前代未聞の猿芝居―㉒

  1. -承前② 次に、「身柄拘束(勾留)の理由(要件)」について。

    本件勾留状は、被疑者の身柄拘束(勾留)の理由(要件)については、前述の通り(「前代未聞の猿芝居-⑳」)、刑事訴訟法第60条第1項に限定列挙されている一号の住所不定の要件をはずし、二号の罪証隠蔽のおそれと三号の逃亡のおそれに絞って認定している。
    ところが、松江地方検察庁の検事は、

    「調査に協力的でなかったこと」

    を身柄拘束(勾留)の理由としている。「調査に協力的でなかったこと」という勾留の理由は、二号の「罪証隠蔽のおそれ」でもなければ、三号の逃亡のおそれでもない。「そもそも、刑事訴訟法で、「調査に協力的でなかったこと」ということは、勾留の理由とはされていない。
    筆者が、(「前代未聞の猿芝居-⑭」)において、

     弁護人(弁護士)、検察官及び裁判官は、法曹(ほうそう)三者として、国家から独占的かつ強大な権限を与えられている法律事務の専門家である。
    本件“猿芝居”にかかわっている法曹三者は、税法(国犯法、国税通則法、法人税法)をご存じないだけではない。刑事訴訟法第60条に規定する身柄拘束(勾留)の要件をもご存じないものとみえる。

    と皮肉った所以(ゆえん)である。

    あるいは、「調査に協力的でなかったこと」が、二号の罪証隠蔽のおそれの中に入るとでも言うのであろうか。
    仮に、このような詭弁(きべん。本来つじつまの合わない事を強引に言いくるめようとする議論。-新明解国語辞典)を弄(ろう)するのであれば、嘘の上塗りとなって矛盾点が益々増大していくことになろう。

    思いかえせば、平成8年1月26日、筆者が松江地検の検事に逮捕され身柄拘束された時のことであった。
    この時も勾留の理由に、罪証隠蔽のおそれが挙げられていた。
    ところが、裁判官が認定した罪証隠蔽のおそれの中味が荒唐無稽(こうとうむけい。とりとめがなく考えに根拠がないこと。でたらめ。-広辞苑。)なシロモノだったのである。
    保釈却下の理由として、

    「事件関係者の身体等に危害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足る相当な理由がある」

    ことを挙げており、具体的には、

    「事件関係者(千葉県在住)の一人が、松江地検に任意で呼び出されているが、筆者が暴力団山口組に関係しており、松江に行くと殺されると言って怖がっている」

    というのである(「冤罪を創る人々」-「捏造された勾留理由」)。
    なんとも恐れ入った(あまりにも常識とかけ離れているので、お手上げだという気持ちになる。-新明解国語辞典)理由である。捏造もここに極まれり、といったところだ。

    この時(平成8年)、保釈請求をしたり、準抗告の請求をした弁護人は、本件猿芝居を演じている弁護人と同一人物だ。
    従って本件弁護人は、勾留の要件が3つに限定されているということは当然知っている。その上、検事が表向きの理由とは別に裁判官に本当の理由を裏でこっそりと話すことも知っている。
    事実関係がここまで判ってくると、何だかおかしなことになってきた。

    本件の逮捕・勾留の理由とされている。

    「調査に協力的でなかったこと」

    は、具体的には査察官による7回の出頭要請に社長夫人が応じなかったことであり、筆者が出頭要請など無視すればいいと言っていたことを意味している。
    このような勾留状の表(おもて)には出ない水面下の事情は、本件弁護人としては、第5回公判廷(「前代未聞の猿芝居-⑦」)でトンチンカンな質疑をする前に当然知っている。
    何故なら、本件被疑者であるA社の社長も、被疑者として逮捕・勾留された社長夫人もともに、筆者のせいで逮捕され、身柄拘束されたと信じ込んでおり、かつ、そのように主張しているからだ(「前代未聞の猿芝居-⑦」、その他、社長及び社長夫人の手紙等の言行記録。)。
    本件脱税事件を受託した弁護人が、公判の前に筆者に対する怨みつらみを両人から聞かなかったはずはない。

    するとどうなるか。
    本件弁護人は、「調査に協力的でなかったこと」が刑事訴訟法第60条の勾留理由にはないことを知っており、かつ、「調査に協力的でなかったこと」がこっそりと二号の罪証隠蔽のおそれの中に潜り込んでいることも知っていたことになる。単純な論理的帰結である。

    筆者は、「前代未聞の猿芝居-⑦」の末尾で、

    「本件“猿芝居”にかかわっている法曹三者は、……刑事訴訟法第60条に規定する身柄拘束(勾留)の要件をもご存じないものとみえる。」

    と皮肉っている。
    ところが、弁護人だけでなく、検察官、裁判官もともにその規定を知らないどころではない。身柄拘束は、憲法第三十四条で保障されている基本的な強制措置であるだけに、当然のことながら三者とも熟知していたのである。

(この項つづく)

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