しいもので偽りはないこと)を、表明し、自ら保証することを言います。
万一、表明したことがらが事実に反する場合には、表明した当事者が保証の責任を負い、損害賠償に応ずることを予め定めておくのです。
もともと、英米法の国で用いられていたもので、日本で用いられることはなかったのですが、近年M&A等の商取引が国際的になり、日本でも用いられるようになりました。最近では、M&Aなどの特殊案件だけでなく、一般の不動産取引などにも活用されているようです。契約書を作成するにあたって、どのような表明・保証条項を入れるかは、法務担当者、あるいは弁護士の力量によるとされています。
フジテレビがライブドアに440億円の増資に応じた際の契約書は公表されていませんので、確定的な言い方はできませんが、デューデリが監査法人だけでなく法律事務所にも依頼されたことから考えて、契約書自体はおよそ考えうる限りの多くの表明が列挙されている、万全なものが作成されていると思われます。

たしかに、フジテレビとライブドアという契約当事者に限っていえば、損害賠償請求に関してさしたる問題は生じないでしょう。契約通りにことを運べばいいのですから。
しかし、ライブドアに現在残っている財産は、一般の株主をも騙して手に入れたものであることを忘れてはいけません。フジテレビだけのものではないのです。
仮に、日枝氏の

「だまされた。あんな会社だとは思わなかった。」

という言葉が建前のものであり、真実に反するものであるとしたらどうなるでしょうか。
この場合、表明・保証の契約条項をタテにして、一般の株主に優先して損害金を受け取ることができるのでしょうか。

―― ―― ―― ―― ――

ここで一句。

“もうダメと思ったときのもう一歩” -印西、子育ち中。

 

(毎日新聞:平成18年4月3日号より)

(ライブドアに騙された一般株主の皆さん、300億円余りのお金がスンナリとフジテレビに渡ってしまうと、皆さんが回収すべきお金がそれだけ少なくなりますよ。フジテレビはライブドアの身内であり、ライブドアが立派な会社であるという誤ったメッセージを流し、ライブドアの詐欺的行為に加担した当事者であることを忘れてはいけません。フジテレビは一般株主の立場から見れば、被害者ではなく、加害者なのです。)

 

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