大塚家具の親子ゲンカ-⑧

 資本の概念が大幅に変り、つれて株式市場、ことにIPO(新規上場)のあり方が大幅に変った。以前に較べて上場することが容易になった反面、株式市場を通じて不正にあるいは不当に資金を調達することが容易になった。

 ホリエモンのように、「金がすべて」、「どんなことをしてでも儲ければ勝」といった拝金主義に凝り固まった人物が株式市場に殺到することになったのである。ソフトバンクの孫氏も、楽天の三木谷氏も共に、法に触れるような粉飾決算こそしていないようであるが、それぞれの会社の決算書を見るとホリエモンのライブドアと似たりよったりだ。

 私は、「ホリエモンの錬金術」を執筆していた頃から、光通信、ソフトバンク、楽天の有価証券報告書をネットから引っぱり出して分析していたのであるが、あまりのヒドさに気分が悪くなり、このごろは見ることさえ嫌になってやめてしまった。M&Aと称して次から次へと会社を買収し、見せかけの利益を積み上げていく、しかもその買収資金は自ら稼いだものではなく、濡れ手に粟とばかり株式市場もしくはファンド市場から引っぱり出している。マネーゲームである。その結果、総資本(負債+資本)は増える一方だ。
 大口資金の出し手である機関投資家(ファンド)とすれば、投下した資金の投資効率を求めるのであるから、いきおい総資本のうちの資本に意識が集中することになる。投資した会社の収益の良し悪しを見極めるのに、この資本を基準とする考えが一般的になったのは以上のような理由からだ。
 ここに指標として出てくるのがROE(Return on Equity Ratio.自己資本利益率)だ。このところ日本経済新聞の一面に、ROEの極大を経営目標に切り換えた大手企業の記事が頻繁に登場しているが、これなど機関投資家(ファンド)の意向を忖度したヤラセ記事の類(たぐい)だ。上場企業の経営者は、投資効率を求める機関投資(ファンド)の思惑に引きずられて、資本に対していくらの利益を挙げることができるか、これを最大の経営目標とするように仕向けられているのである。

 言うまでもなく、企業を取りまく利害関係者は機関投資家(ファンド)だけではない。従業員、取引先、消費者、地域社会、国、地方公共団体、など多くの利害関係者に取りまかれ、それらのバランスの上で成り立っている存在、それが企業だ。決して、お金の見返りだけを求める機関投資家(ファンド)だけのものではないのである。
 ROEの極大を企業目標に揚げるとすれば、しかもこの場合のE(Equity.自己資本)をいつの間にか「株主資本」と言い換えているのであるから、機関投資家(ファンド)以外の従業員、取引先、地域社会などの重要な利害関係者は二の次三の次の存在となりかねない。お金が全て、あるいは見せかけであろうがともかく利益をあげることが先決といった経営に堕してしまうことになる。

 大塚家具の大塚久美子社長の場合はどうか。彼女は、ROEの極大を企業目標に掲げながら、更に踏み込んで、DOE(Dividend on Equity Ratio.株主資本配当率)を株主還元策、つまり配当の算出根拠にすると公言している。すでに述べた(「大塚家具の親子ゲンカ-⑤ 」参照)ように、直近の決算において彼女が何をしているかと言えば、なけなしの特定投資株式を売却し含み益をはき出して決算書の身づくろいをし、資金繰りでは2~3年分の配当源資を工面しただけのことだ。このような姑息な小手先のゴマカシを行ない、従業員をはじめとする多くの利害関係者を無視、あるいは足蹴にするような経営など長続きするはずがない。

(この項つづく)

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 ここで一句。

”半分は運だと思うノーベル賞” -東京、ひねのり

 

(毎日新聞、平成27年4月4日付、仲畑流万能川柳より)

(運ではないよ、ヤラセだよ。)

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