民主党政権の置き土産-偽りの査察調査-③
- 2013.09.17
- 山根治blog
税務調査の手続きに関連して、法律が改正されたことについては前回述べたところである。
その中に一つだけ、おそらく立法当事者が当初は予期していなかったものが仕込まれていた。それは、何か?
税務当局が行なう調査のことを「税務調査」というが、従来はその「調査」がどのようなものであるかについて、明確な規定がなかった。
それがこのたびの国税通則法の改正で新たに第74条の二等が新設され、調査とは「実地の調査」であることと、「実地の調査」の具体的な手順が法律で定められた。課税処分ができる調査は「実地の調査」によるものとされ、改正法についての通達(「法令解釈通達」「事務運営指針」、平成24年9月12日付)によって、調査(行政処分)と行政指導とが峻別され、「実地の調査」ではない、書類調査、内部調査、内偵調査など納税者と直接接触しない「調査」によっては課税処分ができないことが明確に定められたのである。
この「実地の調査」の規定は実のところ、通常の税務調査に関する限り、従来の実務慣行を法文化しただけのもので、何ら特別な変更がなされた訳ではなかった。
税務職員が従うべき詳細な事務手続マニュアルがある。彼らの、いわば「虎の巻」だ。
一般に公表されてはいないので、行政文書開示請求によって入手し、手許に置いてある。法人課税事務提要や個人課税事務提要である。
それによれば、「実地調査」、あるいは「実調」としてこと細かに具体的な手続きが指示されており、課税処分をするための「調査」が「実地調査」であることが当然のこととされている。
つまり、通常の税務調査については、「実地の調査」であることが法律上念を押されただけのことであって、実務の上では何ら変更されたところはない。即ち、従来の運用上の取り扱いが、法令上明確化されただけのことだ。
ところが、通常の税務調査ではない査察調査については様相が一変する。
査察は、国税犯則取締法(俗に、コッパン法)にもとづく税務調査である。脱税の疑いがある者を取り調べ、刑事告発することを目的としている。専ら刑事処分をその職務としており、課税処分は職務外のことだ。つまり、法の建前としては査察は刑事処分を行なうことができるだけで、課税処分を行なうことはできないのである。
しかし、これまで長い間査察は、徴税権力の頂点に位置し、刑事処分だけではなく、課税処分をも堂々と行なってきた。刑事告発をするだけでない。してはいけない、あるいはすることができない課税処分をも敢えて行なってきたのである。違法行為であり、不法行為である。
国民からカネを取り上げた上に、ブタ箱にぶち込むことができるというのであるから、権力としてはオール・マイティである。厚顔無恥な政治家を震え上がらせ、辣腕経営者を不眠症に追い込み、強面(こわもて)のヤクザの親分を猫のように手なづけてきたのも、全てこのような強大な権力が背景にあったからだ。
だが権力といっても真実の権力ではない。与えられていない偽りの権限を、与えられているかのように装ってふりかざす『幻の権力』だ。国民を騙してきたのである。
査察がこれまで、逮捕権をもっている検察とグルになって上記のようなトンデモない不法行為をしていたとは、私を含めてほとんどの人が知らなかったことだ。
インナーと称する自民党の国税マフィアをはじめ、一部の財務官僚は知っていながら固く口を閉ざしてきたものと思われる。正力松太郎とか中曽根康弘、渡邉恒雄などの原発マフィア(死の商人)が、危険極まりない核兵器工場を、安全かつ経済的な発電所であると偽って、長い間日本国民を欺いてきたのと変るところがない。
国税マフィアが、査察調査が偽りであることを知悉していた歴然とした証拠がある。国犯法が明治33年(1900年)に制定されてから基本的な改正がなされていないことだ。大日本帝国憲法下に成立した古色蒼然としたシロモノが、110年以上経過した現在でも手が付けられないままで放置されているのである。
ズバリ言えば、手を付けようにも手が付けられない、つまり、法律の改正ができないのである。国犯法の改正に着手した途端に、法律の矛盾が露呈することになりかねない。日本国憲法とシャウプ勧告によって戦後導入された申告納税制度を念頭に置けば、国犯法の直接税に関する部分は法律そのものが矛盾しているということだ。現行憲法、刑法、刑事訴訟法、国税通則法(申告納税制度)、各種税法を前提とする限り、現行の査察制度そのものが成立する余地がなくなるのである。戦後一貫して続いてきた査察制度の否定である。
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ここで一句。
同じ川柳子の句をもう一句。
(臨場感溢れるセンスに感服。)
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