前代未聞の猿芝居―㉑
- 2019.05.28
- 山根治blog
- -承前① まず、「逮捕の理由(要件)」について。
被疑者の逮捕の要件については、刑事訴訟法第199条で規定されている。
同条第1項では、
「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる」と規定し、
同条第2項では、「裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上のものに限る。)の請求により、前項の逮捕状を発する。」と規定している。
第1項は、逮捕することができる者として、検察官の他に検察事務官又は司法警察職員に限定し、
第2項は、逮捕状を請求することができる者として、検察官の他に司法警察員に限定している。第2項では、第1項の検察事務官が外され、第1項の司法警察職員が警部以上のものに限定されている。つまり、本件の山持昌之主査などの国税査察官は、刑事訴訟法上の
「逮捕することができる者」でもなければ、
「逮捕状を請求することができる者」でもない。刑事訴訟法以外の国犯法(平成30年4月1日以後は、国税通則法)にもそれらを認める規定は存在しない。
即ち、国税査察官には、逮捕する権限もなければ、逮捕状を請求する権限もないということだ。本件の弁護人は、第5回公判法廷(「前代未聞の猿芝居-⑦」)において、
「委任契約(注、筆者とA社との契約のこと。)が、平成29年の11月20日なんだよね。検察官が提出した記録を見ると、その委任契約締結以降にね、あなたの税の質問てん末書がないんですね。」と社長夫人に問いかけている。
弁護人の質疑の内容と社長夫人の応答の当否についてはすでに述べた(「前代未聞の猿芝居-⑬」)が、その当否はともかく、査察官と検察官が創り上げたシナリオに基づく現実は次の通りであった。「社長夫人は、山持昌之主査の7回にもわたる出頭要請(「前代未聞の猿芝居-⑩」)に応じなかった。出頭要請に応じなかったのは筆者(山根治税理士)の指示によるものであった。
社長夫人が逮捕され、身柄拘束(勾留)されたのは、査察調査に協力的でなかったこと、即ち出頭要請に応じなかったことだ。
このような逮捕の理由を社長夫人が聞いたのは、松江地検の金原健太検事からであり、社長が聞いたのは、社長夫人を逮捕にきた松江地検の丸山潤検事に同行していた査察官からであった。(「前代未聞の猿芝居-⑭」)」しかし、刑事訴訟法第199条で規定されている「逮捕の要件」は、
「被疑者(犯則事件では犯則嫌疑者)が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること」に限定されており、
「査察調査に協力的でないこと、即ち、たび重なる出頭要請に応じなかったこと」が、「逮捕の要件(理由)」とはなりえない。
松江地検の検察官はあるいは、刑事訴訟法第199条第1項の但し書き、即ち、「30万円以下の罰金、勾留または科料に当たる罪(注、軽微な罪のこと)については、-(略)-、正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る)」の規定を曲解(きょくかい。事実をまげて解釈すること。-廣漢和辞典、中巻)して「逮捕の理由」としたのかもしれない。
たしかに、本件犯則事件における脱税罪は10年以下の懲役が科せられる罪であって、決して30万円以下の罰金等に当たる軽微な罪でない。加えて、出頭の要請についても、前条(刑事訴訟法第198条の被疑者の出頭要求)の出頭の求め、即ち、検察官、検察事務官又は司法警察職員の出頭の求めに限定されており、査察官山持昌之主査の出頭要請は該当しない。従来、広島国税局の査察官だけでなく、全国の国税局の査察官が、査察調査の際に逮捕をチラつかせ、
「素直に査察調査に協力しないと逮捕されるぞ!」と納税者を脅して税金を取り立ててきたこと(恐喝)は厳然たる事実である。
しかし、査察官による恐喝は、闇の中に隠蔽され、決して表に出ることはなかった。
本件は、2人の検事の名前とともに闇の部分が表面化した初めてのケースではないか。
弁護人を巻き込んだ下手(へた)な猿芝居によって、これまで闇の中に隠されていた査察官による犯罪行為たる恐喝(刑法第249条)が焙(あぶ)り出されてきたのである。
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