「佐川君こそ官僚の鑑?」-補足1

 参議院財政金融委員会(平成29年3月22日)において、共産党の大門実紀史議員は次のような質問をしている。


「財務省にちょっと苦言を呈しておきたいんですけれども、国犯法と通則法は、それぞれ歴史も違いますし、経過も違いますし、立法趣旨、立法事実、そのときの背景ですね、違うんですよね。それを片方を廃止して一本化するというのは大変大きな改正なわけでありますけれども、なぜ一本化するのか、なぜ国犯法を廃止して通則法に入れるのかというそのことの説明が、活字になったものがどこにもないんですよね。
  ……
 これはちまちました項目の処置の変更ではありません。法律一本を廃止して一つの法律に編入するという大きな改正でありますので、なぜそういうことが国会で審議してもらうにあたって提案理由が一切ペーパーになっていないのかと、これ大変、私不思議に思うんですよね。
  ……
 それはあなたの答弁で、衆議院でも答弁されて同じことを繰り返しただけだけど、こういう大きな改正のときの国会に対する礼儀といいますか、当たり前のことなんだけれども、そういうことを言っているんですね。
 ちゃんと、今言ったことの、その答弁も変なんですよ。後で指摘しますけど、本当にそれが立法趣旨ということはそれでもいいですから、ちゃんとペーパーにしてくださいよ。議事録じゃなくて、ペーパーにしてくださいよ。(下線は筆者)」

大門実紀史議員は、提案理由をペーパーにして国会に提出すべきではないかと迫っているのに対して、星野次彦主税局長はしぶしぶながら次のように答えている。

「そのように対応させていただきます。」

 星野次彦・主税局長が口頭で答弁した提案理由も嘘八百のデタラメなものであったが、それ以上に私が驚いたのは、税務行政の根幹を変更する法改正の提案理由、あるいは立法趣旨が国会の場に文章(ペーパー)として提出されていないことであった。税務官僚による国会軽視以外の何ものでもない。
 星野次彦・主税局長は、財務金融委員会の場で、提案理由を文章にして提出する旨約束し、翌日(平成29年3月23日)の財政金融委員会に提出している。今からでも遅くない。財務省は、国会だけでなく国民に対してもその文章を公表すべきである。

 大門実紀史議員が、「法律一本(山根注、国犯法のこと)を廃止して一つの法律(山根注、国税通則法)に編入するという大きな改正」の提案理由(山根注、星野次彦・主税局長が口頭で行った答弁のこと)は、「変なんですよ」と指摘している。
 確かに変である。正確に言えば、“変である”ことを通り越して、嘘である。デタラメな答弁であるということだ。
 何故か?何がデタラメであるか。

 星野次彦・主税局長は次のように答弁。

「国税犯則調査の性質でございますけれども、刑事手続の代わりにやるというようなご指摘がございましたけれども、これは国税の賦課徴収という行政目的を実現するために行われる行政手続の一環でございます。(下線は筆者)」

とし、最高裁の判例(五十九年3月27日)、

国税の公平確実な賦課徴収という行政目的を実現するためのものであり、その性質は、一種の行政手続であって(下線部筆者)」

とする判例を引用している。

 星野次彦・主税局長は、犯則調査は刑事手続ではなく、行政手続きであること、その理由として、国税の公平確実な賦課徴収という行政目的を持った手続きであることとし、その見解を支持する最高裁判例を持ち出している。
 この答弁には明確な誤りがある。答弁の中にも、最高裁判の中にも出てくる、「国税の公平確実な賦課徴収」という言葉である。
 「公平確実な賦課徴収」という行政目的を有しているのは、国犯法の中の間接国税だけであって、法人税・所得税・相続税・消費税などのような直接国税ではない。「賦課徴収」を行うのは賦課課税方式とされている間接国税であり、申告納税方式とされている直接国税ではない。もともと「賦課」という言葉は賦課課税方式に特有のものであって、申告納税方式にはなじまない。
 国犯法の調査(国犯法第一条)が、間接国税の調査と直接国税の調査という全く異なった性質のものを一緒に規定していることから生ずる誤りである。答弁も、引用されている最高裁判例もともに、国犯法第一条の調査概念が二つあることを無視した暴論であり、明らかに誤っている。

 この点について、翌日の財政金融委員会の場に提出された「提案理由説明書」をもとにした答弁が改めてなされている。
 星野次彦・主税局長の答弁は、

「今般の犯則調査手続に係る規定の国税通則法への編入についてでございますけれども、まず国税通則法の目的規定がこの法律の一条に書かれております。国税についての基本的な事項及び共通的な事項を定めることを目的といたしまして、国税義務の成立時期、確定方法、納付・徴収手続、更正決定課税調査手続、不服申立てなど、国税に共通する基本的な事項を定めているものでございます。
 こうした国税通則法の目的を受けまして、今回、犯則調査手続につきましては、課税調査と同様に納税義務の有無等に関する事実について確認する手続であり、国税に関する共通的な事項を定める国税通則法になじむ」

としているが、誤りである。
 国犯法にもとづく犯則調査手続は、課税調査手続きと同様のものではない。全く異なるものだ。
 犯則調査は、犯則事実(脱税という犯罪の構成要件)を調査し、認定する手続であって、課税部門が担当する課税調査(課税標準・税額)の調査ではない。査察部門は、課税標準と税額を算定したり確定したりする職務権限を有しない。

 答弁の決定的な誤りは、国税以外の犯則調査手続にふれている下りだ。

「国税以外で犯則調査手続を定めております関税法、独立禁止法、金融商品取締法におきましても、それら犯則調査の権限や手続は行政調査に係る権限や手続と同じ法律に規定されているということを踏まえまして、私どもとしては法形式面の整備を行ったものだというふうに捉えておりました。」

 バカなことを言うもんじゃない!!関税法など3つの法律を持ち出してきて、これらの法律では、

「犯則調査の権限や手続は行政調査に係る権限や手続と同じ法律に規定されている」

のであるから、国犯法でも同じようにしたと言っている。国会議員をバカにした答弁である。いいかげんにして欲しい。

 何故か?
 たとえば関税法について言えば、罰条について、原則として通告処分が適用されることになっている。これは、国犯法の間接国税についてのみ適用される、通告処分(国犯法第14条から第17条)と同様のものだ。「私和」(「修正申告の落とし穴⑥」「修正申告の落とし穴⑨」)である。

 関税法は通告処分について、第百三十八条において、

「税関長は、犯則事件の調査により犯則の心証を得たときは、その理由を明示し、罰金に相当する金額及び没収に該当する物件又は追徴金に相当する金額(山根注、国税の行政罰としての重加算税及び刑事罰としての罰金に相当するもの)を税関に納付すべき旨を通告しなければならない」(関税法第百十八条第一項)

とし、更に、同条第三項においては、

「第一項の規定により通告があったときは、公訴の時効は中断する」

とし、同条第四項において、

「犯則者は、第一項の通告の旨を履行した場合において、同一事件について公訴を提起されない

としている。

 要するに、関税法にひっかかって摘発された場合には、税関長に言われた通りにお金さえ支払えば刑事告訴はしない、ということだ。文字通り「賦課徴収という行政目的」に合致した法規定である。所得税・法人税などの徴税現場で現在実行されているような、行政罰としての重加算税をとった上に、更に刑事被告人という汚名を着せて刑事罰として懲役刑を課し、脱税額の約30%くらいの罰金までとっている状況とは全く異なっている。
 関税法の規定と同じようにした、などといった、見えすいた嘘がよく言えたものである。

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