査察Gメンを犯罪人として告発!!-⑬
- 2016.05.10
- 山根治blog
判例6.(承前)
賦課課税方式の物品税の納付すべき税額の確定については、当時(昭和29年)法文上明記されていなかった。そのため、判例6.は、国税徴収法第六条を持ち出して、「税務官署は納税人に対し申告にかかる納金額及び納期日を告知するものである」から、納付すべき税額と納期日とを告知することが法律によって定められている、といった解釈に至ったものであろう。
この点について、その後に成立した国税通則法(昭和37年)では、解釈をさしはさむ余地がないほど明確に規定されるに至った。
即ち、同法第36条第1項第1号で、「賦課課税方式による国税を徴収しようとするときは納税の告知をしなければならない」として、同法36条第2項で「納税の告知は税務署長が、納付すべき税額、納期限及び納付場所を記載した納税告知書を送達して行う」と明瞭に規定して、解釈の余地を塞いでいる。
ここでもう一度判例6.を振り返ってみると、この事件では、告知された納金額は納期日までにキチンを納めているが、「本来納入すべき額」を納めていなかった、として、その脱漏分について納期日が徒過したのであるから、逋脱行為は既遂となるとして「詐偽その他不正の行為」(逋脱行為)を認定していることが判明する。
つまり、「告知された納金額」とは別に、「本来納入すべき額」はすでに客観的に決っており、「告知された納金額」と「本来納入すべき額」との差額が脱税額であるというのである。
たしかに、賦課課税方式の物品税においては、
+課税物件が、第一種甲類、乙類、合わせて12の物品に、第二種甲類、乙類、丙類、丁類、戊類、己類、合わせて55の物品に、第三種として3つの物品に、それぞれ細分化されて明示され、
+課税標準が、販売価格(小売業者の場合)、物品価格(製造者の場合)と明示され、
+納税義務の成立が、販売時(小売業の場合)、販売移出時(製造者の場合)と明示され、
+納期日についても、
「物品税ハ第一種ノ物品ニ在リテハ毎月分ヲ翌月末日迄ニ第二種及第三種ノ物品ニ在リテハ毎月分ヲ翌々月末日迄ニ納付スベシ」
と明示されている。
上記、1.2.3.4.のように、課税物件、課税標準、納税義務、納期日がそれぞれ具体的かつ一義的に明示されているのであれば、判例6.の言うように、
を観念することができる余地があり、従って
ということもできるであろう。
但し、これはあくまでも物品税に限って言えることであって、他の税目、例えば所得税とか法人税には無縁である。
判例6.についてこれまで指摘したことを前提として、
とする結論について考えてみることにする。
まず物品税における逋脱罪は、
に適用されるものであった。
即ち、物品税を「逋脱シタル者」だけでなく、「其ノ逋脱ヲ図リタル者」にも適用される犯罪であった。法文から明らかなように、「詐偽其ノ他不正ノ行為ヲ以テ」というフレーズは、「逋脱シタル者」だけでなく、「其ノ逋脱ヲ図リタル者」にもかかっている。
一方、「逋脱ヲ図リタル者」とは、「税を免れた者」ではなく、「税を免れようとした者」のことであり、
を意味する。これは刑法で規定されている未遂犯のことだ。「査察Gメンを犯罪人として告発!!-⑥」で触れたところである。
これは一体何を意味するのか?物品税(間接税)の逋脱罪には、
という犯罪構成要件が入っていないのではないか。あるいは入っていたとしても、所得税法か法人税法で規定されている罰則でいう「税を免れたこと」とは全く異った概念が持ち込まれているのではないか。
つまり、直接税で規定されている「税を免れたこと」とは一切関係なく、逋脱犯が規定されているのではないかということだ。
物品税法は、当初(昭和15年3月29日法律第40号)、(脱税犯)第十八条とし、判例6.が依拠した物品税法(六法全書昭和36年版.有斐閣)においては、第十八条(逋脱)として、罰則を定めている。
ここに逋脱(ほだつ)とは、
の謂(いい)であり、脱税といい、逋脱といい、税を免れることに変りはない。
つまり、物品税法の罰則は、税を免れる罪を規定していながら、いまだ税を免れていない者(逋脱を図りたる者)をも射程に入れている訳で、この第十八条の規定自体が論理矛盾をきたしている。
従って、肝腎の「税を免れたこと」という犯罪構成要件が欠落したものであったのではないかという疑念が生ずることにもなるのである。
どうもこのあたりに、金子宏氏が「租税法」第十八版(弘文堂)において、「税を免れたこと」という構成要件をスッ飛ばして、脱税犯の既遂時期の問題にスリカエたカラクリが潜んでいるようである。
―― ―― ―― ―― ――
ここで一句。
(“今日もまた妻の小言に石になる”-生活の知恵)
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