084 田中良

****六.その他検察官言行録

*****(1) 田中良

一、 松江地方検察庁次席検事。マルサ事案の統括責任者。中央大学法学部卒。

検察内部で一部慎重論があったにも拘らず、強引に逮捕・起訴に持ち込み、マスコミに虚実とりまぜた情報をリークし、元来ほどほどのワルでしかなかった私を稀代の悪徳公認会計士に仕立て上げた中心人物。

二、 事務所の職員古賀益美氏が回想する、 ―

「そう、あれは、平成6年6月30日、天気のいい日曜日のことでした。私、その日は休みだったんですが、やり残した仕事がありましたので、事務所に出ていました。お昼の弁当を買いに出たんです。買い求めた弁当を手にビルに向っていました。午前11時30分頃のことです。
何気なく前に目をやると、頭の毛がかなり薄くなった中年の男が、山根ビルの様子をうかがっているんじゃありませんか。
テレビで見たあの顔です、起訴のとき、テレビの記者会見の席で、「背景に大型脱税が・・・」なんて、上眼をつかい冷たい顔をしてしゃべっていたあの男、田中良に間違いありません。しっかり録画もしてあるんですから。
陰気臭くて、しかも憎らしく思っていた相手です、忘れるわけがありません。」

三、 「下腹がふくらんだ中年体型の田中は、胸のところに水色と紺の太い縞のあるポロシャツを着て、山根ビル隣の家電量販店の前で、タバコをふかしながら、山根ビルをじっとうかがっていました。獲物を狙っている蛇のようでしたね。
私、ビルの入口にさしかかったとき、急に思い直して、引き返すことにしました。田中が何をしているのか、近くでゆっくり観察しようと思ったんです。
すると、むこうも気がついたんでしょうね。慌てて家電量販店の中に入っていってしまいました。まるで子供がワルサを見つかってしまった時のように、オドオドとパニクっていました。きっと、うしろめたいことをしていると思っていたんでしょうね。
私も急いで店に入ってサッと見回してみたんです。いましたねえ。向うも陳列棚から少しばかり首を出して、こちらを見ていたんです。二人共、亀みたいな感じで。
しばらく陳列棚を挟んで、お互い相手の様子を探り合っていたんですが、いつの間にか見失ってしまいました。」

四、 「それにしても、田中はびっくりしたんでしょうね。中年のおばさんが何やら買い物袋を小脇にかかえて、露骨に後をつけてきたんですから。検事として、今まで人を追っかけたことはあるんでしょうが、人から、しかもわけの分からない中年のおばさんから追っかけられて逃げ回ったなんてのは、初めての体験だったんでしょう。なんせ、慌てていましたからね。
私、伊丹十三の「スーパーの女」のワンシーンを思い出しました。スーパーの店長と、指で商品に穴を開けてまわるお婆さんの場面ですよ。二人が、スーパーの陳列棚をはさんで、相手の出方をうかがいながら、抜き足、差し足、忍び足といったシーンでしたね。当事者の二人は真剣勝負ですから大真面目ですが、第三者から見ればなんとも滑稽な場面になってしまうんですね、
私達の場合、さしづめ『晴れた日曜日の昼日中、買物帰りの中年女性にうしろめたい行為を見とがめられて追跡され、やっとのことで逃げおおせた、これまた中年の下腹のでた地検ナンバーツーの検事』といった図柄にでもなるのかしら。」

五、 「田中が何のために山根ビルを偵察していたのか、本人に直接尋ねてみないと分かりません。
おそらくは、山根会計事務所がどうなったのか確認するために見に来ていたんでしょう。
山根所長が逮捕されたのが、1月の末でしたから、5ヶ月も経っています。そろそろ事務所が潰れてもいいころだと思ったんでしょう、通常であれば、そうでしょうからね。
だってそうでしょう、検察としては山根所長の拠点がなくなってしまえば万々歳だったんでしょうからね。
裁判費用も賄えなくなるし、更には、事務所がなくなってしまえば、頑として否認を通している所長も気落ちの余りやけっぱちになって、嘘の自白をするかもしれないじゃないですか。それこそ検察の思うつぼですよ。
田中良としては、とっくの昔に潰れていてもおかしくない山根事務所がどうも以前と変ることなく営業をしているらしいとわかって、いまいましいような気持でいたところを、いきなり怪しげな女が出てきて、あろうことか検事サマをつけまわし始めたんで、さぞかし驚いたことでしょうね。」

六、 「その後も、田中良は、私が確認しただけでも、2回、山根ビルを偵察にきていました。
田中はよほど気にしていたんですね。」

 

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