013 返済能力の証明-重要争点 その4

***5、返済能力の証明-重要争点 その4

 

****一、限定思考から真相の円へ



 ここで申し上げたいことを端的に言えば、限定の小円から真相の大円へ思考を拡大するということです。図1で示すように、大円まで思考を拡げて資料を作成した時はじめて、本件の真相が明らかとなるということです。本項の目的は、返済能力を考えるにあたって斜線部以外のところも入れて考えなければならないことを明らかにすることにあります。



 検察は、故意に斜線部だけで捜査資料を作成し、返済能力がないかのようにトリックを弄しました。検察のトリックは、返済能力がないように改竄したことをもってその最高峰となすわけです。よくもここまでのトリックができたものだと、思わず感心してしまいました。しかし、他の状況からみてそこまで頭の切れる検事は本件においてはいなかったようですので、偶然うまくトリックができたのでしょう。自分たちに有利になるように改竄していくうちにうまくトリックができたものと思われます。私でさえ一瞬、彼らのトリックを看過してしまうところでした。

 しかし、「現実の真相」と検察の主張とは全く違うわけであり、私には真相という何ものもおかすことのできない味方があったわけです。「真相とちがう資料なのだから、必ず、どこかに穴があり、トリックは見破れる」、これが私の信念でした。



 私は、アキレスと亀のパラドックスを思い浮かべながら考えていきました。思考を拡げていくよう自分に言いきかせました。アキレスと亀のほんの数メートル、ほんの数秒の現象をとらえ、あたかもそれが永久に続くかのごとく説明した詭弁、これと同じことを検察はやってきているのですから、「返済能力」についても同じことをやっているに違いないと思いました。そして、全ての謎が解けていき、トリックを見破ることができたのです。

 アキレスが1m進むと亀は2分の1m先へ進む。アキレスが2分の1m進むと亀は4分の1mさらに先にいる。大詭弁家ツェノンは、このようにして永久にアキレスは亀に追いつけないと主張したわけです。しかし、これが詭弁であることはいまや微積分の基礎において数学的に証明されています。これが、わずか数秒間、数メートルの間でのみ通用する理屈であることはすでに第二、各論の冒頭で述べました。

 本件における検察側の主張はまさに、このアキレスと亀のパラドックスと同じです。100あるものの内の10くらいしか表に出さず、あたかもそれが全てであるかのように装って捜査資料を作成していったのです。そして、山根公認会計士の意見書にもあるように、実に約150億円もの未処理額(会計上確定しない額)に目をつぶったまま、やみくもに結論づけていったわけであります。検察の作成した資料を精査しただけでも、返済すべき金額と現資産との差額は、最大時の59年8月でさえ29億円しかなく、この29億円だけが計数的に証明できないにすぎないわけです(他の資料を使うことで、結果として返済能力を証明できた)。それにも拘らず会計上の未処理の金額が約150億円もあるというのでは、およそ検察は返済能力の有無についての立証責任を放棄したとしか言えません。あるいは裁判所側がバランスシートの知識がないとタカをくくり、ごまかせると思い愚弄しているのです。
 とはいえ、今の私には検察の資料にもとづいて反証するしかなく、会計上問題点の多い資料ではありますが、検察の資料を使い客観的に証明することとします。検察の資料のいいかげんさは改めて付論で詳しく述べさせていただきます。ここでは、不完全なものではありますがそれしかありませんので捜査資料によってパラドックスの解明をいたします。検察は返済能力がないとこじつけるためにどのように勝手な限定をしたのかを一緒に考えてみてください。
 アキレスと亀のパラドックスは、スタートから数秒間、数メートルに限定したのでした。検察はバランスシートの中において限定思考を繰り返し、「返済能力がない」とこじつけたのです。

 図1を見てください。本件事件の全ての損益、資産、負債というものが大きな円であり、その極限といたします。アキレスと亀のパラドックスで考えるなら、アキレスがもう走れなくなるまで、亀がもうフウフウいって前へ進まなくなるまでです。この大きな円全部が本件の真相であり、損益であり、資産であり、負債であり、返済能力なわけです。
 ところが検察は、この中から勝手に合算10社というものを選び出し、かつ合算10社の中でも、手持ち現金、手持ち株を無視し、限定思考を裁判所に押しつけようとしたわけです。ツェノンが古代ギリシャで、アキレスと亀のパラドックスにより長老を煙にまいたに等しい一大詭弁をやるために、勝手な思考の限定をしたわけです。数m、数秒だけの説明をするために背景を限定したわけです。簡単なことのようですが、ここまで解くことが検察のトリックを解くための90%と思ってください。膨大な資料を見せられることによって「合算10社」で全てのことと錯覚をさせられようとしたのは私だけでなく、おそらくみんながそうであったのではないでしょうか。斜線部分が検察の限定思考です。真相をつかむためには、斜線部分以外を見つめねばなりません。

