国税マフィアの闇-⑥

 なんともド派手なことをやらかしたものである。

 福岡県警本部長が福岡国税局とタッグマッチを組んで、九州の鬼退治とばかりに、伝家の宝刀ならぬ、これまで一度も使ったことのない竹光(たけみつ。竹を削って刀身に代えたもの。-新明解国語辞典)を大上段に振りかざして、満天下に向って大見得を切ったのである。平成の桃太郎を気取った、キャリア官僚の猿芝居(さるしばい。下手な演劇や、すぐ種のわかるあさはかなたくらみの称。-新明解国語辞典)である。『平成27年6月16日、福岡県警特別捜査本部は、特定危険指定暴力団「工藤会」(本部・北九州市)野村悟総裁(68)、工藤会の金庫番で同会の山中政吉幹部(64)ら3人を、所得税法違反(脱税の罪)容疑で逮捕した。
 逮捕容疑は、野村容疑者は山中容疑者らと共謀し、2010年~13年、個人所得のうち約2億2700万円を除外して申告し、所得税約8800万円を免れたとしている(過少申告)。』 以上は、平成27年6月17日付の毎日新聞が報じた記事を要約引用したものだ。各紙が一斉に報じた中で、毎日新聞の記事がもっとも詳しくかつ具体的であった。

 以下の論評は毎日新聞の記事が正確なものであると仮定して行うものとする。上記以外の情報も全て、毎日新聞の記事によるものである。

 福岡県警による脱税容疑での逮捕劇、結論をいえば空振りである。吉田尚正・福岡県警本部長は、暴力団特有の上納金システムにメスを入れ、脱税で摘発したのは全国で初めてのリーディング・ケースであると胸を張っているようであるが、完全な勇み足であり、後で述べるように無知蒙昧(むちもうまい。知識・判断力を全く欠如していること。-新明解国語辞典)のなせるワザだ。
 福岡県警は昨年9月、組織犯罪処罰法違反容疑で家宅捜索をした際に、上納金の使途を記載したメモを押収し、これを脱税の有力な物証と考えているようであるが、的外れである。
 まず、福岡県警は犯則事件(脱税事件)を捜査する職務権限を有しないことに加えて、別件の家宅捜索で押収した「メモ」は刑事裁判上の証拠能力に欠けていることだ。
 仮にこの「メモ」に証拠能力があったとしても、脱税の犯罪証明には全く関係がない。

 これまでたびたび述べてきたように、脱税という犯罪が成立するためには二つの犯罪構成要件が必要だ。
  一つは、「偽りその他不正の行為」と
  二つは、「税を免れたこと」、
この二つである。
 この二つの要件を充足することは、現在の法体系からすれば不可能だ。福岡県警が鬼の首でもとったように喧伝している、上納金の資金使途を記した「メモ」など、屁のツッパリにもならない。
+国税通則法
+各種税法
+国税犯則取締法
+財務省設置法
+刑法
+刑事訴訟法
 これら6つの法律がバラバラであり整合性がないからだ。つまり、上記6つの法律を前提とする限り、「偽りその他不正の行為」と「税を免れたこと」という2つの犯罪構成要件を成立させることが不可能であるということだ。

 査察部(俗にマルサ)には犯則事件(脱税事件のこと)を捜査する権限はあるが、課税する権限はない。課税権を有しているのは所轄の税務署長だけだ。このことは、財務省設置法と国税通則法によって明確に定められている。
 ところが、査察部は課税権(課税標準の調査権)をも有しているかのように振る舞って納税者国民を欺いてきた。上記6つの法律の矛盾点を糊塗するためである。
 まして今回は査察部ではなく、警察が前面に乗り出している。警察は課税権はもとより、犯則事件の捜査権(国税犯則法にもとづく質問・検査・領置、臨検・捜索・差押え)をも有していない。さきに県警本部長の勇み足であり、無知蒙昧のなせるワザと称したのはこのことだ。

 いずれにせよ、大見栄を切って工藤会のトップを逮捕したのであるから、福岡地検に送検し、福岡地検は起訴するであろうが、仮に起訴されたにしても、裁判で有罪にすることはできない。そもそも犯罪の事実(犯則事実)そのものが、はじめから欠落しているからだ。

 ほどなく、この事案は課税部門である所轄の小倉税務署に回されて課税手続きに移行する。この段階で、6つの法律間の矛盾点が白日のもとに晒(さら)されることになる。

 逮捕された本人が、「何故脱税になるんだ!」と怒っているらしいので、本人が脱税を認めた上で自ら修正申告をすることはないものと考えてよい。
 とすれば、過少申告であることを確定するには、小倉税務署長の職権による「更正処分」によるしか方法がない。
 つまり、小倉税務署長による「更正通知書」が、近く工藤会の野村総裁宛に発せられることになるはずだ。
 しかし、この「更正通知書」は内容虚偽のものであることを免れない。小倉税務署長が更正処分をするためには適法な調査をすることが絶対的要件とされている(国税通則法第24条)にもかかわらず、適法な調査を行っていないからだ。警察の捜査はもとより、査察調査をもって税務署長の調査に変えることはできないのである。
 小倉税務署長は、「更正通知書」を発した時点で、適法な調査をしていないにも拘らず、適法な調査をしたかのように偽って、内容虚偽の公文書を作成・行使したことになり、「虚偽有印公文書作成・同行使」(刑法156条、158条)の罪に、福岡県警本部長、福岡国税局の査察担当者はその共犯に問われる可能性がある。内容虚偽の「更正通知書」は、査察部署と課税部署がタッグマッチを組んで行った陰湿な偽装工作によるものであるだけに悪質極まりないものだ。

(この項つづく)

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 ここで一句。

”我が軍に八紘一宇次は何?” -君津、春の小川

(毎日新聞、平成27年6月14日付、仲畑流万能川柳より)

(国体の護持あたりでは?いよいよ戦前の治安維持法の時代に突入か。)

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