東京地検特捜部も断末魔(だんまつま)に-②

平成30年12月20日、東京地裁は、カルロス・ゴーンの勾留延長を認めない決定をした。特捜部案件では異例のことである。

「ある検察幹部は、驚きと不満を隠さなかった」

として、

「非常識な判断。裁判所は腰が引けているのではないか」

とするコメントを載せている(毎日新聞平成30年12月21日号)。

非常識なのは裁判所ではない。「引かれ者の小唄」(注1)のようなコメントを発する検察官こそ非常識だ。
何故か?

前回、私は、

『この逮捕・勾留劇-どこかおかしい。強烈な違和感がぬぐえない。
何故か?何がおかしいのか?それは、刑法と刑事訴訟法の基本が無視され、ただ単にカルロス・ゴーンを社会的に抹殺(Character Assassination)するためになされたことが明らかであるからだ。東京地検特捜部の断末魔(注2)の仕業(しわざ)である。断末魔に陥っているのは、国税庁だけではなかったということだ。』

と断定的な言い方をしている。
何故、以上のようなことが断定できるのか?

カルロス・ゴーンの逮捕・勾留の嫌疑は、金融証券取引法に基づく有価証券報告書に役員報酬を過少記載したこととされている。
具体的に言えば、

『2010~14年度のゴーン前会長の役員報酬計約50億円を記載しなかったとして先月(平成30年11月)19日に逮捕され、今月(平成30年12月)10日に起訴された。
さらに同日、15~17年度の計約40億円分も記載しなかったとして再逮捕されていた』(毎日新聞、平成30年12月21日号)

とされている。

金融証券取引法は、第197条第一項第一号において、

「同法第二十四条第一項の規定による有価証券報告書であって、重要な事項につき虚偽の記載のあるものを提出した者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」

と規定する。
東京地検特捜部は、この規定を根拠にして、カルロス・ゴーンを逮捕・勾留・起訴をしていることになる。

金融証券取引法第197条第一項第一号に該当する犯罪者は、以下の条件の全てを充たす者のことだ。刑法学では、犯罪構成要件該当性として論じられているものである。

1)有価証券報告書(法第24条第一項の規定によるものに限る)
2)重要な事項の虚偽記載
3)1)に2)の虚偽の記載があるもの(注.有価証券報告書のこと)を提出した者

この3つの犯罪構成要件が全て具備されてはじめて、金融証券取引法第197条第一項第一号の犯罪が成り立つ。換言すれば3つの犯罪要件のうち一つでも欠けているものがあるとすれば、犯罪そのものが成立しない。無実の罪、つまりは冤罪(えんざい)ということだ。
日産自動車株式会社の場合、1)の有価証券報告書は、毎年度、関東財務局長に対して、金融証券取引法第24条第一項に基づく書類であるとして提出されていることから明らかである。その旨は、ネットで公表されている有価証券報告書の最初の1ページの[表紙]の二行目に明記してある。
問題なのは、2)と3)の犯罪構成要件だ。これが欠けているのである。

(この項つづく)

―― ―― ―― ―― ――
ここで一句。

”解説者 彼の専門 何だっけ” -八女。鉄爺

(毎日新聞、平成30年12月22日付、仲畑流万能川柳より)

(カルロス・ゴーンについて、TV解説者や政治学者がトンチンカンなコメントをするのはご愛嬌だが、ヤメ検弁護士がしたり顔をしてしゃべっているのはいただけない。どのように変身しようとも、ヤメ検は、東京地検特捜部と同じ穴のムジナである。)

(注1)引かれ者の小唄。負け惜しみでする強がりのこと。-新明解国語辞典。
(注2)断末魔。だんまつま。(末魔は、梵語marman支節・死穴と訳す。体の中にある特殊の支節で他のものが触れれば激痛を起して必ず死ぬという。)息を引き取るまぎわの苦痛。-広辞苑。

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