 それでは何が抜けているのかといいますと、合算10社内においては、
+会社の手持ち株(どこにも担保に入れなかった株券)や手持ち現金。
+グループ間振替で相殺されてしまった部分。
+バランスシートの借方貸方を悪用した隠し数字。
 合算10社以外においては、
+合算10社に含まれていないグループ会社の資産、負債。
+中江の手持ち株。
+中江の手持ち現金及び銀行預金。
+中江のその他の資産。

 そして、合算10社も含めた全てのグループのソフト資産です。無形固定資産、商法上認められているノレン代、研究開発費等、その他まだまだありますが、大きなところはこんなところです。
 この中から数点を選び出し、逆算もしくは計数的思考を加えるだけで、合算10社を限定してみていた時とは全く違う結論にいたるのです。そして、それこそが真相なのです。私は限られた資料の中で返済可能な資産の存在を証明しなければなりませんでした。しかし数字は私を見捨てませんでした。検察の作成し捜査資料からでも十分に返済能力を証明することができたのです。

****二、五段階のプロセス

 本項では、返済能力を客観的に証明するために、五段階のプロセスをふみます。客観的、計数的に証明します。思考の方向性としては合算10社だけの限定思考から、真相の円(大きな極限の円)にできるだけ近づくように、検察の資料を逆探知していったということです。
 私は、本件の真相を証明するにはとりわけ計数的思考を必要としますので、はたして理解してもらえるであろうかと不安でした。ところが、準備手続きの時に裁判長が、みんなの前で数学の集合の考えを白板に書きながら説明されるのを見て、これなら本件の真相を数字で客観的に証明していけば、理解してもらえると安心したものでした。数学とはまさに集合なのです。この真相の円は集合の考え方です。全てにそれぞれがふれあい、重なりあっているのです。経済ですので、それは資産・負債という形で重なっているのです。そして、その典型がキャッシュ(現金)であり、シェアー(株券)というものです。それぞれの円の集合が、真相の円となるのです。重なりあった部分のキャッシュとシェアーの分析により、真相により一層近づく円となっていくのです。
 各論の5,の証明に入る前にくどいほど前置きをしましたのは、裁判長が検察の限定思考のワクにはめられてしまっておられてはいけないと思ったからです。アキレスと亀のパラドックスの数m以内数秒内の説明が、まさに検察が提出してきた限定合算10社の資料なのです。
数m内数秒内をみればなるほど、その範囲内では一つの理屈です。しかし、全体としては決して真理ではないのです。本件の真相は、大きな円にあるわけであり、合算10社の小さな円で考えては、だまされますよと言っているのです。

****三、限定思考と思考の拡大

 とにかく、説明を聴いていただく前に、この大きな真相の円を頭におき思考を拡げてください。もう一度、図1を見てください。大きな円こそ真相なのです。ところが、検察は斜線の部分だけを論じているのです。正当な返済能力を考える時、斜線部分以外も組み入れて考えねばならないことは説明するまでもありません。この図を理解していただくなら、検察の資料、調書、起訴、論告が勝手に範囲を限定してなされた詭弁であることを納得いただけるとともに、斜線部分以外のところを斜線部分の捜査資料に加えていくことにより、真相に近づいていくことがわかってもらえると思います。それは、あたかもアキレスと亀のパラドックスにおいて、一時間後あるいは100m後のアキレスと亀の位置を考えることにより、真相が明らかになるのと同じことです。数字の集計を10社に限定し、中江が親金融に支払った金利と中江の一部の株式取引のみを加えた検察のやり方は大詭弁であったのです。この各論の5によって、検察のトリックを計数的客観的に暴いてみせます。アキレスと亀のパラドックスを数学的に見破った微積分を考え出した数学者のように。

(つづく)

001 相場師中江滋樹の弁明-目次等

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