江戸時代の会計士 -3
- 2005.08.16
- 山根治blog
親類身内を呼び寄せて、親類には義絶を、妻には離別を、子供たちには勘当を、家来達には暇(いとま)を申し渡したのに対して、当然のことながら強い反発がありました。
親類の者が言うのには、-
(なんと、木工殿は気が狂ってしまわれたのか。…一体どんなお考えなのですか。全く納得がいきません。)
これに対して、木工は、
(決して気が狂った訳ではなく、先に話したように、このたびの役目を立派に果たすのに邪魔になるからである)
と、突っぱねます。
妻は涙を流しながら訴えます。
(お役目の邪魔になるというのなら致し方ありません。ただ、このような訳で邪魔になると、その理由をおっしゃって下さり、納得させて下さるならば、離縁の申し渡しをお受けいたしますものを、理由を言って下さらなければ、親元へ戻っても申し開きするすべがありません。子供にも理由をおっしゃったうえで納得づくで勘当して下さい。)
妻の涙ながらの嘆願に、木工は「訳を話しても納得してくれないと思い、また理由を言ってみても無駄なことだと考えて言わないでおこうと思っていたが、皆がどうしても理由を聞きたいというのであれば、わかった、話して聞かせよう。」と前置きして、
(まず、私は今後ウソを一切言わないと心に決めた。)
と、財政改革に取り組む基本姿勢を説明します。
従来ともすれば、為政者の言葉とか方針は朝令暮改の傾向にありました。藩の財政改革は、為政者と領民が心を一つにして取り組まなければならないのですが、今までのように為政者の言葉がクルクル変わるようでは、とても領民の信頼を得ることはできませんし、効果的な改革は期待できません。
そこで木工は、領民の信頼を勝ち取るためのスタートして、ウソは言わない、約束は必ず守ることを明確に打ち出そうと考えた訳です。有言実行ということですね。
実際にこの後の領民との話し合いの冒頭に、
(まず私は第一に、今後ウソは一切言わないつもりであるから、ひとたび口にしたことは決して変更しないので、この点、皆にはしっかりと心に留めておいてもらいたい。)
と言っています。ひとたび領民と約束したこと(公約と言ってもいいでしょう)は、絶対に守り通すと念を押しているんですね。
虚言(うそ)をつかないことを身内だけでなく、藩の役人、領民に対しても公言し、信頼を勝ち取るための基本に据え、財政改革を貫徹させようとしているのです。
―― ―― ―― ―― ――
ここで一句。
(公約。単なる選挙用のキャッチフレーズ。実行は二の次の空手形。虚言を玩ぶことは、現在の政界においては常識となっているようですね。公約を破って何が悪いのか、と国会で堂々と居直った首相もいるのですから。)
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